「全治○週間」と言われた|診断書と傷害の重さの評価
「闇バイトだとは知らなかった」「中身が何かは聞かされていなかった」。そう説明したのに取り合ってもらえなかった、という声は少なくありません。ここで判断されているのは、本人が実際に何を知っていたかという一点だけではなく、故意と共謀という二つの認定の枠組みです。この記事では、「知らなかった」という説明が刑事手続のどこで効き、どこで効きにくいのかを整理します。
「知らなかった」には三つの意味が混ざっている
まず切り分けが必要です。相談の場で語られる「知らなかった」は、次の三つのいずれか、あるいはその混合であることがほとんどです。
| 「知らなかった」の中身 | 法律上の位置づけ | 扱われ方 |
|---|---|---|
| 何を運ぶのか、誰の金なのかを知らなかった | 事実を知らなかった(故意の問題) | 認められれば故意が否定され得る |
| その行為が犯罪にあたるとは思わなかった | 法律を知らなかった | それだけでは罪を犯す意思がなかったことにはならない(情状として考慮される余地はある) |
| 詐欺だと思っていたが、実際は別のより重い犯罪だった | 認識していたより重い事実があった | 重い罪では処断されないが、認識していた範囲の責任は残る |
刑法は、罪を犯す意思がない行為は罰しないと定める一方で、法律を知らなかったことをもって罪を犯す意思がなかったとすることはできない、とも定めています。二つ目の意味の「知らなかった」を一つ目のつもりで話し続けると、話がかみ合わないまま時間だけが過ぎることになります。
故意は「はっきり知っていたこと」に限られない
未必の故意という考え方
故意というと「わざと」「そのつもりで」を思い浮かべますが、刑事実務ではもう一段広く捉えられています。結果が起きることを確実に見込んでいなくても、起きるかもしれないと思いながら、それでも構わないとして行為に踏み切った場合には、故意があったと評価され得ます。これが未必の故意と呼ばれるものです。
認識ある過失との分かれ目
「まずいかもしれないとは思ったが、まさか犯罪ではないだろうと考えていた」という状態は、認識ある過失として整理されることがあります。分かれ目は、疑いを持ったこと自体ではなく、疑いを持ったうえで、その可能性を引き受けたかどうかです。そのため、疑問を感じた後に何をしたか、つまり相手に尋ねたのか、確認を求めたのか、それとも指示どおりに進めたのかが見られます。
裁判所はどのような言い方で故意を認めているか
参考になるのが、荷物の受け取り役が起訴された事件について2017年に最高裁が示した判断です。そこでは前提として、受け取り役が「詐欺の被害金を受け取る役割である可能性を認識しつつ、これを引き受けた」という事実がとらえられています。「被害金だと知っていた」ではなく「可能性を認識して引き受けた」という書き方になっている点が、この分野の実務を理解するうえで重要です。
薬物が関わる事件でも、運んだ物が具体的に何であるかまで特定して認識している必要はなく、身体に有害で違法な薬物類であるという程度の認識があれば足りる、という考え方が示されています。「中身は分からないが、まともな話ではないとは思っていた」という説明が、故意を否定する材料になりにくいのは、こうした枠組みがあるためです。
故意は本人の言葉ではなく外側の事情から推認される
内心は直接見ることができません。そこで、次のような外形的な事情から逆算する形で判断されます。
- 報酬が仕事の内容に見合わないほど高いこと。
- 業務の中身が最後まで具体的に説明されないこと。
- やり取りが匿名性の高いアプリに限定され、履歴が消える設定になっていること。
- 身分証や家族の情報を先に提出させられていること。
- 待機場所や服装、声のかけ方まで細かく指示されていること。
- 受け取った現金や荷物を、すぐに別の人物へ引き渡すよう求められていること。
- 途中で「これは何ですか」と尋ねた形跡が残っていないこと。
これらは、公的機関が示している募集情報の見分け方の項目とほとんど重なります。応募の段階で「怪しい」と判断できたはずの材料は、後の段階では「怪しいと分かっていたはずだ」という材料として扱われることになります。
共謀は打ち合わせをしていなくても認められることがある
もう一つの関門が共謀です。二人以上が共同して犯罪を実行した場合、実行行為の一部しか担当していなくても全体について正犯としての責任を負うのが原則で、その前提として共謀があったといえるかが問われます。
顔も名前も知らない相手との共謀
闇バイトの相談で多いのが、「指示役が誰かも知らない」「ほかの関与者と会ったこともない」という説明です。もっとも、共謀は言葉による明示の取り決めに限られません。やり取りの経過から、暗黙のうちに意思を通じ合ったと評価されることがあります。
2025年7月には、最高裁が、現金の引き出しを担当した人と電話をかけた人との間で意思を通じ合ったといえると判断した例もあります。そこでは、引き受けた仕事の内容から想定し得る犯罪の範囲に、実際に行われた犯罪が含まれるかどうかが見られました。
担当した役割の重要性
共謀が問題になる場面では、その人が果たした役割が、全体の目的を達成するうえでどれだけ重要だったかも見られます。前記の判断でも、犯罪で得た利益を直ちに現金として確保する役割は、目的達成のうえで重要なものだと述べられています。「言われたことをしただけ」という説明が、そのまま責任の軽さにつながるとは限らない理由の一つです。
