【ストーカートラブル】引っ越した先を知られないための手続の順序
この記事は、2026年10月時点の刑法、動物の愛護及び管理に関する法律(以下「動物愛護管理法」)、ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」)にもとづいて書いています。2025年6月1日施行の改正刑法により懲役・禁錮が拘禁刑に一本化されたため、法定刑は拘禁刑で表記しています。ストーカー規制法は、2025年12月30日施行の改正(警察の職権による警告の創設など)を反映しています。
「別れた相手につきまとわれていたところ、庭で飼っている犬がけがをしていた。相手の仕業だと思うが、見た人はいない」「玄関の前に、見覚えのない餌のようなものが置かれていた。猫が口にしていたらと思うと落ち着かない」。ストーカー被害のご相談のなかで、ペットへの危害が語られることは少なくありません。
ペットを傷つけた場合に器物損壊罪や動物愛護管理法違反が問題になる、という説明はよく見かけますし、それ自体は誤りではありません。ただ、その多くは「どの罪が成立するか」を加害した側の視点で整理したものです。つきまといを受けている最中にペットを狙われた方にとっては、その日の安全をどう確保するか、何を記録しておくか、相手が分からないまま手続をどう進めるか、という順番の問題が先に立ちます。
この記事では、ペットに危害を加えられた側の立場から、初動の安全確保、ペットの被害に特有の記録の残し方、問題になる罪とストーカー規制法との関係、手続と損害賠償の考え方を整理します。器物損壊罪と動物愛護管理法違反の関係そのものは、動物を傷つけた|器物損壊と動物愛護法違反の関係で詳しく扱っていますので、あわせてご覧ください。
ペットへの危害は、ご自身の安全の問題として受け止める
ペットへの危害は、ペットだけの問題では終わらないことがあります。庭やベランダ、散歩の道筋など、危害が加えられた場所は、相手がご自身の生活圏のすぐ近くまで来ていたことを示している場合があるからです。
その日のうちに確保したいこと
まずはペットを動物病院に連れて行き、治療を受けさせることが先です。そのうえで、ペットへの危害は相手が生活圏の近くまで来ていることを示す場合があるため、人の安全確保を先に考えておくことが大切です。相手が近くにいる気配がある、危害を加えるといった連絡が届いているなど、差し迫った状況であれば110番通報をためらう必要はありません。
差し迫った状況でなくても、最寄りの警察署に相談し、つきまといの経過とあわせてペットの被害を伝えておくと、その後の警告や捜査の判断材料になります。
ペットと一緒に、身を寄せる先を考えておく
自宅にとどまるのが不安な場合、家族や知人の家、ホテルなどに一時的に移ることも選択肢になります。このとき、避難先によってはペットを受け入れていないことがあるため、ペットホテルやかかりつけの動物病院、ペットを預かってくれる家族など、預け先を同時に考えておくと動きやすくなります。
ペットを残して家を空けると、再び危害を加えられるおそれもあります。ご自身とペットのどちらの安全も確保できる組み合わせを、早めに検討しておくことが現実的です。
記録の残し方|ペットの被害に特有のもの
ストーカー被害の記録というと、メッセージや着信履歴、日時を書いたメモが思い浮かびます。ペットへの危害では、これに加えて、動物の体や現場に残った痕跡をどう残すかが問題になります。記録全般の考え方は証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはで整理していますので、ここではペットの被害に特有の点を中心に述べます。
獣医師の診療記録と診断書
ペットのけがや体調の異変について、獣医師がどのような所見を記録したかは、後で原因を検討するうえで重要な材料になります。外傷であれば傷の形や大きさ、受傷からの経過時間の見立て、体調の異変であれば症状や検査の結果などです。
受診の際には、危害を加えられた可能性があることを獣医師に伝え、診断書の作成を依頼できるか相談しておくとよいでしょう。診療記録と診断書は、ペットの被害が「誰かの行為によるものか」を判断する手がかりになるため、受診の時点で事情を伝えておくことに意味があります。
不審な餌や異物、ペットが亡くなった場合
