【不貞慰謝料】写真・動画の証拠価値と限界
この記事は、2026年10月時点の法令に基づいて作成しています。2025年6月1日に施行された改正刑法により「懲役」「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されており、本文中の法定刑はこれを反映しています。
「別れた後、外出から戻ると物の位置が変わっていた」「元交際相手が、部屋の中にある物の話をしてきた」。こうしたご相談は、男女間のトラブルの中でも、生活の場そのものが脅かされるという点で不安の大きいものです。一方で、立ち入った側からは「荷物を取りに行っただけ」「合鍵は渡されていた」という説明が出てくることも少なくありません。
合鍵を使って元交際相手の部屋に入ると住居侵入罪になり得る、という説明は多くのサイトで見られ、それ自体は誤りではありません。ただ、その多くは「入った側が罪になるか」という視点で書かれており、入られた側が気づいた後に何をどの順序で行えばよいか、部屋で何が起きたかによって何が変わるかまでは触れられていないことがあります。
この記事では、別れた相手に無断で部屋へ入られていたと気づいた方に向けて、最初に確かめること、住居侵入の考え方、部屋で起きたこと別の法律の整理、裏付けの集め方、警察への相談と再発防止、相手に求められることを順に解説します。合鍵の返還交渉や、部屋に残された荷物の扱いについては、それぞれ別の記事で取り上げています。
「入られていた」と気づいたとき、最初に確かめること
相手がまだ近くにいる可能性があるとき
鍵が開いていた、室内に人の気配がある、出ていったばかりと思われるなど、相手がまだ部屋の中や近くにいる可能性がある場合は、部屋に入って確かめるより先に、その場を離れて安全な場所から110番通報することを優先してください。帰宅直後に相手と鉢合わせると、口論や身体への危険につながるおそれがあります。確認や証拠集めは、安全を確保した後でも間に合います。
部屋の状態をそのまま残す
安全が確保できたら、片付ける前に室内の様子を写真や動画で記録しておきます。物の位置が変わった棚、開けられた引き出し、なくなった物が置いてあった場所、玄関や床の様子などです。警察が状況を確認することもあるため、触れる範囲はできるだけ少なくしておくほうがよいでしょう。
気づいた手がかりを書き留める
「入られた」と考えた理由を、日時とあわせてメモにしておきます。最後に部屋を出た時刻、帰宅した時刻、変わっていた点、相手が部屋の様子を知っているような発言をしたことなどです。記憶は時間とともに曖昧になるため、早い段階で書き出しておくことが、後の相談や届出の土台になります。
別れた相手の立入りは住居侵入になるのか
合鍵を持っていても、承諾が続いているとは限らない
住居侵入罪は、正当な理由がないのに人の住居に侵入した場合に成立し、法定刑は3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金です(刑法130条)。ここでいう「侵入」は、住んでいる人の意思に反して立ち入ることをいうと解されています。
交際中に合鍵を渡していたとしても、それは交際していることを前提にした立入りの承諾と考えるのが自然です。別れた後や、来ないでほしいと伝えた後に無断で入った場合、合鍵を持っていたことだけで承諾があったとは言いにくく、住居侵入にあたる可能性があります。住居侵入がどこから成立するかの一般的な考え方は、住居侵入・建造物侵入はどこから成立するのかで解説しています。
相手の言い分ごとの考え方
相手が立ち入ったことを認めたうえで、理由を説明してくることがあります。代表的な言い分と、それぞれの考え方の目安を整理すると次のとおりです。
| 相手の言い分 | 考え方の目安 |
|---|---|
| 荷物を取りに来ただけ | 自分の物を取りに行く目的があっても、住んでいる人の承諾なく入ってよい理由にはならないと考えられます。日時を決めて受け渡すなど、ほかの方法があるためです |
| 合鍵を渡されていた | 交際中の承諾が、別れた後や来ないでほしいと伝えた後まで続いているとは言いにくいとされます |
