家族が逮捕されたと連絡が来た|最初の24時間にやること
駅の改札前で呼び止められた。店の通路で声をかけられた。あるいは、通りかかった警察官に「ちょっとスマホを見せてもらえますか」と言われた。盗撮を疑われる場面は、多くの場合こうして予告なく始まります。
このとき、頭が真っ白になったまま、言われるがままに画面を開いてしまう方もいれば、反射的に断って押し問答になってしまう方もいます。どちらも、その後の展開に影響します。
ここで整理しておきたいのは、「見せてください」という一言の中に、法的にはまったく性質の違う三つの求めが混ざっているということです。そして、誰がそれを求めているのかによっても、できることの範囲が変わります。この記事では、その場で判断の軸になる考え方を、条文と判例に沿って整理します。
まず確かめたいのは「誰が求めているのか」
私人が求めている場合
周囲の乗客、被害を訴えている方、駅員、店員、警備員、店舗の責任者。これらはいずれも私人です。私人には、捜索や差押えの権限がありません。スマホの提出を強制する権限も、中身を確認する権限も、データを削除させる権限も、法律上は与えられていないということです。
現行犯であれば、私人であっても逮捕することはできます(刑事訴訟法213条)。ただし、その場合は直ちに検察官または司法警察職員に引き渡すことになっており(同法214条)、逮捕できることと、持ち物を調べられることは別の話です。
実際には、店舗のトラブルなどで、その場で端末の中身を確認され、データを消されたという相談が寄せられることがあります。相手にその権限がなかったとしても、消えてしまったデータは戻りません。そして、消された経緯が後から争点になることもあります。
警察官が求めている場合
警察官の場合は、その求めが任意の段階なのか、令状に基づくものなのかで意味が変わります。
任意の段階であれば、応じるかどうかは本人が決めることです。一方、捜索差押許可状を示された場合や、逮捕された場合には、令状によらない差押えが認められる場面もあり(同法218条1項、220条1項2号・3項)、拒むことはできません。
最初に確認したいのは、令状があるのかどうかです。示されていないのであれば、その時点ではまだ任意の求めだということになります。
| 求めている相手 | その人にある権限 | 断れるか | 応じた場合に残るもの |
|---|---|---|---|
| 周囲の人・被害を訴えている人 | 提出させる権限も中身を見る権限もない | 断れる | 相手の記憶と証言、撮影されれば画像 |
| 駅員・店員・警備員 | 同上(施設の管理と刑事手続は別の話) | 断れる | 社内の報告記録、防犯カメラの映像 |
| 店舗の責任者 | 同上 | 断れる | その場で書かされた一筆、取り決めの内容 |
| 警察官(任意の段階) | 求めることはできる(強制には令状が必要) | 断れる | 任意提出書、領置調書、やり取りの記録 |
| 警察官(令状の提示・逮捕後) | 令状等に基づく差押えができる | 拒めない | 押収品目録交付書 |
求められているのは「見せる」「渡す」「解除する」のどれか
同じ「スマホを出してください」という言葉でも、実際に求められている行為は次の三つに分かれます。この区別をしないまま応じると、自分が何に同意したのかが曖昧になります。
| 求められている行為 | 内容 | 断れるか | 端末は手元に残るか |
|---|---|---|---|
| 見せる | 画面を示す、特定の画像を確認してもらう | 断れる | 残る(ただし見た内容は記録され得る) |
| 渡す | 端末を提出し、警察が領置する | 断れる | 残らない |
| 解除する | パスコードを伝える、生体認証で開く | 断れる | この行為自体では変わらない |
「見せるだけなら」と思って画面を開いたつもりが、そのまま提出の話になり、さらにロック解除まで進むという流れは珍しくありません。段階が変わるたびに、今どの段階の話をしているのかを確認することが、後から経緯を説明するうえでも意味を持ちます。
「見せてください」=所持品検査という枠組み
