未成年の被害者と示談する|親権者の同意と書面の当事者
保釈の条件(制限住居・接触禁止・渡航制限)に違反したらどうなるか
保釈が認められて自宅に戻ったあと、決定書に書かれた条件をどこまで守ればよいのか、判断に迷う場面があります。仕事の都合で数日家を空けたい、被害者と同じ職場にいる、家族の事情で国外に行く用事ができたといった事情は、条件の短い文言だけでは処理しきれません。
保釈の条件に違反したときに起きることは、一つではありません。保釈の取消し、保証金の没取、そして違反の中身によっては別の犯罪としての処罰という、三つの層に分かれます。2023年に成立した法改正で三つ目の層が新たに加わり、条文の番号も動きました。ここでは、制限住居・接触禁止・渡航制限という代表的な三つの条件を取り上げ、違反がどのように扱われるのかを条文に沿って整理します。
保釈の「条件」はどこに書かれているのか
刑事訴訟法93条3項は、保釈を許す場合に、被告人の住居を制限し、その他適当と認める条件を付すことができると定めています。実務では、保釈許可決定の主文に保証金額とともに「指定条件」が並び、釈放後はこれを守らなければならないこと、違反したときは保釈を取り消され保証金も没取されることがある旨が記載されます。
条件の内容は事件ごとに異なりますが、多くの決定に共通して現れる項目があります。
| よく見る項目 | 典型的な書かれ方 | 何のための条件か |
|---|---|---|
| 制限住居 | 指定された住所に居住し、変更するときは書面で申し出て許可を受ける | 所在を把握できる状態を保つ |
| 出頭 | 召喚を受けた日時に出頭する。出頭できない事情があるときは前もって届け出る | 審理を進められる状態を保つ |
| 逃走・証拠 | 逃げ隠れせず、証拠を隠すと受け取られる行為をしない | 逃亡と罪証隠滅を防ぐ |
| 旅行・渡航 | 国外への旅行や3日以上の旅行は前もって申し出て許可を受ける | 所在の把握を続ける |
| 接触禁止 | 決定に挙げられた人物に、直接またはほかの人を介して接触しない | 関係者への働きかけを防ぐ |
条件の範囲は、決定書に書かれた文言で決まります。一般論として語られる「保釈中のルール」と、自分の決定書に付された条件とが一致しないことはめずらしくありません。
違反したときに起きることは三つの層に分かれる
条件違反の帰結は、取消し・没取・処罰の三つに整理できます。どれか一つだけが起きることもあれば、重なることもあります。
| 層 | 主な根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 保釈の取消し | 刑事訴訟法96条1項 | 決定で保釈が取り消され、刑事施設に収容される |
| 保証金の没取 | 刑事訴訟法96条2項ほか | 納めた保証金の全部または一部が戻らなくなる |
| 別罪としての処罰 | 刑事訴訟法95条の3・278条の2、刑法105条の2ほか | 違反の中身が犯罪に当たる場合、その罪で処罰されうる |
三つ目の層は、2023年の法改正で加わった部分です。それまでは、条件に違反しても取消しと没取という手続上の不利益にとどまり、違反そのものを処罰する規定はありませんでした。2023年11月に施行された改正で、制限住居からの離脱や公判期日への不出頭が犯罪として定められています。
条文の番号にも注意が必要です。条件違反を理由とする取消しは、以前は96条1項5号に置かれていましたが、改正で報告命令違反の号が新設されたため、現在は96条1項6号です。改正前の解説がそのまま残っている記事もあるため、条番号を確かめるときは改正後の条文かどうかを見てください。
制限住居に関する違反
家から出てはいけない、という条件ではない
制限住居は、その住所に居住することを求める条件です。常時その場所にとどまることまで求めるものではなく、通勤や外出、日中の用事は想定されています。もっとも、裁判所の職員や警察官が居住状況を確認しに来ることがあり、生活の実態がその住所にあることが前提になります。
住所を変えるときは移る前に申し出る
制限住居は決定の主文に記載されているため、引っ越しなどで変更が必要になったときは、書面で申し出て変更の許可を受けることになります。転居してから事後に報告する形は、条件違反として扱われる余地があります。家族の事情や仕事の都合でやむを得ない場合でも、順序は変わりません。
犯罪になるのはどの範囲か
2023年11月に施行された刑事訴訟法95条の3は、裁判所の許可を受けないで指定された期間を超えて制限された住居を離れてはならない旨の条件を付されて保釈された被告人が、その住居を離れ、許可を受けないまま、正当な理由がなく期間を超えて帰着しないときに、2年以下の拘禁刑と定めています。許可を受けて離れた場合でも、許可された期間を超えて戻らないときは同じ扱いです。
