スマホ・PCを押収された|いつ返るのか、中身はどこまで見られるのか
「どこからが住居侵入になるのか」という質問は、刑事事件のご相談の中で繰り返し受けるものです。塀の内側に足を踏み入れた時点なのか、玄関の扉を開けた時点なのか、体が建物の中に入りきった時点なのか。線の引き方がはっきりしないまま、警察から連絡を受けて不安を抱えている方は少なくありません。
この問いが答えにくいのは、「どこから」という一つの言葉の中に、三つの別々の問いが重なっているからです。法律が守っている場所の範囲を尋ねているのか、体をどこまで入れたら「侵入」になるのかを尋ねているのか、入ってよいと言われていた場合にその許しがどこまで及ぶのかを尋ねているのか。この三つは判断の材料が違い、答えも別々に出てきます。
この記事では、刑法130条前段の住居侵入罪・建造物侵入罪について、三つの線を順に整理します。実際の事件で争いになりやすいのは二つ目と三つ目で、この点については近年の裁判例の判断も出ています。
こんな場面で問題になります
- 門扉を開けて敷地に入り、玄関先まで進んだところで住人に見つかった。
- マンションのエントランスから中に入り、階段で上の階まで上がった。
- 勤務先の建物内で、自分が立ち入る用のない区画の扉を開け、体を半分入れた。
- 「入っていいよ」と言われて家に上がったが、後になって別の目的を隠していたと指摘された。
- 営業時間の終わった店舗に、従業員用の出入口から入った。
どの場面も、立ち入りがあったこと自体は動かしにくい一方で、それが法律上の「侵入」に当たるかどうかは別に検討されます。
刑法130条前段が定めていること
まず条文を確認します。刑法130条は、前段で住居侵入罪・邸宅侵入罪・建造物侵入罪・艦船侵入罪を、後段で不退去罪を定めています。
前段は「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し」た者を、3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処すると定めています。拘禁刑は、2025年6月1日に施行された改正刑法により、従来の懲役刑と禁錮刑が一本化された刑罰です。刑法132条により未遂も処罰の対象とされ、告訴がなくても捜査や起訴が可能な罪とされています。
条文の文言を分解すると、「人の住居/人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船」という場所の要素と、「侵入し」という行為の要素と、「正当な理由がないのに」という要素の三つでできています。「どこから成立するのか」という問いは、このうち場所の要素と行為の要素のどこに関心があるかによって、聞いていることが変わってきます。
「どこから」という問いは三つに分かれる
| 問いの形 | 何によって判断されるか |
|---|---|
| どこまでが守られている場所なのか | その場所が条文の挙げる住居・邸宅・建造物・艦船(およびこれと一体とみられる敷地)に当たるか |
| 体をどこまで入れたら「侵入」なのか | 入れた身体の部位・程度・態様、入った場所の構造、入っていた時間の長さ |
| 入ってよいという許しはどこまで及ぶのか | その承諾がどの範囲・どの目的・どの時間帯を予定したものだったか |
一般的な解説の多くは、一つ目の問いだけを扱っています。庭も含まれる、マンションの共用部分も含まれる、といった説明です。しかし実務で争点になるのは、二つ目と三つ目であることが少なくありません。順に見ていきます。
一つ目の線|守られている場所の範囲
条文が挙げる四つの場所は、次のように整理されています。
| 条文の言葉 | 意味 | あてはまりやすい例 |
|---|---|---|
| 住居 | 人が日常の生活に使用している場所 | 自宅、アパートやマンションの各室、宿泊中のホテルの客室 |
| 邸宅 | 住居として造られたが、現に住居として使われていない建物 | 空き家、季節外れの別荘 |
| 建造物 | 屋根があり壁や柱に支えられて土地に定着し、人が出入りできる構造の建物のうち、住居・邸宅以外のもの | 会社の建物、学校、店舗、官公庁の庁舎 |
| 艦船 | 船舶 | 停泊中の貨物船や客船 |
建物そのものだけでなく、建物に接していて、門や塀などの囲いによって建物の付属地であることが示されている土地も、これらの場所の一部として扱われます。塀の内側の庭に入った時点で立ち入りがあったと評価されるのは、この考え方によります。集合住宅の共用部分や、会社・学校の敷地についても、同じ枠組みの中で個別に判断されています。
もっとも、この一つ目の線は、場所の性質さえ決まればおおむね答えが出ます。相談の場で判断が割れるのは、次の二つです。
二つ目の線|体をどこまで入れたら「侵入」なのか
三つの考え方がある
「侵入」といえるために、体がどこまで入っている必要があるのか。学説では大きく三つの考え方が示されてきました。
- 身体の全部を中に入れたときに「侵入」といえるとする考え方。
- 身体の大部分を中に入れたときに「侵入」といえるとする考え方。
- 身体の一部でも中に入れれば「侵入」といえるとする考え方。