根拠となる条文と判例
警察官が路上や駅で声をかけて質問することは、警察官職務執行法2条1項の職務質問にあたります。同条3項は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束されたり、意に反して連行されたり、答弁を強要されたりすることはないと定めています。
もっとも、持ち物を調べることについては、警職法に明文の規定がありません。この点について最高裁は、所持品検査は職務質問に付随して行うことができる場合があるとしたうえで、所持人の承諾を得てその限度で行うのが原則だと述べています(最高裁昭和53年6月20日判決)。
同じ判決は、承諾がない場合でも、捜索に至らない程度の行為であって強制にわたらない限り、必要性・緊急性と、侵害される個人の法益および保護されるべき公共の利益との権衡を考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度では許される場合があるとしています。この事案で適法とされたのは、施錠されていないバッグの開口部を開けて中を一瞥した行為でした。
スマホの中身は同じ枠で語れるのか
ここで注意が必要なのは、この判例が扱ったのが物理的な持ち物だという点です。かばんの中を一目見る行為と、写真、通信履歴、位置情報、決済記録までが入った端末の中を見る行為とでは、プライバシーへの影響の大きさが異なるという指摘があります。
スマホのデータ閲覧について、この判例と同列に扱ってよいかを正面から判断した最高裁の判断は見当たりません。だからこそ実務では、本人の承諾を得るかたちで進められることが多いといえます。逆にいえば、承諾をどう与えたかが後から問題になり得るということでもあります。
「承諾の範囲」という考え方
承諾には範囲があります。「今日撮った写真だけ」と「アルバム全体を見てもらってかまわない」とでは、意味が違います。曖昧なまま端末を手渡すと、どこまで見てよいと言ったのかがはっきりしなくなります。
もし見せることを選ぶのであれば、どの範囲について了解したのかを、その場で言葉にしておくほうがよいでしょう。「この一件について確認していただくために見せます」と伝えるのと、無言で渡すのとでは、後から経緯を説明する際の説得力が変わってきます。
「預からせてください」=任意提出と領置
任意で出しても、返してもらうには手続きがいる
本人が任意に提出した物を警察が保管することを領置といいます(刑事訴訟法221条)。犯罪捜査規範109条は、領置にあたってはなるべく提出者から任意提出書を提出させたうえで領置調書を作成し、押収品目録交付書を交付するものとしています。
ここで誤解が生まれやすいのですが、領置も押収の一種です。「任意で出したのだから、返してほしいと言えばすぐ返ってくる」というものではありません。返還には還付の手続が必要で(同法123条1項、222条1項)、捜査上の必要がなくなるまでは手元に戻らないのが通常です。
どのくらいで戻るかは事案によります。解析の内容や、事件がどこまで進んでいるかによって変わり、数か月に及ぶことも珍しくありません。口頭で示された見込みは、あくまで見込みであって約束ではないという前提で考えておくほうが安全です。
押収品目録交付書を受け取る
押収された場合には、押収した物の目録が作成され、交付されます(同法120条)。手元に渡されていないようであれば、押収品のリストをいただけますかと尋ねてかまいません。
この書面には、担当する警察署や担当者、事件の受理番号などがわかる情報が含まれます。後から弁護士に相談する際、この一枚があるだけで話が早く進みます。渡された書類は、内容を確認したうえで保管しておいてください。
断ったらどうなるのか
任意提出を断ること自体は、法律上できます。ただし、断れば話が終わるとは限りません。捜査機関が必要と判断すれば、令状を請求して差押えに進むことがありますし、逮捕された場合には逮捕の現場で令状によらない差押えが行われることもあります。
つまり、断るという選択は「端末を守る」ことと必ずしも同じではありません。一方で、断ったことだけを理由に不利な扱いが確定するわけでもありません。その場でどちらが有利かを一人で決めきるのは難しいという前提で、判断材料を確認することが先になります。
