「認める調書」を作られないために|風俗トラブルの取調べ対応の注意点
「指名していた女性から、店を通さずに個人的な連絡が来るようになった」「断ったのに毎日メッセージが届く」「自宅や勤務先の近くで見かけた気がする」——。性風俗のサービスを利用していた男性が、相手の女性からつきまとわれる立場になってしまうことがあります。
この種の相談は表に出にくいものです。「自分が風俗を利用していたことを、家族や職場に知られたくない」という思いから、誰にも言えず一人で抱え込みやすいためです。しかし、放置すれば行為が続いたりエスカレートしたりするおそれがあります。
この記事では、性風俗を利用する男性が嬢・キャストからつきまといや執拗な連絡を受けたときに、客側が落ち着いて取れる法的な選択肢を整理します。細かな手続きは関連記事に譲り、ここでは「まず何を確認し、どこから動くか」に絞って解説します。
「される側」が客になることも実際にある
インターネット上には「風俗嬢が客からストーカーされたときの対処」という情報が数多くあります。一方で、その逆——客が嬢・キャストからつきまとわれるケースを正面から扱った情報は多くありません。ですが、こうした相談は実際に存在します。
きっかけはさまざまです。相手が客に好意を寄せて「本気の交際」を求めるようになるケース、逆に交際や連絡を断られたことへの不満・怨恨から嫌がらせに転じるケースなどが考えられます。いずれも、相手の一方的な思い込みや執着から始まることが少なくありません。
ここで押さえておきたいのは、ストーカー規制法などの保護は、被害者の性別や職業、相手との出会い方を問わないという点です。「風俗で知り合った相手だから」「自分が客の側だから」といった事情によって、被害者としての保護が受けられなくなるわけではありません。つきまといを受けているのであれば、あなたは保護される側です。
まず見極める:「ストーカー」か「金銭要求」か
対処の入口として、相手の行為がどのタイプかを見極めることが大切です。大きく分けて二つの方向があり、どちらに当たるかで使う法律や進め方が変わってきます。
一つは、恋愛感情その他の好意、あるいはそれが満たされなかったことへの怨恨を動機とするつきまとい・執拗な連絡です。待ち伏せ、押し掛け、拒否したのに続く連続的な連絡、SNSでの執着的な書き込みなどがこれに当たり得ます。こうした行為は、ストーカー規制法上の「つきまとい等」やストーカー行為として、警告・禁止命令といった措置の対象になり得ます。
もう一つは、金銭を引き出すことが目的の行為です。「慰謝料を払え」「払わなければ店や家族にバラす」といった形で、つきまといや暴露をちらつかせて金品を要求してくるケースです。これはストーカーというより、脅迫罪や恐喝罪の問題として捉えるべき局面で、いわゆる美人局的な構図と交差することもあります。
実際には両方が混ざっていることもあります。まずは「相手が求めているのは自分との関係か、それとも金か」を冷静に切り分けることが、次の一手を選ぶ出発点になります。
客が動けなくなる最大の理由——「利用がバレる」不安
この問題で客側の相談をためらわせる最大の要因が、風俗を利用していた事実が周囲に知られることへの不安です。ここは誤解を解いておく必要があります。
一般に、成人が合法な範囲で性風俗を利用する行為それ自体を処罰する規定はありません。買春そのものに罰則を定めた法律はなく、店の利用者という立場だけで犯罪になるわけではないのが原則です(相手が18歳未満であった場合や、相手の同意がない行為があった場合など、別のレイヤーの問題が生じる例外はあります。つまり、多くのケースであなたは「被疑者」ではなく「被害者」であり、被害者として相談・保護を求めてよい立場にあります。
また、警察への相談や弁護士への相談をしたからといって、その事実が自動的に家族や勤務先に伝わるわけではありません。警察には相談専用の窓口(#9110)があり、弁護士には守秘義務があります。どこまで・どのように進めるかは相談しながら選べるため、「知られたくない」という希望自体を相談の前提として伝えて問題ありません。
そのうえで、早い段階で相手が自分のどの情報を握っているかを棚卸ししておくと、以後の対応がぶれません。本名(源氏名ではない実名)、電話番号、LINEなどのアカウント、自宅や勤務先、SNS——どこまで相手に渡っているかによって、取るべき備えの優先順位が変わります。
相手が「嬢・キャスト」であることの特徴と、「店」の使い方
相手が風俗店のキャストであるという点には、一般的なつきまとい事案とは違う特徴があります。
一つは連絡先の入手経路です。店を通じて番号を知った、いわゆる直引き・裏引きの流れで個人的に連絡先を交換していた、SNSでつながっていた——経路によって、遮断すべき窓口が変わります。相手とつながっているルートを一つずつ把握し、順に断っていくことが基本になります。
もう一つは店という存在です。相手がまだその店に在籍しているなら、店に事情を伝えて対応を求められる場合があります。店側が個人的な接触を控えるよう指導したり、実質的に指名やり取りを止めたりすることもあり得ます。ただし、店の対応はあくまで任意であり、必ず動いてくれるとは限りません。相手がすでに退店していれば、店経由の手は届かなくなります。店を頼れるかどうかは、状況次第と考えておくのが現実的です。
客側がとれる法的措置(概観)
被害の段階や相手の出方に応じて、次のような手が考えられます。ここでは全体像を示し、具体的な進め方は各関連記事に譲ります。
- 記録・証拠を残す:いつ・どこで・何をされたかを時系列でまとめ、メッセージや着信履歴は元データを消さずに保全します。
- 連絡窓口を一本化し、接触をやめるよう正式に求める:自分で直接やり合わず、弁護士名義の通知で接触の中止を求める、接触禁止を盛り込んだ合意を交わす、面談強要禁止などの仮処分を検討する——といった民事的な手段があります。
- 警察に相談し、行政上の措置につなげる:#9110への相談や被害届の提出、ストーカー規制法に基づく警告・禁止命令の要請などが考えられます。
- 金銭要求が絡む場合は脅迫・恐喝として対応する:暴露をちらつかせた金品要求には、応じる前に脅迫・恐喝への対応の枠組みで考えます。
なお、ストーカー規制法は2025年末に施行された改正で、被害者の申し出がなくても警察の職権で警告を出せる仕組みが設けられるなど、申し出をためらいがちな被害者が使える選択肢が広がっています。「自分から前面に立つのは避けたい」という事情がある人ほど、一度専門の窓口に相談してみる意味があります。
初動でやること・避けること
最後に、客側が最初につまずきやすいポイントを整理します。
避けたいことは、身バレを恐れて何もせず放置すること、相手に感情的に直接反論すること、そして金銭で黙らせようとすることです。反応することが相手の執着を持続させることがあり、金銭を払えば要求がむしろ強まって金銭目的の構図へ変質してしまうおそれもあります。自分で相手の素性を調べようと動くのも、トラブルを広げかねません。
取りたいことは、やり取りを記録として残すこと、連絡の窓口を一本化すること、相手が在籍中なら店に相談すること、そして早めに弁護士へ相談することです。身の危険が差し迫っていると感じたら、ためらわず110番を優先してください。
つきまといや執拗な連絡は、放っておいて自然に収まるとは限りません。「利用がバレるのが怖い」という気持ちは自然なものですが、それを理由に一人で抱え込む必要はありません。当事務所は性風俗にまつわるトラブルについて、利用する側の立場に立った対応を続けています。相手との連絡をどう断ち、どの手段から動くべきか迷っているときは、早い段階でご相談ください。