このうち、身体の全部が入ったときとする考え方が通説とされてきました。インターネット上の解説にも「体が全部入っていなければ既遂にならない」と書かれているものがあります。一方で、身体の一部で足りるとする考え方は、「侵入」という言葉の読み方として無理があるとして、支持する立場は少ないと紹介されています。
体の一部が室内に入っていなかった事案の裁判例
この点が正面から争われたのが、仙台高等裁判所の令和5年1月24日の判決です。飲食店の男性従業員が、盗撮の目的でスマートフォンを女子更衣室の中に置くため、片開きの扉を開けて前傾姿勢を取り、左足を室内に踏み入れたという事案でした。頭部、両肩、左手の全部、右腰部を除く上半身、左臀部、左足の全部は室内に入っていましたが、右手の一部と右足の大部分は室内に入っておらず、体を室内に入れていた時間は5秒程度と認定されています。
第一審の山形地方裁判所は、身体の全部が建物の内部に入っていないことを理由に、建造物侵入罪の成立を認めませんでした。これに対して仙台高等裁判所は、身体の全部が入っていなくても、その大部分が入った場合には、建物の中に体を立ち入れたと評価することができると述べ、既遂に至っていたと判断しました。
同判決は、あわせて判断のしかたも示しています。「侵入」に当たるかどうかは、建物の構造、入れた身体の部位・程度・態様、体を入れた場所、体を入れていた時間の長さなどを考慮して、社会通念に従って判断すべきである、という枠組みです。この事案では、目的を果たすのに足りる5秒程度という時間が考慮されたうえで、身体の大部分が入ったといえると評価されました。
この判断から読み取れること
注意したいのは、この判決が「体の何割が入ったか」という一点だけで結論を出しているわけではないことです。建物の構造も、どの部位がどのように入っていたかも、どれだけの時間そこにいたかも、同じ土俵に載せて評価しています。
そのため、「体が全部入っていないから成立しない」という説明も、「足の先が入れば成立する」という説明も、いずれも実際の判断のしかたを言い当てているとはいえません。同じように扉から体を乗り出した場面でも、狭い個室の中に上半身をしっかり入れて数秒とどまった場合と、廊下から手だけを差し入れてすぐ引いた場合とでは、評価が分かれる余地があります。
なお、この判決は高等裁判所の判断であり、この論点について最高裁判所の統一的な判断が示されているわけではありません。実際の事件では、身体の位置や時間の認定そのものが争われることもあります。
三つ目の線|入ってよいという許しはどこまで及ぶのか
目的を隠して得た承諾
「入っていいと言われた」という事情は、それだけで「侵入」を否定するとは限りません。古い事案ですが、最高裁判所は昭和24年7月22日の判決で、強盗の意図を隠したまま「今晩は」と声をかけ、家人が「おはいり」と応じたのに乗じて住居に立ち入った行為について、住居侵入罪の成立を認めています。
同じ趣旨の判断は戦前の大審院にもあり、来訪の申し出を信じて店内に入ることを許したからといって、強盗殺人の目的で店内に入ることまで承諾したとはいえない、という言い方がされています。承諾は、その人が想定していた立ち入りの範囲にしか及ばないという考え方です。
もっとも、この考え方をどこまで広げるかについては議論があります。立ち入り自体は普通の来訪と変わらず、中で行うつもりの行為について相手が誤解していたにすぎない場面まで同じに扱ってよいのか、という問題です。実際の事件では、隠していた目的の内容や、その目的を知っていれば立ち入りを断ったといえるかどうかが検討されます。
誰でも入れる建物に入った場合
営業中の店舗、飲食店、ホテルのロビー、官公庁の庁舎のように、不特定多数の人が出入りすることが予定されている建物には、通常想定される立ち入りについて、管理する側のまとまった承諾があるものとして扱われます。買い物のために店に入る行為が犯罪にならないのは、このためです。
その一方で、あらかじめ立ち入りを断られていた人が入った場合や、建物の性質・使用目的・管理の状況・管理する側の態度・立ち入りの目的などから、その立ち入りを容認していないと判断される場合には、外から見た様子が一般の来客と変わらなくても「侵入」と評価されることがあります。まとまった承諾は、あくまで通常想定される立ち入りの範囲についてのものだからです。
区画と時間帯を超えた立ち入り
三つ目の線で見落とされやすいのが、適法に建物に入った人が、その中でさらに別の区画に立ち入った場合です。建物全体に入ることを許された人でも、更衣室、書庫、バックヤード、居住者以外が入らない区画などについては、別に管理の意思が働いていると考えられています。先に紹介した仙台高裁の事案も、勤務先の建物には正当に入っていた従業員が、女子更衣室という区画に立ち入ったというものでした。
時間帯も同じです。営業時間中の来店について承諾があるとしても、営業が終わった後に従業員用の出入口から入る行為まで、その承諾が及んでいるとは限りません。「その建物に入る権限があったか」ではなく、「その場所に、そのときに、その目的で入ることまで許されていたか」という順で考えることになります。
「正当な理由がないのに」はどこで働くのか
条文の「正当な理由がないのに」は、立ち入りが違法であることを示す部分です。住居に住む人や建物を管理する人の意思に反する立ち入りであっても、火災から逃れるため、危険な状況から身を守るため、あるいは令状に基づく捜索のためといった事情があれば、犯罪は成立しません。