この罪が成立するには、その旨の条件が付されていることが前提になります。制限住居を離れた事実だけで直ちに犯罪になるわけではありません。ただし、この罪に当たらない場合でも、条件違反として保釈の取消しが検討される点は変わりません。
接触禁止に関する違反
対象になる人は個別に書かれる
接触禁止の条件は、被害者や共犯者、目撃者など、事件の審理に関わる人物を個別に挙げる形で付されるのが通例です。面会だけでなく、電話や手紙、メッセージのやり取りも含む書き方がされます。弁護人を除く第三者を介した働きかけも対象になるため、家族や知人に頼んで連絡を取ってもらう形も条件の範囲に入ります。
示談を進めたい場合の順序
被害者との示談を望む場合でも、本人が直接連絡を取ることは想定されていません。弁護人を通じて、被害者側の意向を確かめながら進める形になります。謝罪の手紙を渡したい場合も、弁護人経由で受け取る意思を確認してから届けるのが通常の順序です。
接触そのものを処罰する規定はないが
接触禁止の条件違反を直接処罰する刑事訴訟法の規定は置かれていません。しかし、接触の中身によっては、96条1項3号の罪証隠滅や、同項4号の被害者などに害を加える行為・畏怖させる行為に当たり、取消しの理由になります。
さらに、刑法105条の2は、自己または他人の刑事事件の捜査もしくは審判に必要な知識を有すると認められる者またはその親族に対し、その事件に関して、正当な理由がないのに面会を強請し、または強談威迫の行為をした者を、2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金と定めています。直接会う場合に限られず、文書を送る形で成立を認めた例もあります(最高裁決定 平成19年11月13日)。被害届を取り下げてほしい、証言を変えてほしいという趣旨の働きかけは、この規定に触れる可能性があります。
渡航・旅行に関する違反
判決までの間は「条件」の問題
国外への旅行や3日以上の旅行について事前の許可を求める条件は、多くの決定に付されています。事案によっては、旅券を弁護人や裁判所に預ける取扱いが伴うこともあります。この段階での違反は、96条1項6号の条件違反として、取消しと没取が検討される場面です。
実刑判決の宣告後は法律上の出国制限になる
2025年5月15日に施行された部分では、拘禁刑以上の刑に処する判決(全部の執行猶予の言渡しをしないものに限る)の宣告を受けた者は、裁判所の許可を受けなければ出国してはならないと定められました(刑事訴訟法342条の2)。条件として付されるかどうかにかかわらず、法律の効果として生じる制限です。
許可を求めることはでき、本人のほか、弁護人、配偶者、直系の親族などが請求できます(342条の3)。裁判所は、出国を許すべき特別の事情があると認めるときに、国外にいることができる期間を指定して許可します(342条の4)。許可の際には帰国等保証金の額が定められ、渡航先を制限するなどの条件が付されることもあります(342条の5)。
許可を受けないで出国し、または出国しようとしたときは、保釈を取り消す決定がされ、保証金の全部または一部が没取されうると定められています(342条の8)。罰金の裁判の告知を受けた被告人についても、確定後に罰金を納められなくなるおそれがあると認められる場合には、同じ形の出国制限が命じられることがあります(345条の2)。
取り消されると、その後どう進むのか
保釈の取消しは、検察官の請求により、または裁判所の職権で、決定によって行われます。96条1項が挙げる事由は次のとおりです。
- 召喚を受け、正当な理由がなく出頭しないとき。
- 逃亡し、または逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
- 罪証を隠滅し、または罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
- 被害者などやその親族の身体・財産に害を加え、加えようとし、またはこれらの者を畏怖させる行為をしたとき。
- 正当な理由がなく、報告命令による報告をせず、または虚偽の報告をしたとき。
- 住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。
取り消す決定があったときは、検察官の指揮により、勾留状の謄本と取消決定の謄本を示して刑事施設に収容する扱いになります(98条1項)。収容されていない場合、検察官は出頭を命じることができ(98条の2)、正当な理由がなくこれに応じないときは2年以下の拘禁刑と定められています(98条の3)。