不審な餌や異物が置かれていた場合は、次の点を意識して残しておくと、後で警察に相談するときに役立ちます。
- 素手で触らず、手袋を使うか袋の上からつかむ。
- 置かれていた場所と周囲の様子を、位置関係が分かるように撮影する。
- 回収したものは袋に入れて密閉し、回収した日時と場所を書き留める。
- ペットが口にした可能性があれば、そのものを持って動物病院を受診する。
ペットが亡くなってしまった場合、深い悲しみのなかで考えにくいことではありますが、火葬や埋葬の前に警察や獣医師に相談しておくと、死因を調べる余地が残ります。後から原因を確かめたいと思っても、その時点では難しくなっていることがあるためです。
現場と周辺の記録
危害が加えられた場所の写真、防犯カメラの映像、近隣の方が見聞きしたことなども、相手を特定する手がかりになります。防犯カメラの映像は上書きされて消えることがあるため、ご自宅のものは早めに保存し、マンションの共用部分のものは管理会社に保存を依頼しておくとよいでしょう。集合住宅での対応については【ストーカートラブル】自宅マンションに来られている|管理会社・オートロック・防犯カメラでできることもご参照ください。
ペットの被害だけでなく、同じ時期のつきまといや連絡の記録を一つの時系列にまとめておくと、個々の出来事のつながりが見えやすくなります。
問題になる罪|器物損壊と動物愛護法、その周辺
ペットに危害を加えられた場合に問題になり得る罪は、器物損壊罪と動物愛護管理法違反が中心ですが、危害の加え方によっては周辺の罪も関わってきます。
| 罪名 | 主な場面 | 法定刑 | 告訴の要否 |
|---|---|---|---|
| 器物損壊罪(刑法261条) | 他人が飼っているペットを傷つける、死なせる、逃がす | 3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金若しくは科料 | 必要(親告罪) |
| 愛護動物殺傷罪(動物愛護管理法44条1項) | 犬・猫などの愛護動物をみだりに殺し、又は傷つける | 5年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金 | 不要 |
| 愛護動物虐待罪(同条2項) | 外傷が生じるおそれのある暴行を加えるなど | 1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 | 不要 |
| 住居侵入罪(刑法130条) | 塀で囲まれた庭などに入り込んで危害を加える | 3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金 | 不要 |
| 窃盗罪(刑法235条) | ペットを連れ去る | 10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 不要 |
| 脅迫罪(刑法222条) | 「ペットを殺す」などと告げる | 2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金 | 不要 |
器物損壊罪|飼い主の「物」として守られる
法律上、ペットは飼い主の所有する「物」として扱われます。そのため、他人が飼っているペットを傷つけたり死なせたりした場合には、器物損壊罪(刑法261条)が問題になります。条文の「傷害」には、ペットを逃がしてしまうような行為も含まれると解されています。
器物損壊罪は、告訴がなければ起訴できない親告罪です(同法264条)。告訴には、犯人を知った日から6か月以内という期間の制限があります(刑事訴訟法235条1項)。
動物愛護管理法|所有者を問わず守られる
犬や猫などの愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた場合には、動物愛護管理法44条1項の罪が問題になります。器物損壊罪とは違い、誰の動物であるかを問わず、親告罪でもないため、告訴がなくても捜査や起訴が可能です。法定刑も器物損壊罪より重く定められています。
なお、同法44条には未遂を処罰する規定がありません。けがに至らなかった場合でも、外傷が生じるおそれのある暴行を加えたといえれば、同条2項の虐待罪が問題になることがあります。器物損壊罪と愛護動物殺傷罪の両方が問題になる場面で、どの罪名で扱うかは、捜査機関が事案ごとに判断します。