その場で署名を求められる三つの書面
任意提出書
自分の意思で提出したことを記録する書面です。署名すると、その端末は領置され、返還には手続が必要になります。
所有権放棄書
任意提出書とは別の書面です。検察庁の証拠品事務規程には、所有権放棄に関する照会書や、電磁的記録に係る権利放棄書の徴収についての定めが置かれています。
この書面に署名すると、返してもらうことを前提とした立場を手放すことになり得ます。実務上、放棄書が作成されている場合には、そのまま処分され戻ってこないという説明をしている法律事務所もあります。提出の書面と放棄の書面が同じ流れで出てくることがあるため、何の書面なのかを一つずつ確かめる必要があります。
上申書・供述調書
その場の経緯や、今後についての言葉を書面にすることを求められる場合があります。短い文章であっても、後から事件の記録として扱われます。内容に納得できない部分があるまま署名すると、後で「そのとき自分で書いている」と指摘される材料になります。
- この書面は何のためのものかを尋ねる
- 提出の書面なのか、放棄の書面なのかを区別する
- 書かれている内容を読んでから署名する
- 違うと思う部分は、その場で訂正を求める
- 署名した書面の控えや目録を受け取る
「ロックを解除してください」と言われたら
伝える義務は定められていない
電磁的記録が入った機器を差し押さえたり捜索したりする際、捜査機関は「電子計算機の操作その他の必要な協力を求めることができる」とされています(刑事訴訟法111条の2、222条1項)。
ここで押さえておきたいのは、この規定に従わなかった場合の罰則が置かれていないことです。憲法38条1項は自己に不利益な供述を強要されないことを定めており、被疑者の取調べにあたっては供述を拒むことができる旨を告げなければならないとされています(同法198条2項)。パスコードを伝えないという選択それ自体が違法になるわけではありません。
伝えない場合に起きうること
一方で、伝えないことに何の影響もないとは言えません。実際には、次のような点が指摘されています。
- 解析に時間がかかり、端末が戻るまでの期間が延びることがある
- 罪証を隠そうとしていると受け止められ、身柄の判断に影響する材料と見られることがある
- その後の説明との整合が問われる場面が出てくることがある
どちらを選ぶかは、事案の内容と、これまでにどこまで説明したかによって変わります。一律にどちらが正しいと言える性質のものではありません。判断に迷う段階であれば、その場で結論を出さずに相談することも選択肢に入ります。
顔認証・指紋認証は別に考える必要がある
パスコードを口頭で伝える行為と、顔や指紋で開く行為とでは、法的な位置づけが同じかどうかについて議論があります。前者は自分の記憶を述べることに近く、後者は身体的な特徴を利用する行為だという整理がされる一方で、生体認証への協力をどこまで求められるかについて確立した判断が示されているとは言い難い状況です。
この点を断定的に説明している解説も見られますが、評価が固まっていない領域であると理解しておくのが実際に近いといえます。求められた場合には、その場で応じるかどうかを含め、弁護士に確認する価値があります。
その場で避けたい四つの行動
- 画像やアプリを削除する、端末を初期化する。削除されたデータは復元されることがあり、削除の操作をした事実自体も記録に残ります。証拠を隠そうとした行為とみなされ、事態を重くする方向にしか働きません
- その場から立ち去る、走って逃げる。逃げたという事情そのものが、疑いを裏づける材料として扱われることがあります
- 端末を取り返そうとする、押し問答で手が出る。別の問題が新たに加わってしまいます
- 記憶が曖昧なまま断定的に説明する。「絶対に撮っていない」「一度もやっていない」といった言い切りは、後から一つでも食い違いが出たときに、説明全体の信用を下げます
