不貞慰謝料と離婚慰謝料はどう違うのか|請求先と時効が変わる
慰謝料の問題を弁護士に相談するとき、多くの方が最初に気にされるのが「費用のほうが高くついてしまわないか」という点です。いわゆる「費用倒れ」と呼ばれる状態です。
もっとも、この言葉は、請求する側と請求された側とで、指している中身がかなり違います。同じ一語でも、何と何を比べているのかが入れ替わるためです。ここを取り違えたまま金額の大小だけで判断すると、見当違いの結論にたどり着くことがあります。
この記事では、費用倒れという言葉の中身を分解したうえで、請求する側と請求された側のそれぞれで、どこに分かれ目があるのかを整理します。
この記事で整理すること
扱う範囲を先にお示しします。
- 「費用倒れ」という言葉が、何と何を比べているのか。
- 請求する側と請求された側で、比べる対象がどう入れ替わるのか。
- それぞれの側で、分かれ目になりやすい事情。
- 依頼を検討する段階で確かめておきたい費用の条件。
一方で、弁護士費用を相手方に負担させられるかという論点、調査費用の扱い、相手方の支払能力の調べ方、回収の手立て、請求額と最終的な着地額がずれる仕組みについては、それぞれ別の記事で扱っています。本記事では立ち入りません。
「費用倒れ」という言葉に決まった定義はない
まず押さえておきたいのは、費用倒れが法律上の用語ではないという点です。条文に定義はなく、一般に「かかった費用が、得られたものを上回った状態」を指す言い方として使われています。
定義がない以上、何を費用に数え、何を得たものに数えるかによって、同じ事案でも結論が変わります。ほかの記事や事務所の説明を読み比べるときは、金額の目安よりも先に、その説明がどの引き算をしているのかを見ておくと、混乱が減ります。
何を費用に数えるか
費用と呼ばれるものは、弁護士に支払う報酬(相談料・着手金・報酬金・日当・手数料など)と、手続そのものにかかる実費(裁判所に納める手数料、郵便料、交通費、公正証書の作成費用など)に大きく分かれます。
このうち実費には、依頼の有無にかかわらず生じるものが含まれます。自分で進めれば費用がかからないというわけではない点は、見落とされやすいところです。
何を「得たもの」に数えるか
ここが、請求する側と請求された側で入れ替わる部分です。請求する側にとって得たものは、相手方から手元に入ったお金です。請求された側にとって得たものは、支払わずに済んだお金、つまり出ていく金額が減った分になります。
前者はプラスの数字が増える話であり、後者はマイナスの数字が小さくなる話です。似た形の引き算に見えて、性質が違います。
請求する側と請求された側では、引き算の形が違う
両者を並べると、比べる対象そのものが入れ替わっていることが分かります。
| 比べる点 | 請求する側 | 請求された側 |
|---|---|---|
| 得られるもの | 相手方から手元に入るお金 | 支払わずに済んだお金 |
| 費用の原資 | 入ってきたお金から差し引ける場合がある | 自分の資力から出す |
| 報酬の基準になりやすいもの | 回収できた額 | 減らせた額 |
| 手続の進み方 | 自分が動かなければ始まらない | 自分が動かなくても進むことがある |
| やめたときの費用 | 請求を見送れば、それ以上は増えない | 相手方の手続が続く限り、増えることがある |
同じ言葉でも、負担の出方が違う
請求する側の費用倒れは、「入ってくるはずだったお金が、思ったほど入らなかった」という形で表れます。回収した金額の中から費用を差し引ける場面もあるため、手元の資金がそのまま目減りするとは限りません。
これに対して請求された側の費用倒れは、減らせた金額がいくらであっても、費用そのものは自分の財布から出るという形になります。新しくお金が入ってくるわけではないため、負担の感じ方は同じではありません。
請求する側の分かれ目は、認められるかどうかより回収できるかにある
請求する側で費用倒れが問題になるのは、請求が通らなかった場面だけではありません。むしろ、請求が認められたのに手元に入らなかった、という場面のほうが判断を難しくします。
判決が出ても、支払いが始まるとは限らない
裁判で金額が認められても、それは支払いを命じる文書が手に入った段階です。相手方が任意に支払わない場合には、あらためて財産を差し押さえる手続が必要になり、そこでも費用と時間がかかります。相手方の資力の見極め方や、回収の手立てについては別の記事で扱っています。