| 以前は一緒に住んでいた・家賃を一部払っていた | 退去が済み、契約名義もない場合は「他人の住居」と整理されやすい一方、同棲の解消が終わっていない場合は別の検討が必要です |
| 心配で様子を見に来た | 動機が心配であっても、承諾のない立入りを正当化する理由にはなりにくいと考えられます |
| 部屋の前まで行っただけ | 室内に入っていなくても、建物の共用部分への立入りや、つきまとい等として問題になることがあります |
同棲の解消が終わっていない場合は別の整理になる
相手もその部屋の賃貸借契約の名義人である場合や、別れた後も相手の荷物が置かれたまま行き来が続いていた場合には、相手にとっても「自分の住居」という面が残り、住居侵入にあたるかどうかは事情によって判断が分かれます。この場合は、刑事の問題として扱う前に、退去や明渡しの話し合いを進める必要があることが多いです。相手が部屋から出ていかない場面については、【男女トラブル】同棲していた部屋から相手が出ていかない|名義を貸した側にできることをご覧ください。
部屋で何が起きたかによって、関わる法律が変わる
立ち入ったこと自体のほかに、部屋の中で何が行われたかによって、問題になる法律や、警察への届出の進め方が変わります。主な場面を整理すると次のとおりです。
| 部屋で起きたこと | 主に問題になる法律 | 押さえておきたい点 |
|---|---|---|
| 無断で立ち入った | 住居侵入罪(刑法130条) | 告訴がなくても捜査の対象になる罪です |
| 物を持ち出された | 窃盗罪(刑法235条) | 交際中に贈られた物でも、受け取った人の物になっていれば問題になり得ます |
| 物を壊された・汚された | 器物損壊罪(刑法261条) | 告訴がなければ起訴できない罪です(同法264条) |
| 郵便物を開けられた | 信書開封罪(刑法133条) | 告訴がなければ起訴できない罪です(同法135条) |
| IDとパスワードでアカウントに入られた | 不正アクセス禁止法 | 端末を見ただけか、ログインまでしたかで整理が変わります |
| カメラや発信機器を置かれた | 性的姿態撮影等処罰法、ストーカー規制法など | 撮影された内容や、位置情報の取得の有無によって変わります |
物を持ち出された・壊された場合
なくなった物や壊された物を一覧にし、購入時期や価格が分かる資料、以前の写真があれば集めておきます。相手が「自分が贈った物を返してもらっただけ」と説明することもありますが、交際中に贈られた物は、受け取った時点で受け取った人の物になっているのが通常です。どちらの物か争いがある場合は、購入の経緯や受け渡しの状況が判断材料になります。
器物損壊のように告訴が必要な罪は、原則として犯人を知った日から6か月以内に告訴する必要があります(刑事訴訟法235条)。届け出るかどうかを迷っている場合でも、期間の制限があることは意識しておくとよいでしょう。
カメラや発信機器が置かれていないか
無断で入られた場合は、物がなくなっていないかだけでなく、見慣れない機器や物が置かれていないかも確認しておきたいところです。小型のカメラや位置を知らせる機器には、電源タップや充電器、置物など日用品に紛れる形のものもあります。見つけた場合は、自分で壊したり捨てたりせず、写真に残したうえで警察に相談するのが無難です。位置情報を無断で取得される被害については、GPS・AirTagで居場所を追跡された|改正ストーカー規制法と位置情報無承諾取得の罪で解説しています。
郵便物やスマホ・パソコンに触れられた場合
部屋に置いていたパソコンやタブレットが使われた形跡がある場合は、各サービスのログイン履歴を確認し、パスワードを変更しておきます。他人のIDとパスワードを入力してアカウントにログインする行為は、法律で禁止されています(不正アクセス行為の禁止等に関する法律3条)。端末を見られる、行動を把握されるといった問題については、恋人に行動を監視される・スマホを覗かれる|プライバシー侵害と安全な別れ方も参考になります。
立ち入ったことをどう裏付けるか
無断の立入りは留守中に起きることが多く、目撃者がいないことも珍しくありません。「入られた」という感覚を、第三者にも分かる記録に置き換えていくことが、警察への相談でも、相手との交渉でも出発点になります。
