示談が成立した後に被害者が処罰を求めた|宥恕の撤回はできるのか
「上申書を書いてください」と取調べの場で言われた方と、「家族として上申書を出したい」と考えている方とでは、同じ言葉を使いながら、まったく違う書面を思い浮かべています。前者は捜査機関が求めている書面で、書いた内容がそのまま本人の不利に働くことがあります。後者はこちら側から差し出す書面で、事件の後の事情を伝えるために使われます。
インターネットで「上申書 書き方」と調べると、会社の稟議や人事の書面、あるいは民事裁判の書面の解説が多く出てきます。この記事では、刑事事件の場面に限って、上申書と意見書がどのような書面で、誰が何のために出すものなのかを整理し、文例もあわせて紹介します。
この記事で扱うことと扱わないこと
はじめに範囲をはっきりさせておきます。
・扱うのは刑事事件の上申書と意見書で、会社内の稟議書や民事裁判の上申書は扱いません
・被疑者・被告人の側と、そのご家族や勤務先の立場から書いています
・被害者の方に宛てる謝罪の手紙は、宛先が異なるため別の書面として扱います
・身元引受書や誓約書は性質が違うため、区別だけを説明します
・書面をそろえたことと、望んだ結果になることとは別の事柄です
「上申書」は正反対の二つの書面を指している
同じ「上申書」という言葉が、刑事事件では立場も向きも正反対の二つの書面に使われています。ここを分けないまま書き方だけを調べると、かえって不利になることがあります。
捜査機関の求めに応じて本人が書く上申書
取調べの場で、警察官が被疑者本人に「自分の言葉で書いてください」と紙を渡すことがあります。通常の取調べでは、話した内容を警察官がまとめる供述録取書という形の調書が作られますが、これとは別に、本人が自ら書く書面を求められる場面があります。
法律の分類では、こうした書面は供述書と呼ばれます。上申書のほか、被害届や始末書、陳述書などが同じ分類に入ります。供述書は本人が自分で書いた書面であるため、調書と違って署名押印がなければ証拠にできないという扱いにはなっていません。刑事訴訟法321条1項の柱書は、供述録取書について署名押印を要件としており、供述書はこれと区別されています。
また、被告人が作成した書面は刑事訴訟法322条1項の対象となり、その例として日記や始末書と並んで上申書が挙げられます。自分に不利な事実を認める内容であれば、任意に書かれたものかどうかが問われることはあっても、内容自体は証拠として扱われ得ます。書く義務はありませんし、途中でやめることもできますが、いったん書いた書面をなかったことにするのは簡単ではありません。取調べの場で書面を求められたときは、その場で書き切らず、弁護士に確認する時間をとることをおすすめします。
こちら側から出す上申書
もう一つは、家族や勤務先、支援している方などが、捜査機関や裁判所に向けて自分から差し出す書面です。取調べで求められるものと違い、こちらには決まった様式がなく、出す義務もありません。事件そのものを説明する書面というより、事件の周りにある事情を伝える書面だと考えると分かりやすくなります。
説明する書面、約束する書面、主張する書面
刑事事件で当事者側から出される書面は、性質でおおまかに三つに分かれます。名前が似ていても役割が違うため、混ぜて書くと読み手に伝わりにくくなります。
| 書面の性質 | 代表的な書面 | 名義 | 読み手が受け取るもの |
|---|---|---|---|
| 説明する | 上申書、陳述書、経過報告書 | 本人、家族、勤務先、支援者など | これまでの事情と現在の状況 |
| 約束する | 身元引受書、誓約書 | 引き受ける人、本人 | これから守ると決めたこと |
| 主張する | 意見書、弁論要旨 | 弁護人 | 事実と法律の評価、求める処分 |
上申書は一段目の「説明する書面」にあたります。約束の言葉を並べるより、見聞きしてきた事実を具体的に書くほうが、書面の役割に合っています。