周辺の罪|連れ去り、侵入、脅し
ペットを連れ去られた場合は、窃盗罪のほか、取得する意図がなく隠すだけであれば器物損壊罪が問題になります。また、「ペットを殺す」と告げる行為は、ペットが法律上は財産にあたることから、財産に対する害悪の告知として脅迫罪になり得ます。実際に危害が加えられる前の段階でも、こうした言葉が届いていれば、その記録は警察への相談の重要な材料になります。
ストーカー規制法との関係
つきまといの最中に起きたペットへの危害は、ストーカー規制法の問題として扱えるのか、というご質問もよくいただきます。
ペットへの危害そのものは「つきまとい等」の類型に直接はあたらない
ストーカー規制法が規制する「つきまとい等」は、特定の人やその家族などに対して行われる行為として、類型が定められています(ストーカー規制法2条1項)。ペットは人ではないため、ペットに危害を加える行為そのものが、そのまま「つきまとい等」に数えられるわけではありません。
危害の加え方によっては「つきまとい等」にあたる
一方で、危害の加え方や前後の行動によっては、「つきまとい等」の類型にあたる場合があります。たとえば次のような場面です。
- 動物の死体を自宅の前に置くなど、著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を置く行為(同項6号)。
- 危害を加えるために、自宅や勤務先の付近で見張りやうろつきをする行為(同項1号)。
- 「散歩の時間を知っている」など、行動を監視していると思わせる事項を告げる行為(同項2号)。
- 自宅の前でペットに向かって大声を出すなど、著しく粗野又は乱暴な言動(同項4号)。
警告や禁止命令の判断材料として伝える
ペットへの危害が「つきまとい等」の類型に直接あたらない場合でも、つきまといの経過のなかで起きた出来事として警察に伝えておくことには意味があります。ペットへの危害は、相手の行動が危険な方向に向かっているかを見極める事情の一つとして、警告や禁止命令の判断材料になり得ます。2025年12月30日施行の改正により、警告は被害者の申出がなくても警察の職権で出せるようになりました。警察の手続と裁判所の手続の使い分けについては、接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで整理しています。
相手が分からないとき・分かっているとき|手続の進め方
ペットへの危害は、人目のない時間や場所で行われることが多く、相手が特定できないまま相談に来られる方も少なくありません。相手を特定できているかどうかで、手続の進め方が変わってきます。
相手を特定できていないとき
相手が分からない段階でも、警察に被害届を出すことはできます。器物損壊罪の告訴期間は「犯人を知った日から」数えるため、相手が分からない間は期間が進みません。ただし、器物損壊罪の公訴時効は3年ですので(刑事訴訟法250条2項6号)、時間がたつほど捜査の手がかりは失われていきます。心当たりのある相手がいる場合は、その理由もあわせて伝えておくとよいでしょう。相手をたどる方法については、【ストーカートラブル】相手が誰か分からない|匿名のつきまといで相手をたどる方法と、たどれないときの守り方もご参照ください。
相手が分かっているとき
相手が特定できている場合は、被害届にとどめるか、処罰を求める意思を示す告訴まで行うかを検討することになります。器物損壊罪で手続を進めるには告訴が必要ですので、告訴期間に注意が必要です。両者の違いは被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶで、受理されなかったときの対応は被害届を受理してもらえない|断られたときにできることで解説しています。
動物愛護の窓口との関係
自治体の動物愛護センターや保健所も、動物の虐待に関する相談を受け付けています。ただ、これらの窓口は動物の適正な飼育や虐待の防止を担う行政機関であり、相手を捜査したり処罰を求めたりする手続は警察が担います。つきまといを伴う事案では、警察への相談を中心に据え、行政の窓口は補助的に使うと考えると整理しやすいでしょう。
損害賠償の考え方
刑事の手続とは別に、相手に対して損害の賠償を求めることもできます。
請求できる費目