費用が先に出て、回収は後になる
着手金や実費は手続の入口で生じ、回収は解決の後に来ます。この時間差があるため、最終的な収支が合っていても、途中の資金繰りが負担になることがあります。分割払いで決着した場合には、この差がさらに長く続きます。
請求額を高く置くほど、納める手数料も増える
訴えを起こす際に裁判所へ納める手数料は、請求する金額(訴訟の目的の価額)に応じて段階的に増える仕組みです(民事訴訟費用等に関する法律3条1項および別表第一)。金額を高く置けば、その分だけ入口の実費が増えることになります。なお、令和8年5月21日に施行された改正民事訴訟法が適用される事件かどうかによって、手数料の額が異なる扱いになっています。
請求された側の分かれ目は、請求額の大きさではない
請求された側について、「請求額が大きければ弁護士に依頼する意味があり、小さければ費用倒れになる」という説明を見かけることがあります。これは半分だけ当たっている見方です。
比べるのは請求額ではなく、請求額と着地見込みの差
減額の交渉で得られるものは、請求された金額そのものではなく、請求額と、争った場合に落ち着くと見込まれる金額との差です。したがって、請求額が高くても、その金額に見合う事情がそろっていれば差は小さくなりますし、請求額がさほど高くなくても、事実関係や責任の範囲に争える点があれば、差は大きくなり得ます。
金額の大小そのものではなく、差がどれだけ生まれ得るかが分かれ目になります。請求額と着地額がずれる仕組みについては、別の記事で扱っています。
減っても、新しいお金は入ってこない
請求する側であれば、回収した金額の中から費用をまかなえる場面があります。請求された側には、その原資がありません。支払う金額が下がったとしても、費用は別に用意することになります。分割払いを検討している場合には、費用の支払時期と慰謝料の支払時期が重なることもあります。
争える点が乏しいほど、差は小さくなる
事実関係を認めていて、期間や経緯についても双方の見方が一致しており、請求額も当初から控えめに置かれている。このような場合には、争える点が少ないぶん、動かせる幅も小さくなります。この場合は、金額を下げること以外の目的、たとえば支払方法や今後のやり取りの取り決めなどがあるかどうかが、判断の中心になります。
「費用倒れ」と呼ばれる場面には型がある
実際に費用倒れと言われる場面を並べると、いくつかの型に分かれます。
| 型 | 何が起きているか | 起きやすい側 |
|---|---|---|
| 認められたが回収できない | 支払いを命じる文書は得たが、支払われない | 請求する側 |
| 認められた額が想定を下回った | 一部だけ認められた、または大きく譲って和解した | 請求する側 |
| 減らせた額が費用に届かない | 争える事情が乏しかった | 請求された側 |
| 争わなくても結果が変わらなかった | 当初の請求額が着地見込みに近かった | 請求された側 |
| 手続が長引いて費用だけが増えた | 争点が多く、段階が進んだ | どちらの側にも |
このうち上の4つは、依頼する前の見立てである程度は見当がつく型です。最後の1つは相手方の対応に左右されるため、入口の段階では読み切れません。見通しの説明を受けるときは、この読み切れない部分がどこにあるのかもあわせて聞いておくと、後の受け止め方が変わります。
金額の引き算に載らないものがある
費用倒れは金額どうしの比較ですが、依頼によって得られるもののなかには、金額に換算されないものがあります。
- 相手方や相手方の代理人と直接やり取りをしなくて済むこと。
- 期限のある書面の作成や提出を任せられること。
- 接触の禁止や口外の禁止といった条件を書面に残せること。
- 家族や職場に知られにくい進め方を選べること。
- 見通しを踏まえたうえで、支払うかどうかを自分で決められること。
これらは引き算の式に入らないため、金額だけで比べると評価から抜け落ちます。逆に言えば、金額以外の目的が中心にある場合、費用倒れという物差し自体が事案に合っていないことがあります。示談書に入れる条項の設計については、別の記事で扱っています。
依頼を検討する段階で確かめておきたいこと
費用倒れを避けるという観点から、依頼の前に確かめておくとよい点を挙げます。
- 報酬の基準になる「経済的利益」が、具体的に何を指すのか。
- 着手金と報酬金のほかに生じる費用(実費・日当・手数料など)の範囲。
- 交渉から調停や訴訟へ移った場合に、追加の費用が生じるかどうか。