誰が何のために出すのか
名義ごとに、宛先と役割を整理すると次のようになります。
| 名義 | 主な宛先 | 何を伝える書面か | 気をつけたいこと |
|---|---|---|---|
| 本人 | 捜査機関、裁判所 | 事実関係の説明、生活の状況 | 不利な事実の承認を含むと証拠として扱われ得る |
| 家族 | 検察官、裁判官 | 同居の状況、日ごろの様子、これからの関わり方 | 見ていないことを見たように書かない |
| 勤務先 | 検察官、裁判官 | 在籍の有無、勤務の状況、職場としての対応 | 会社の判断として書ける範囲にとどめる |
| 医療機関、支援者 | 検察官、裁判所 | 受診や相談の経過、これからの予定 | 本人の同意と、書ける立場かどうかの確認 |
| 被害者 | 捜査機関、裁判所 | 処罰についての気持ち、示談の成立 | 加害者側が用意する書面ではない |
| 弁護人 | 検察官、裁判官 | 事実と法律の評価、求める処分 | 添付する資料と一体で組み立てる |
被害者の方が書く書面は、嘆願書や告訴取消書など別の呼び方をされることもあります。名称よりも、誰の名義で、どの立場から書かれたのかが読み手にとっての手がかりになります。
出す先によって扱いが変わる
同じ内容の上申書でも、身柄についての判断に使われる場面と、裁判で量刑を判断する場面とでは、通る手続がまったく違います。
身柄の判断は幅広い資料をもとに行われる
逮捕や勾留を続けるかどうか、保釈を認めるかどうかといった判断では、資料に厳密な証拠能力が求められるわけではありません。そのため、家族の上申書や勤務先の書面、診断書の写しなどを、弁護人が意見書に添えて裁判官や検察官に届ける運用が広く行われています。なお、弁護人が検察官や裁判官に意見書を出すこと自体は、法律に手続として定められているものではなく、実務上の取扱いです。保釈については検察官の意見を聴かなければならないと法律に定められており、この点は弁護人側の書面と扱いが異なります。
公判では証拠調べという手続を通る
起訴された後の法廷では、書面は出せば読んでもらえるというものではなく、証拠調べの請求という手続を経て、相手方の意見を聴いたうえで裁判所が採用するかどうかを決めます。検察官が証拠とすることに同意しない場合には、その書面ではなく、書いた人に法廷で話してもらう形に切り替えることもあります。
さらに、証拠調べの請求は第1回の公判期日より前にはできないと定められています。刑事訴訟規則188条がこれを定めており、裁判官が公判の前に事件についての予断を持たないようにするための仕組みです。起訴の通知を受け取ったご家族が、急いで裁判所へ直接書面を送ることがありますが、その時期に届いた書面が量刑の資料として扱われるとは限りません。作成した書面は弁護人に預け、期日に合わせて出す形が現実的です。
文例1 家族が捜査段階で出す上申書
まずは、勾留されている本人について、同居の家族が検察官に宛てて出す場合の例です。
上申書
令和○年○月○日
○○地方検察庁 御中
担当 検察官 ○○○○ 殿
住所 東京都○○区○○一丁目2番3号
氏名 ○○ ○○ 印
連絡先 090−0000−0000
被疑者との関係 母
被疑者 ○○ ○○
被疑事実 窃盗
1 同居の状況
私は被疑者の母で、平成○年から現在まで、上記の住所で被疑者と二人で暮らしています。日中は私が○○の仕事に出ており、被疑者は○○の勤務のため夕方に帰宅する生活でした。
2 これまでの様子
被疑者は、○年ほど前から仕事の量が増え、帰宅後もほとんど会話をしない日が続いていました。今回のことを警察の方から伺うまで、私はこうした事情に気づくことができず、家族として見過ごしていたことを申し訳なく思っております。
3 事件を知ってからのこと