建物や設備に残る記録は早めに確保する
マンションの防犯カメラ、オートロックやスマートロックの解錠履歴などは、相手の出入りを示す手がかりになり得ます。もっとも、防犯カメラの映像は一定の期間で上書きされる設定のものが多く、管理会社が居住者本人への提供に応じないこともあります。まず保存を早めに依頼し、提供が難しい場合は警察を通じた確認を検討します。スマートロックの履歴は、アプリの画面を撮影して残しておくとよいでしょう。管理会社や設備を通じてできることは、【ストーカートラブル】自宅マンションに来られている|管理会社・オートロック・防犯カメラでできることで詳しく取り上げています。
相手とのやり取りに残る手がかり
相手からのメッセージに、部屋の様子を知っていなければ書けない内容や、「荷物を取りに寄った」といった記載が含まれていることがあります。こうしたやり取りは、削除せずに画面を保存しておきます。問いただすために自分から相手に連絡すると、言い分を整えられたり、接触が増えたりするおそれもあるため、連絡するかどうかは慎重に考えたほうがよいでしょう。
警察への相談と届出の進め方
110番と相談窓口の使い分け
相手が部屋の中や近くにいる、侵入された直後であるなど、いま危険が続いている場合は110番です。気づいたのが後になってからで、差し迫った危険がない場合は、最寄りの警察署に連絡するか、警察相談専用電話(#9110)を利用して相談します。相談の際は、記録した写真やメモ、なくなった物の一覧を持参すると話が進みやすくなります。
被害届と、ストーカー規制法の手続
住居侵入や窃盗について捜査を求める場合は、被害届を出すことが考えられます。また、相手の行動の背景に、復縁を求める気持ちや別れたことへの恨みがあり、部屋への立入りのほかにも待ち伏せや連絡が続いているような場合は、ストーカー規制法の「つきまとい等」(住居等に押し掛けることなどを含みます。同法2条1項1号)として、警告や禁止命令の対象になることがあります。どちらを選ぶか、併用するかは状況によって異なります。手続の違いは被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶで解説しています。
届け出た後のことも見通しておく
届出をすると、相手が事情を聴かれ、こちらが警察に相談したことが相手に伝わることになります。その後に相手との接触がどうなりそうか、相手から示談の申入れがあったときにどう対応するかもあわせて考えておくと、落ち着いて対応しやすくなります。届け出るかどうか迷っている段階でも、警察に相談した記録を残しておくことには意味があります。
再び入られないための備え
鍵の交換と、管理会社への連絡
相手が合鍵を持っている場合や、合鍵を返してもらった後なのに入られた形跡がある場合は、複製された鍵がある可能性も考え、鍵(シリンダー)の交換を検討します。賃貸住宅では、鍵の交換に貸主や管理会社の承諾が必要とされていることが多いため、事情を伝えて相談しましょう。合鍵の返還交渉と鍵を替える判断については、【男女トラブル】別れた相手が合鍵を持っている|返してもらう交渉と、鍵を替える判断で詳しく解説しています。
相手との接触をどう止めるか
鍵を替えても、相手が部屋の前まで来る、連絡が続くといった状態が残ることがあります。弁護士が代理人として相手に通知を送り、今後の立入りや接触をしないことを書面で約束してもらう方法のほか、警察によるストーカー規制法上の対応や、裁判所に接近禁止を求める仮処分といった方法もあります。鍵の交換は物理的な備え、通知や手続は相手の行動に向けた備えとして、組み合わせて考えることが大切です。それぞれの使い分けは接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けをご覧ください。
相手に求められること
鍵の交換費用、壊れた物、精神的な苦痛
無断の立入りは、刑事の問題であると同時に、民事上の不法行為(民法709条)にもあたり得ます。損害として、鍵の交換にかかった費用、壊された物の修理費や時価、精神的な苦痛に対する慰謝料(同法710条)などを請求することが考えられます。金額は、立入りの回数や態様、部屋で行われたこと、その後の生活への影響などによって変わるため、一律の目安を示すことは難しいところです。