実務では、この要素は独立して大きく争われるというより、立ち入りの目的の評価を通じて働くことが多いといえます。立ち入りの目的は、承諾の範囲を測るときにも、正当な理由の有無を見るときにも顔を出します。取調べで「何のために入ったのか」が繰り返し確認されるのは、この二つの場面に関わるためです。
未遂との境目
刑法132条は、住居侵入・建造物侵入の未遂も処罰の対象としています。塀を乗り越えようとして体を持ち上げた段階、施錠された扉をこじ開けようとした段階などが、未遂として問題になり得る場面です。
二つ目の線で述べた身体の位置の話は、この既遂と未遂の境目に直結します。体をどこまで入れたら「侵入」といえるのかという判断は、そのまま既遂か未遂かの分かれ目になるからです。未遂にとどまると評価された場合、刑を減軽できるという扱いも関係してきます。
「侵入」に当たらないとされた場合に残るもの
立ち入りが「侵入」に当たらないと判断されたとしても、それで話が終わるとは限りません。
- 適法に入った後、出るように求められて応じなかった場合には、刑法130条後段の不退去罪が問題になります。
- 立ち入りを禁じた表示のある場所に入った場合には、軽犯罪法の定める立入りに関する規定が問題になることがあります。
- 立ち入りの前後の行為について、窃盗、盗撮、器物損壊などの別の罪が検討されることがあります。
逆に、住居侵入罪や建造物侵入罪が成立する場面では、これらのうち軽い規定は重ねて適用されないという関係にあります。どの条文で立件されるかによって、手続の進み方も、被害を受けた側との話し合いの相手も変わってきます。
取調べで先に確認される事柄
この記事で整理した三つの線は、そのまま捜査機関が確認する事項に対応しています。
- どの建物の、どの区画に立ち入ったのか。
- 体のどの部分が、どこまで入っていたのか。
- その状態がどのくらいの時間続いたのか。
- 誰から、どのような範囲で、立ち入りの許しを得ていたのか。
- 何のためにその場所へ向かったのか。
このうち、体の位置や時間の長さは、記憶があいまいなまま答えてしまいやすい部分です。防犯カメラの映像や現場の実況見分と食い違いが出ると、説明の信用性そのものが問われることにもなります。覚えていないことは覚えていないと伝えたうえで、確認できた事実に沿って話を整えていく姿勢が求められます。
相談の前に整理しておきたいこと
- 立ち入った場所の名称と、建物の中のどの区画かがわかる情報。
- 門や扉、囲いの有無と、施錠や表示の状況。
- 立ち入ったときの時刻と、その場にいた時間の長さ。
- 誰かから許しを得ていた場合は、その相手と、言われた内容。
- その場で誰かに声をかけられたか、警察が来たか、その後の連絡の有無。
- 警察から受け取った書面があれば、その現物。
これらを時系列に沿ってメモにしておくと、初回の相談で確認できることが増えます。日付や時刻がはっきりしない場合は、はっきりしないままで構いません。
まとめ
- 刑法130条前段は、正当な理由なく住居・邸宅・建造物・艦船に侵入した場合を、3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金と定めています。
- 「どこから成立するのか」という問いは、場所の範囲、身体の位置、承諾の範囲という三つの問いに分かれます。
- 場所の範囲については、建物本体だけでなく、囲いによって建物の付属地とわかる敷地も含めて判断されます。
- 身体の位置については、全部が入って初めて侵入とする考え方が通説とされてきましたが、仙台高裁の令和5年1月24日の判決は、大部分が入った場合にも侵入といえるとしました。
- 同判決は、建物の構造、入れた部位や程度、場所、時間の長さなどを総合して社会通念に従って判断するという枠組みを示しています。
- 承諾があっても、目的を隠して得たものであったり、許された区画や時間帯を超える立ち入りであったりする場合には、侵入と評価されることがあります。
- 侵入に当たらないとされても、不退去罪や立入りに関する別の規定、立ち入り前後の行為に関する罪が検討されることがあります。
- 体の位置や滞在時間の記憶はあいまいになりやすく、客観的な記録との食い違いが説明の信用性に影響します。
住居侵入・建造物侵入でお困りの方へ
住居侵入罪・建造物侵入罪は、法定刑だけを見れば重い部類の犯罪ではありません。しかし、立ち入りの目的が問われることで身体の拘束が長引いたり、立ち入りの前後の行為について別の罪が併せて検討されたりすることがあり、事案の見通しは一様ではありません。成立するかどうかの線引きも、この記事で整理したとおり、単純な一本の線ではありません。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件のご相談を承っています。警察から連絡があった段階、任意の事情聴取を受けた段階、ご家族が逮捕された段階など、どの時点でもご相談いただけます。事実関係の整理、取調べへの対応、被害を受けた方との話し合いについて、状況に応じた対応をご案内します。お一人で抱え込まず、早い段階でご相談ください。