○月○日に連絡を受けてから、私は被疑者の勤務先に事情をお伝えし、○月○日には○○病院を受診できるよう予約を取りました。事件の内容については私が直接見ておりませんので、被疑者から聞いた範囲でしか分かりませんが、家庭の側で整えられることは進めております。
4 これからの関わり方
被疑者が戻りましたら、これまでどおり自宅で同居し、私が朝夕に生活の様子を確認いたします。通院には私が付き添い、勤務先とのやり取りにも同席する予定です。
5 お願い
以上の事情をご考慮いただき、被疑者の身柄について寛大なご判断をいただきたく、お願い申し上げます。
以上
書けることだけを書くのが基本です。見ていない場面を推測で補ったり、被害の程度を軽く見せる表現を入れたりすると、書面全体の信用が下がります。
文例2 勤務先が出す上申書
次に、勤務先が在籍の状況と職場としての対応を伝える場合の例です。差出人は会社であるため、担当者の私見ではなく会社の判断として書ける範囲にとどめます。
上申書
令和○年○月○日
○○地方検察庁 御中
所在地 東京都○○区○○二丁目3番4号
商号 株式会社○○
代表者 代表取締役 ○○ ○○ 印
担当 ○○部 ○○ ○○
連絡先 03−0000−0000
1 在籍の状況
○○○○は、令和○年○月○日から当社○○部に勤務しており、現在も在籍しております。担当業務は○○で、○名の部署に所属しています。
2 勤務の状況
これまでの勤務について、無断欠勤や勤務態度に関する処分はありません。○月○日以降は本人からの申し出により欠勤の扱いとしております。
3 会社としての対応
当社としては、本人から事情を聞いたうえで、社内規程に基づく手続を進める予定です。現時点では退職の手続はしておらず、本人の状況が整い次第、勤務の継続について改めて検討いたします。勤務を再開する場合には、○○部長が業務の状況を確認する体制をとります。
4 お願い
以上のとおり、当社としては受け入れの体制を検討しております。事情をご考慮いただきたく、お願い申し上げます。
以上
会社の書面では、雇用を続けるかどうかを言い切れない段階であることも珍しくありません。無理に確約の言葉を入れるより、現時点で決まっていることと検討中のことを分けて書くほうが、後の食い違いを避けられます。
文例3 起訴された後に書き替える部分
起訴後は、宛先も、伝えるべき事柄も変わります。捜査段階の文例をもとにする場合、次の点を差し替えます。
・宛先を「○○地方裁判所 刑事第○部 御中」とし、事件番号と被告人の氏名を記載する
・「被疑者」の表記を「被告人」に改める
・身柄の判断を求める段落を、公判期日への出頭や生活の立て直しに関する記載に置き換える
・示談や被害弁償が進んだ場合は、家族が関わった範囲だけを事実として書く
・作成した書面は弁護人に渡し、期日に合わせて提出してもらう
同じ人が捜査段階と公判段階の両方で書面を出すこともあります。その場合は、前に書いた内容と食い違いが出ないよう、手元に控えを残しておくことが大切です。
弁護人が出す意見書は何が違うのか
上申書が事情を説明する書面であるのに対して、意見書は評価と結論を示す書面です。弁護人の名義で作成し、多くは次のような組み立てになります。
・事件の概要と、争いのない部分と争う部分の切り分け
・事実関係について、証拠から言えることと言えないことの整理
・法律上の評価と、適用される条文についての考え方
・身柄や処分について求める内容と、その理由
・添付する資料の一覧と、それぞれが何を示すものかの説明
意見書は、添付する資料と一体で読まれます。上申書や診断書、示談に関する書面は、意見書の中で位置づけられてはじめて読み手に届きます。捜査段階で検察官に意見書を出すことは法律上の手続として定められたものではありませんが、処分が決まる前に判断材料を届ける方法として実務で用いられています。
書き方で迷いやすいところ
宛先と事件の特定
