風俗で性病をうつされた|損害賠償請求はできるのか

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

 風俗の利用後に性病(性感染症)が判明し、「あの店で、あの人からうつされたに違いない。治療費や慰謝料を請求できないのか」と考えている方もいるでしょう。

 先に、最も大切なことをお伝えします。法的な話よりもまず、健康のために医療機関で検査・治療を受けてください。 そのうえで損害賠償を請求できるのかを整理すると、「理論上は可能だが、実際にはいくつもの高いハードルがある」というのが正直なところです。

 この記事では、風俗で性病をうつされた場合に損害賠償請求ができるのか、その法的な枠組みと現実的な見通しを整理します。

まず、健康のために医療機関へ

 法的な検討の前に、検査と治療が最優先です。性感染症は放置すると重症化したり、パートナーへ感染を広げたりするおそれがあります。少しでも心当たりや症状があれば、早めに医療機関を受診してください。

 その際、診断書と領収書を保管しておくことをおすすめします。これらは、後で損害賠償を検討する場合に、病名や感染の時期、治療にかかった費用を示す資料になります。

損害賠償請求の法的な枠組み

 性病をうつされたことについて相手に賠償を求める場合、法律上は「不法行為に基づく損害賠償請求」(民法709条)という仕組みを使います。この請求が認められるためには、請求する側(うつされた側)が、次の点を立証する必要があります。

  • 相手の故意または過失
  • 権利(健康・身体)の侵害
  • 損害の発生
  • 行為と損害との因果関係

 請求できる損害としては、治療費、通院のための交通費、休業損害、精神的苦痛に対する慰謝料などが考えられます。なお、自分の感染を知りながら故意にうつした場合には、刑事上も傷害罪が成立し得るとした判例がありますが、双方が同意して行為に及んでいる場合には、起訴に至ることはまれです。

風俗のケースで立ちはだかる、3つのハードル

 理屈のうえでは請求が可能でも、風俗での感染というケースでは、実際には次の3つのハードルが大きく立ちはだかります。

ハードル1:因果関係(そこでうつされたと言えるか)

 最大の壁が、この因果関係の証明です。
 「その店・その人からうつされた」と示すには、感染した時期を特定し、その時期に他の相手との性的接触がなかったことまで立証する必要があります。複数の店舗や複数の相手を利用していた場合、感染源を一つに特定することは極めて困難です。

ハードル2:相手の故意・過失

 相手が「自分の感染を知っていた、または知り得た」ことを立証しなければなりません。しかし、性感染症は無症状のことも多く、相手自身も感染に気づいていなかった場合には、故意はもちろん過失も問いにくくなります。

ハードル3:利用者側の落ち度(過失相殺)

 性風俗の利用には、もともと性病に感染するリスクが伴うと考えられ、利用者もそのリスクをある程度引き受けていた、とみなされやすい傾向があります。避妊具を使わなかった、あるいは禁止されている本番行為に及んでいた、といった事情があれば、過失相殺によってさらに減額されたり、請求が認められなかったりする可能性があります。

 これらの理由から、理論上は請求できても、実際に認められるのは容易ではありません。専門家の間でも「請求は現実には難しい」と評価されることが多いのが実情です。

店に請求することはできるか

 「女性本人ではなく、店に責任を問えないか」と考える方もいます。しかし、ソープランドは建前上あくまで入浴施設であり性行為をする場ではない、デリヘルは本番行為を禁止している、というように、店は買売春を管理していないという建前をとっています。そのため、店の責任(使用者責任)を問うのは容易ではありません。

 店が女性の性病検査を怠っていた、感染を知りながら勤務させていた、といった事情を立証できれば余地はありますが、そのハードルは高いといえます。

参考:慰謝料が認められた裁判例

 過去には、出会い系で知り合った相手が独身であると偽ったうえで性病を感染させた事案で、感染についての慰謝料と、性的自由を侵害したことについての慰謝料を合わせて数十万円程度と、弁護士費用が認められた例があります。

 ただし、これは「独身と偽った(だました)」という上乗せの事情があるケースであり、純粋に風俗店での感染とは事情が異なります。慰謝料の金額は症状の重さや個別の事情によって大きく変わるため、この数字が一律の相場として当てはまるわけではない点に注意が必要です。

請求する前に知っておきたいリスク

 損害賠償を請求するかどうかを決めるにあたっては、次の点も踏まえておく必要があります。

 一つは、請求の過程で、風俗を利用したという事実が明るみに出る可能性です。既婚者の場合、それが離婚などの別のトラブルに発展してしまうこともあります。

 もう一つは、費用倒れのリスクです。立証が難しく、また相手に支払う資力がなければ、労力と費用をかけても回収できないことがあります。

 こうした点も含め、進めるべきかどうかを冷静に判断することが大切です。

時効について

 人の身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害および加害者を知った時から5年、または行為の時から20年で時効にかかります(民法724条、724条の2)。感染や相手を知ってから、あまり長く放置しないよう注意が必要です。

まとめ

  • 何よりもまず、健康のために医療機関で検査・治療を。診断書と領収書は保管しておく。
  • 損害賠償は、法律上は不法行為として請求できる余地があるが、因果関係(感染源の特定)、相手の故意・過失、過失相殺という高いハードルがあり、実際に認められるのは容易ではない。店への請求はさらに難しい。
  • 請求の過程で風俗利用が露見するリスクや、費用倒れの可能性も考慮する必要がある。
  • 進めるべきか迷う場合は、証拠を保全したうえで、弁護士に現実的な見通しを相談するのがよい。

 若井綜合法律事務所は、風俗にまつわるトラブルを含む男女間の問題について、お客様側の立場で、家族や職場に知られることなく対応することを大切にしている法律事務所です。見通しの相談だけでも構いません。まずはお気軽にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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