なお、共同正犯にあたるのか、それとも手助け(幇助)にとどまるのかは、別の争点として残ります。手助けにとどまると評価された場合、刑は減軽されます。
「そこまでやるとは思わなかった」場合
受け取りの仕事だと聞いていたのに、当日になって別の犯罪の実行を求められた、というケースもあります。この場合、自分が引き受けた内容から想定し得る範囲を超える犯罪についてまで、当然に責任を負うわけではありません。認識していたより重い事実があったときは、その重い罪によって処断することはできない、と定められています。
ただし、認識していた範囲の責任は残ります。また、「想定し得る範囲」は本人の言い分だけで決まるものではなく、仕事の説明のされ方、報酬額、渡された物、当日の指示の内容といった事情から判断されます。
途中から加わった場合はどう扱われるか
だます電話がすでにかけられた後で、受け取り役だけを引き受けたという関与の仕方もあります。この点について、前記2017年の最高裁の判断は、被害者側が警察と協力して中身の入っていない荷物を送っていた事案でも、受け取り役に詐欺未遂の共同正犯としての責任を認めました。だます行為と受け取る行為が、一体のものとして予定されていたという理由です。
「自分が加わったときには、すでに話が進んでいた」「実際にはお金は渡っていない」といった事情が、そのまま責任の否定につながるとは限らないことを示す判断といえます。
「もう抜けた」つもりでも共謀が残ることがある
連絡を絶った、アプリを消した、という段階で終わったと考える方は少なくありません。しかし、いったん共謀が成立した後は、離脱の意思を伝えるだけでは共謀関係が解消されたとは評価されにくいとされています。
実行に着手する前の段階であれば、ほかの関与者に伝えて了解を得るなど、それまでに自分が与えた影響を取り除いたといえるかが問われます。着手後はさらに厳しく、犯行が行われないようにする措置まで求められると考えられています。他方で、応募や連絡のやり取りにとどまる段階であれば、そもそも共謀が成立していないと整理できる余地もあります。自分がどの段階にいるのかを早めに確定させておくことが、後の説明の土台になります。
故意が認められなくても別に残る責任がある
「被害金だとは知らなかった」という説明が受け入れられたとしても、それで全部が終わるとは限りません。預貯金口座やキャッシュカード、暗証番号などを渡す行為や、携帯電話の名義を貸す行為は、その口座で行われた詐欺を知っていたかどうかとは別に処罰の対象とされています。2026年7月に施行された改正では、依頼を受けて有償で送金する行為についての罰則も設けられ、こちらも被害金であることの認識は要件とされていません。
つまり、「知らなかった」が効く罪と、効きにくい罪があります。自分のどの行為がどの罪の問題になっているのかを整理しないまま一括して否認すると、争う必要のない部分まで争う形になりかねません。
「知らなかった」と言い続ける前に
説明を変えないことと、説明を整理しないことは別です。取調べでは細かな事実関係が繰り返し確認され、後から説明が変わると、変わった理由まで問われます。事実として言えることと、記憶があいまいなことを混ぜて話してしまうと、後になって説明全体の信用性が問題にされることがあります。
分けて整理しておく
次のように分けて書き出しておくと、話がかみ合いやすくなります。
- 応募から実行までの日時と、その日に何をしたかを時系列で書き出す。
- どの段階で、どのような違和感を持ったかを、感じた時点ごとに区別する。
- 相手からどう説明され、自分がどう理解したかを、やり取りの言葉のまま書き留める。
- 自分が尋ねたこと、断ろうとしたこと、実際に断った回数を挙げる。
- 受け取った報酬の額、渡された物、返した物を確認する。
- 分からない部分は「分からない」と書き残し、推測で埋めない。
残っている記録を消さない
やり取りを削除しても、相手の手元や事業者側に残った記録まで消えるわけではありません。むしろ、どのように説明されたのか、どこで断ろうとしたのかを示す材料が、自分の側からだけ失われることになります。端末の初期化や機種変更も、後の説明を難しくすることがあります。
弁護士に相談する意味
この分野では、何を認め、何を争うのかの切り分けが早い段階で必要になります。故意があったといえるか、共謀の範囲はどこまでか、共同正犯か手助けか、という論点は、それぞれ見られている事実が異なり、まとめて「やっていない」と述べるだけでは伝わりません。逆に、争う必要のない部分を早く整理しておくことで、本当に争うべき部分に説明の時間を使えるようになります。
当事務所では、深夜・早朝を含めて24時間の受付を行っており、初回のご相談は無料です。警察への出頭に同行することもできます。ご家族からのご相談も承っています。
まとめ
- 「知らなかった」は、事実を知らなかったのか、法律を知らなかったのか、認識より重い事実があったのかで扱いが異なる。
- 故意は確定的な認識に限られず、可能性を認識しながら引き受けた場合にも認められ得る。
- 故意も共謀も、本人の言葉ではなく、報酬額・説明の不明確さ・連絡手段・指示の細かさといった外側の事情から判断される。
- 共謀は明示の打ち合わせがなくても認められることがあり、途中から加わった場合や抜けたつもりの場合にも責任が残ることがある。
- 口座や携帯電話、送金に関する罪は、被害金の認識とは別に問題になるため、行為ごとに整理する必要がある。