ペットのけがの治療費、通院のための交通費、亡くなった場合の葬儀などの費用が中心になります。ペットは法律上「物」として扱われるため、物が壊された場合と同じく慰謝料は認められにくいのが原則ですが、ペットについては飼い主の精神的苦痛を認めて慰謝料を認めた裁判例があります。交通事故で飼い犬が重い障害を負った事案で、飼い主それぞれに20万円の慰謝料を認めたもの(名古屋高裁平成20年9月30日判決)などです。
ストーカー被害の一部としてペットへの危害がある場合は、ペットの損害だけでなく、つきまとい全体による精神的苦痛と組み合わせて請求を組み立てることになります。金額は、行為の内容や期間、被害の程度によって大きく変わります。
示談で取り決めておきたいこと
相手が特定でき、示談の話し合いに進む場合には、金銭の支払いだけでなく、今後の安全につながる条件を取り決めておくことが大切です。接触や連絡をしないこと、自宅や散歩の道筋に近づかないこと、約束に反した場合の違約金などです。相手と直接話し合うことは身の危険につながるおそれがあるため、弁護士を窓口にすることも検討してください。弁護士に依頼した場合の変化については、【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味で解説しています。
よくあるご質問
自分のペットであることは、どう示せばよいですか。
購入や譲渡を受けたときの契約書、マイクロチップの登録情報、犬の場合は市区町村への登録や鑑札、動物病院の通院記録などが手がかりになります。2022年6月からは、販売される犬・猫へのマイクロチップの装着と登録が義務づけられていますので、登録情報を確認しておくとよいでしょう。
元交際相手と一緒に飼っていたペットを、相手に傷つけられました。罪になりますか。
共同で飼っていたペットは共有の財産と考えられ、共有物も一般に器物損壊罪の「他人の物」にあたると解されています。また、動物愛護管理法44条の罪は誰の動物であるかを問わないため、相手が飼い主の一人であっても問題になり得ます。別れた後にペットをどちらが引き取るかについては、【男女トラブル】別れた後に共通のペット・車・家財をどう分けるかをご参照ください。
散歩中に相手が近づいてきて、ペットに手を出そうとしました。けがはありません。
けががない場合でも、外傷が生じるおそれのある暴行を加えたといえれば、動物愛護管理法44条2項の虐待罪が問題になることがあります。また、散歩の道筋で待ち伏せていたのであれば、ストーカー規制法の「つきまとい等」にあたる可能性もあります。その場に危険を感じたら110番通報をし、後で日時と場所、相手の言動を書き留めておいてください。散歩の時間や道筋を変えることも、当面の安全につながります。
まとめ
- ペットへの危害は、相手が生活圏の近くまで来ていることを示す場合があるため、ペットの治療とともに、ご自身とペットの安全確保を先に考える。
- 獣医師の診療記録や診断書、不審な餌や異物、亡くなった場合の死因は、受診や火葬の前に事情を伝えておくことで記録として残しやすくなる。
- 他人のペットを傷つける行為は器物損壊罪(刑法261条)にあたり得るが、親告罪のため告訴が必要で、告訴期間は犯人を知った日から6か月(刑事訴訟法235条1項)。
- 愛護動物をみだりに殺傷する行為は、所有者を問わず動物愛護管理法44条1項の罪にあたり得て、告訴は不要。
- 「ペットを殺す」と告げる行為は、財産に対する害悪の告知として脅迫罪(刑法222条)になり得る。
- ペットへの危害そのものはストーカー規制法の「つきまとい等」に直接はあたらないが、動物の死体を置く行為(同法2条1項6号)などはあたり得て、警告や禁止命令の判断材料にもなる。
- 損害賠償では、治療費などに加え、ペットについて飼い主の慰謝料を認めた裁判例もあり、つきまとい全体の被害と組み合わせて請求を組み立てる。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。ペットへの危害を含むつきまといについて、記録の整理、警察への相談の進め方、相手との交渉や損害賠償の請求まで、状況に応じてご一緒に検討します。
ペットを傷つけられて不安な日々を過ごしている方、相手が誰か分からず手続の進め方に迷っている方は、一人で抱え込まずにご相談ください。