宛先は、捜査段階であれば担当の検察官が所属する検察庁、身柄についての判断を求める場面では担当の裁判官が所属する裁判所です。担当者の氏名が分からない場合は、庁名までの記載でも受け付けられます。事件を特定するため、本人の氏名と、分かる範囲で罪名や事件番号を書き添えます。分からない項目を推測で埋める必要はありません。
日付、署名、押印
日付は作成した日を書きます。署名は名義人本人が自分で書き、代筆は避けます。押印については、供述書は署名押印がなければ証拠にできないという扱いにはなっていませんが、書面の出どころをはっきりさせる意味があるため、実務では押すことが多くなっています。
分量と体裁
様式に決まりはなく、手書きでもパソコンでも構いません。分量は、伝えたい事実が入る範囲であれば1枚から2枚程度で足りることが多く、長ければ伝わるというものでもありません。読み手は多くの事件を並行して扱っているため、見出しを付けて項目を分けると読みやすくなります。
書かないほうがよいこと
次のような書き方は、書面の役割から外れやすく、かえって本人の立場を悪くすることがあります。
・自分が見ていない事件の状況を、見てきたように書くこと
・被害の程度や相手の落ち度について、加害者側から評価を加えること
・処分の見通しについて、書き手が判断を示すこと
・関係者の連絡先や勤務先など、書面の目的から外れる個人情報を並べること
・本人に有利な話をそろえるため、事実と違う内容を書くこと
・他の人が書いた文面をそのまま写し、家庭の実情と合わない記載が残ること
なお、事実と異なる内容を書くことは、書面の信用を失うだけでなく、証拠の隠滅に関わる問題として扱われることもあります。書ける範囲にとどめるのが結果として堅実です。
出す時期を外さないために
書面には向いている時期があります。身柄をめぐる判断は逮捕から数日のうちに動きますし、起訴するかどうかの判断も、身柄事件では勾留の期間が満了する前に行われます。在宅の事件では時期が見えにくく、気づいたときには処分が済んでいたということも起こります。
完成度を上げるために時間をかけた結果、判断の後に届いてしまうことがあります。書ける内容から先に整え、後から補う書面を追加するほうが、間に合わせやすくなります。担当の検察官や事件番号が分かっているかどうかで進め方も変わりますので、早い段階で弁護人に確認しておくと動きやすくなります。
相談の前に整理しておきたいこと
弁護士に相談する際、次の点が分かっていると話が早く進みます。
・本人がいまどの段階にいるか、身柄を拘束されているかどうか
・取調べで書面を書くよう求められたことがあるか、その内容
・書面を出したいと考えている人の名義と、本人との関係
・同居の有無、勤務先の状況、通院や相談の予定など、伝えられる事実
・すでに作成した書面や、手元に残っている控え
まとめ
・上申書という言葉は、捜査機関の求めで本人が書く書面と、こちら側から出す書面の両方に使われています
・本人が書いた書面は法律上「供述書」に分類され、内容によっては証拠として扱われ得ます
・こちらから出す上申書は事情を説明する書面で、身元引受書のような約束の書面や、弁護人の意見書とは役割が違います
・名義ごとに、書ける範囲と伝わる内容が変わります
・身柄の判断では幅広い資料が参考にされますが、公判では証拠調べの手続を通ります
・証拠調べの請求は第1回の公判期日より前にはできないため、起訴後の書面は弁護人に預けて時期を合わせます
・見ていないことを書かず、決まっていないことを確約しないほうが、書面は届きやすくなります
当事務所は池袋と新橋に事務所を置き、刑事事件のご相談を受け付けています。ご本人だけでなく、ご家族からのご相談にも対応しており、初回のご相談は無料でお受けしています。書面をどの名義で、どの時期に出すかは事件の段階によって変わりますので、書き始める前にご相談いただければ、その事件で必要な形をご一緒に整理いたします。