あわせて申し添えます。この記事は、証拠を隠したり捜査を免れたりする方法を説明するものではありません。被害を受けた方が実際にいる可能性のある場面であり、その前提を外して考えることはできません。ここで整理しているのは、事実がどうであれ、手続の意味を理解したうえで判断するための材料です。
応じた後・断った後に何が起きるのか
その場
端末を提出した場合、そのまま解放されて在宅で捜査が進むこともあれば、事情を聴くために署への同行を求められることもあります。逮捕に至るかどうかは、事案の内容や、身元がはっきりしているか、証拠を隠すおそれがあるかといった事情を踏まえて判断されます。提出したから必ず身柄が拘束されるわけでも、断ったから必ず逮捕されるわけでもありません。
数日から数週間
その場では何も起きなくても、後日連絡が入ることがあります。防犯カメラの映像や、周囲の方の説明をもとに捜査が進み、改めて出頭を求められたり、令状に基づく捜索が行われたりする流れです。連絡がないまま時間が経つこともありますが、それは終わったことを意味しません。
その後の分かれ道
解析の結果や、被害を訴えている方の意向、示談の有無などによって、その後の道筋は分かれていきます。この段階になると、その場でどう対応したかが、事実関係を説明するうえでの土台になります。だからこそ、当日の記憶が新しいうちに、時刻、場所、居合わせた人、言われた言葉、渡した書類を書き留めておくことをおすすめします。
端末が戻るまでの生活
スマホが手元にない状態は、想像以上に生活に影響します。連絡先、二段階認証、交通系の決済、仕事のやり取りが止まるためです。代替の端末を用意する場合、電話番号を変える必要は通常ありません。
仕事用の端末が一緒に提出された場合など、業務に支障が出る事情があるときは、その事情を具体的に示して返還を求める余地があります。何がどう困るのかを整理して伝えることが出発点になります。
身に覚えがない場合にも同じ判断が要る
疑われている行為に心当たりがない場合、「見せれば誤解が解ける」と考えるのは自然なことです。実際、その場で確認してもらうことで話が収まることもあります。
一方で、見せた結果として何が記録に残るのかも考えておく必要があります。画面の一覧を撮影されることもありますし、その場で書いた文章が後々まで残ることもあります。無関係な私生活の内容が目に触れる可能性もあります。
ここでも判断は一つに決まりません。見せるにしても、範囲と経緯をはっきりさせておく。それが、身に覚えがない場合にできる現実的な備えです。
早い段階で弁護士に相談する意味
この場面で弁護士ができるのは、魔法のような解決ではありません。今どの段階にいるのかを整理し、選べる選択肢とそれぞれの見通しを示すことです。
具体的には、令状の有無と手続の性質の確認、署名を求められている書面の意味の説明、提出やロック解除に応じるかどうかの検討、押収された物の返還を求める手続、被害を訴えている方への対応の順序といった点になります。当日中に連絡が取れるかどうかで、選べる範囲が変わることもあります。
当事務所では、初回のご相談を無料でお受けしており、ご連絡は24時間受け付けています。夜間や早朝でも、状況によって対応できる場合があります。判断がつかない段階でご連絡いただいて差し支えありません。
まとめ
- まず、求めているのが私人か警察官かを確かめる。私人に提出を強制したり中身を見たりする権限はない
- 「見せる」「渡す」「解除する」は別の行為であり、断れるかどうかも、端末が戻るかどうかも異なる
- 見せることは所持品検査の枠組みで語られ、原則は本人の承諾。承諾には範囲があり、どこまで了解したかを言葉にしておく
- 任意提出でも領置は押収の一種であり、返還には手続が必要。押収品目録交付書は必ず受け取る
- 任意提出書と所有権放棄書は別の書面。放棄書への署名は、返還を求める前提を手放すことにつながり得る
- ロック解除に応じる義務を定めた罰則規定はない。ただし応じない場合の影響もあり、一律の正解はない
- 削除、初期化、逃走、押し問答は、いずれも事態を重くする方向にしか働かない
その場での数分の判断が、その後数か月の見通しを左右することがあります。迷った時点で、判断を一人で背負わずに相談していただければと思います。