取消しの決定に不服がある場合は、保釈に関する決定として抗告の対象になります(420条2項)。ただし、抗告には裁判の執行を停止する効力がないのが原則であり(424条1項)、収容が先に進むことがあります。争う場合も、身柄が拘束された状態で手続が進む前提で準備することになります。
保証金はどうなるのか
保釈を取り消す場合、裁判所は決定で保証金の全部または一部を没取することができます(96条2項)。「できる」と書かれているとおり、取消しがあれば当然に全額が失われるという構造ではなく、違反の内容や経緯が考慮されます。
他方、2023年の改正で、没取が義務づけられる場面が加わりました。拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた後に、保釈されている被告人が逃亡したときは、裁判所は保釈を取り消さなければならず、その場合には保証金を没取しなければならないとされています(96条4項・5項)。判決の前と後とで扱いの重さが変わる点は、意識しておく必要があります。
監督者が選任されている事件では、保証金とは別に監督保証金が納められています。監督者が義務に違反したと認められる場合には、この監督保証金が没取されることがあります(98条の8)。保証金を家族が用意している場合、違反の影響は本人だけにとどまりません。
裁判そのものへの影響
条件違反の影響は、手続上の不利益にとどまりません。収容されれば、公判の準備を身柄拘束下で進めることになり、打合せの時間や資料の確認に制約が生じます。示談の交渉が途中であれば、進行が滞る場面もあります。
量刑の面でも、判決前の行動として評価の対象になります。違反の理由が説明できるものかどうか、気づいた時点でどう対応したかは、記録に残る事情です。取り消された後に改めて保釈を請求することはできますが、一度違反があった事実は判断材料として残ります。
守れなくなりそうなときにできること
条件違反の相談で多いのは、逃げるつもりのない人が、生活上の必要から結果として条件を外れてしまう場面です。この種の違反は、事前に手を打つことで避けられることが少なくありません。
- 住所を移す必要が生じたときは、移る前に書面で申し出て変更の許可を受ける。
- 3日以上の外泊や国外への渡航の予定が立った時点で、日程と目的を示して許可を求める。
- 体調不良などで出頭できない見込みが立ったときは、期日の前に理由を明らかにして届け出る。
- 被害者や事件の関係者から連絡が来たときは、自分で応じずに弁護人へ取り次ぐ。
- 決定書に書かれた条件の文言を、家族と一緒に読み合わせておく。
許可を求める手続は弁護人を通じて行うのが通常で、裁判所への申し出には理由と資料が必要になります。予定が決まってから当日までの時間が短いと、判断が間に合わないこともあります。
家族や身元引受人の立場
身元引受書を出した家族は、本人の生活状況を把握し、条件が守られるように働きかける立場に置かれます。身元引受人が本人の違反について法律上の責任を負うと定めた規定はありませんが、保証金を家族が用意していれば没取の影響を受けますし、次に保釈を請求する場面では監督の実効性が問われます。
本人と連絡が取れない、指定された住所に帰っていないといった状況に気づいたときは、家族の側から弁護人に伝えておくことに意味があります。事情を説明できる段階と、行方が分からなくなった後とでは、取りうる対応が変わります。
条件の解釈に迷ったら早い段階で確認する
保釈の条件は短い文章で書かれており、日常の場面にそのまま当てはまらないことがあります。判断に迷ったまま自分で結論を出すより、決定書を手元に置いて弁護人に確認するほうが安全です。すでに条件を外れてしまった場合も、いつ、どのような事情で外れたのかを整理して早めに伝えることで、取りうる対応の幅が変わります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、池袋と新橋に事務所を置き、刑事事件のご相談をお受けしています。ご本人からのご相談のほか、ご家族からのご相談にも対応しています。
まとめ
- 保釈の条件は決定の主文に「指定条件」として書かれ、その範囲は事件ごとに異なる。
- 違反したときの帰結は、保釈の取消し・保証金の没取・別罪としての処罰という三つの層に分かれる。
- 条件違反を理由とする取消しは、改正後は刑事訴訟法96条1項6号に置かれている。
- 制限住居については、その旨の条件が付されたうえで、許可を受けずに期間を超えて帰着しない場合に犯罪となる(95条の3)。
- 接触禁止それ自体を処罰する規定はないが、働きかけの中身によっては証人等威迫罪などに当たりうる。
- 実刑の判決が宣告された後は法律上の出国制限がかかり、許可を受けない出国は保釈の取消しと没取につながる。
- 守れない事情が生じたときは、事後の説明よりも、事前に許可や届出を求めるほうが取りうる対応は広い。