持ち出された物の返還と、合意の書面
持ち出された物については、所有者として返還を求めることができます。相手との話し合いで解決する場合は、返還の方法と期限、合鍵の返却、今後の立入りや接触をしないこと、違反した場合の取り決めなどを合意書にまとめておくと、後の紛争を防ぐことにつながります。なお、相手の荷物がまだ部屋に残っている場合に、それを勝手に処分すると、今度はこちらが責任を問われるおそれがあります。この点は【男女トラブル】相手の荷物が家に残っている・自分の荷物を取りに行きたい|勝手に処分してよいかで取り上げています。
入られた側が避けたい対応
入られた側であっても、対応の仕方によっては、自分の立場を弱めてしまうことがあります。次のような対応は控えたほうがよいでしょう。
- 持ち出された物を取り返すために、相手の部屋に無断で入ること。
- 相手の勤務先や家族、SNSに、入られたことを一方的に知らせること。
- 見つけた機器や相手が残した物を、記録を残す前に捨てたり壊したりすること。
- 感情的なメッセージを繰り返し送り、やり取りの記録を自分に不利な内容にしてしまうこと。
- 相手から示された書面に、内容を確認しないまま署名すること。
特に、取り返すために相手の部屋に入ると、今度はこちらが住居侵入に問われる可能性があります。持ち出された物の返還は、話し合いや法的な手続を通じて求めるのが基本です。
よくあるご質問
合鍵を返してもらった後なのに、入られた形跡があります。
返却前に複製された鍵が使われた可能性があります。返却を受けたことで安心せず、鍵の交換を検討してください。合鍵を返した後の立入りであれば、相手に立入りの承諾がなかったことはより明確になります。返却を受けた日時や方法が分かるやり取りは保存しておきましょう。
入られたのは一度だけで、何も取られていません。それでも相談できますか。
物を取られていなくても、無断の立入りそのものが住居侵入にあたり得ます。また、一度の立入りであっても、その後の生活に不安が残ることは少なくありません。鍵の交換や、相手に今後の立入りをしないよう求める方法を含めて、状況に応じた対応を検討できます。
しばらく経ってから、入られていたことに気づきました。
時間が経っていても、相談や届出ができなくなるわけではありません。住居侵入の公訴時効は3年(刑事訴訟法250条2項6号)、不法行為による損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から3年で時効にかかるのが原則です(民法724条1号)。ただし、時間の経過とともに建物の記録は消え、記憶も薄れていくため、気づいた時点でできるだけ早く記録を整えることが大切です。
まとめ
- 相手がまだ近くにいる可能性があるときは、部屋に入らず安全な場所から110番通報する。
- 片付ける前に室内の様子を記録し、入られたと考えた理由を日時とともに書き留める。
- 合鍵を渡していても、別れた後の無断の立入りは住居侵入(刑法130条)にあたる可能性がある。
- 物の持出しは窃盗(刑法235条)、損壊は器物損壊(同法261条)など、部屋で起きたことによって関わる法律と届出の進め方が変わる。
- 防犯カメラや解錠履歴など建物側の記録は消えやすいため、早めに保存を依頼する。
- 再発防止には、鍵の交換に加え、弁護士からの通知、ストーカー規制法上の対応、接近禁止の仮処分などを状況に応じて組み合わせる。
- 鍵の交換費用や慰謝料などは、不法行為(民法709条・710条)として相手に請求できることがある。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。別れた相手に部屋へ入られていた、合鍵を返してもらえないまま不安が続いているといったご相談について、警察への相談との進め方の整理も含めて対応しています。
相手から「荷物を取りに行っただけ」と説明されている方、どこまでを相手に求められるのか判断がつかない方も、まずは状況をお聞かせください。元交際相手の部屋への立入りを問題にされている方からのご相談もお受けしています。