- 途中で終わった場合や、成果が得られなかった場合の精算の扱い。
- 見込みの説明が、幅を持った形で示されているかどうか。
- 以上の内容が委任契約書に書き込まれているかどうか。
弁護士職務基本規程は、弁護士に対し、経済的利益・事案の難易・時間および労力その他の事情に照らして適正かつ妥当な弁護士報酬を提示すべきこと(24条)、受任にあたり事件の見通し、処理の方法、弁護士報酬および費用について適切な説明をすべきこと(29条1項)、弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成すべきこと(30条)を定めています。費用の話は切り出しにくいと感じられるかもしれませんが、説明を受けること自体が前提とされています。
結果を請け合う説明は規程で禁じられている
同じ規程は、弁護士が依頼者に有利な結果となることを請け合い、または保証してはならないこと(29条2項)、依頼者の期待する結果が得られる見込みがないにもかかわらず、その見込みがあるように装って受任してはならないこと(29条3項)も定めています。
そのため、見通しの説明は幅のある言い方になるのが通常です。費用に関する仕組みについても、どの範囲に適用されるのか、実費や手数料が対象に含まれるのか、交渉から訴訟に移った場合はどう扱われるのかを条件として確かめておくと、理解の行き違いが起きにくくなります。
報酬の基準は事務所ごとに異なる
弁護士の報酬は、かつては日本弁護士連合会の統一的な基準に沿って定められていましたが、平成16年4月1日以降はその基準が廃止され、各事務所がそれぞれの基準を定める形になっています。したがって、同じ事案でも事務所によって費用の組み立て方が異なります。
旧基準の考え方では、着手金は依頼の対象となる経済的利益の額を、報酬金は処理によって確保した経済的利益の額を基準として算定するものとされていました。請求された側の依頼で「減らせた額」が基準に置かれやすいのは、この考え方を引き継いでいるためです。もっとも、現在の基準の内容は事務所ごとに違いますので、契約の前にご確認ください。
よくあるご質問
相手に資力がなさそうなときは、請求をやめたほうがよいのでしょうか
資力が乏しいことと、請求が認められないことは別の問題です。ただ、回収の見込みは費用倒れの判断に直結しますので、請求の当否とは分けて検討することになります。相手方の財産に手が届く場面や、支払能力の見極め方については、別の記事で扱っています。
請求された側が何もしなければ、費用はかからないのでしょうか
連絡に応じないでいると、交渉の段階では動きが止まったように見えることがあります。もっとも、相手方が裁判所の手続に移した場合には、こちらが応答しないまま進んでしまうことがあります。放置は費用を止める方法にはならないとお考えください。応答しなかった場合に何が起きるかは、別の記事で扱っています。
弁護士費用は相手方に負担させられないのでしょうか
訴訟で請求が認められた場合に、弁護士費用のうち一定の部分が損害として加算されることはあります。もっとも、その範囲は限られており、交渉や和解で終える場合の扱いも異なります。この論点は、別の記事で詳しく扱っています。
まとめ
- 費用倒れは法律上の用語ではなく、何を費用に数え、何を得たものに数えるかで結論が変わります。
- 請求する側の「得たもの」は手元に入るお金であり、請求された側の「得たもの」は支払わずに済んだお金です。
- 請求する側の分かれ目は、認められるかどうかよりも、回収できるかどうかにあります。
- 費用は入口で、回収は出口で生じるため、収支が合っていても時間差が負担になることがあります。
- 請求された側の分かれ目は、請求額の大きさではなく、請求額と着地見込みとの差です。
- 請求された側には回収という原資がないため、費用は自分の資力から出すことになります。
- 接触の禁止や口外の禁止といった条件は金額に換算されず、引き算からは抜け落ちます。
- 依頼の前に、経済的利益の意味、費用の範囲、段階が変わったときの扱い、途中で終わった場合の精算を確かめておくことが助けになります。
ご相談について
弁護士法人若井綜合法律事務所では、慰謝料に関するご相談を承っています。請求する側・請求された側のいずれについても、見通しと費用の見込みを整理したうえで、依頼するかどうかをご検討いただけるようにしています。
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