【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけ
「業者に任せれば、子どもを施設まで連れて行ってくれると聞いた」「親が契約したのだから、本人が嫌がっても問題はないのではないか」。ひきこもりや家庭内の問題に長く悩んできたご家庭から、こうした声を伺うことがあります。一方で、自宅から意に反して連れ出されたとする本人が、事業者や依頼した親を相手に裁判を起こす例も、この数年で続いています。
自立支援をうたう事業者の中には、本人の意向を確かめないまま自宅から連れ出し、施設で生活させるものがあり、「引き出し屋」と呼ばれることがあります。報道では個別の事件として紹介されることが多いものの、複数の裁判例を並べてみると、裁判所がどの点を見て違法かどうかを判断しているのか、共通する枠組みが見えてきます。
この記事では、2019年から2025年までに報じられた主な裁判例を整理し、連れ出しそのもの、施設での生活の制限、支援の中身、依頼した親の責任という4つの点から、裁判所の判断を読み解きます。本人の同意なく連れ出すことがなぜ違法とされるのかという理屈の部分や、施設を選ぶ際の確認事項の詳細は別の記事で扱うこととし、本稿では裁判例の整理に絞ります。
本記事は、2026年9月時点で公表されている報道や代理人弁護士の発表をもとに作成しています。取り上げた裁判例の多くは判決文が公刊されておらず、事案の細部や判断の理由には報道で伝えられていない部分があります。また、特定の事業者を評価する趣旨のものではありません。
連れ出し型の支援で何が争われてきたのか
契約するのは親、支援を受けるのは子という構造
連れ出し型の支援では、多くの場合、事業者と契約を結んで費用を支払うのは親で、実際に自宅から連れ出されて施設で生活するのは子です。報道では、3か月分として約570万円が支払われた例や、同じ事業者に1,000万円以上を支払った親がいたとされる例も伝えられています。
この構造のもとでは、契約の当事者ではない子本人の意思が、手続のどこにも反映されないまま支援が始まることがあります。のちの裁判で争われてきたのは、まさにこの点です。成人した子の問題に親がどこまで関われるのかという一般的な整理は、【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で解説しています。
裁判で繰り返し問われてきた論点
各裁判例で争点となった点は、おおむね次の4つに整理できます。
- 自宅から施設へ連れ出した行為が、本人の意に反するものだったか。
- 施設での生活が、本人の移動や外出の自由を制限するものだったか。
- 提供された支援の中身が、契約で約束された内容に見合うものだったか。
- 連れ出しを依頼した親に、法的な責任が生じるか。
いずれも、故意や過失によって他人の権利や利益を侵害した場合の賠償責任である不法行為(民法709条)や、契約で約束したことを果たさなかった場合の債務不履行(同法415条)の枠組みで判断されています。裁判所は「支援のためだったか」ではなく、「本人の権利が侵害されたか」「契約が守られたか」という物差しで事案を見ていると整理できます。
報じられている主な裁判例
裁判例の一覧
2026年9月時点で報じられている主な裁判例は、次のとおりです。
| 判断の時期 | 裁判所 | 報じられている主な判断 |
|---|---|---|
| 令和元年12月26日 | 東京地裁(判決) | 自宅への立ち入りや施設での行動の制限を違法とし、支援は名ばかりで契約上の義務を果たしていないとして、事業者に約505万円の支払いを命じた(確定)。 |
| 令和4年1月27日 | 東京地裁(判決) | 意に反する連れ出しと、施設から自らの意思で外出することが著しく困難だったことを認め、事業者側と連れ出しを依頼した母親に、連帯して約55万円の支払いを命じた。 |
| 令和4年3月25日 | 東京地裁(判決) | 力ずくでの連れ出しと監視付きの部屋での生活を移動の自由の侵害とし、事業者に110万円の支払いを命じた。 |
| 令和4年11月16日 | 東京地裁(判決) | 連れ出しの後の医療保護入院を要件を欠く違法なものとし、病院側に308万円の支払いを命じた。令和5年9月21日に東京高裁も一審の判断を維持。 |
| 令和7年1月公表 | 横浜地裁(調停に代わる決定) | 原告2人について、承諾なく自由を制限したことを前提に、慰謝料計70万円の支払いと、違法な自立支援事業を行わないことなどを内容とする決定。 |
| 令和7年5月15日 | 横浜地裁(判決) | 連れ出しと施設内での自由の制限を一連の違法行為と認め、原告2人にそれぞれ88万円の支払いを命じた。 |
令和元年の東京地裁判決|契約の中身が問われた例
報道によれば、この事案の本人はひきこもりの状態ではなく、家族間のトラブルを背景に母親が事業者と契約したものでした。事業者の職員らが本人の住むマンションのドアチェーンを壊して立ち入り、施設に連れて行ったうえ、携帯電話や現金を預かり、夜間も見張りを置いていたとされます。
判決は、本人の行動の自由の侵害を認めたほか、支援の中身についても、事前に本人の意向を確認していないこと、医療や福祉の専門職がいないこと、業務日誌に記された内容が話し相手程度にとどまることなどを指摘し、契約上の義務を果たしていないと判断したと報じられています。本人とともに母親も原告となり、費用を支払った側の立場からも事業者の責任が問われた点に特徴があります。
令和4年の東京地裁判決2件|連れ出しそのものが不法行為とされた例
令和4年1月の判決では、本人が部屋着のまま連れ出され、見張りのいる部屋で生活することになった経緯が争われました。報道によれば、判決は、羽交い締めのような強引な方法までは認めなかったものの、本人の意に反する連れ出しがあったことを認め、監視のもとで自らの意思で外出することが著しく困難だったと判断しました。代理人弁護士は、強制的な手段が認定されなくても連れ出し行為が不法行為とされた点を評価しています。
同年3月の判決は、同じ事業者に対して別の元入所者の男性が起こした裁判です。職員によって車に乗せられ、監視付きの部屋に置かれ、逃げても捜索願を出して連れ戻すことになると告げられたことなどが、移動の自由を侵害する不法行為とされました。他方で、その後の施設での生活については、自由に外出できる時間があったことなどから、違法とまではいえないとして退けられた部分もあります。
精神科病院への入院が争われた例
令和4年3月の事案の男性は、施設への連れ出しの後、精神科病院に約50日間入院し、その間に身体拘束も受けました。男性が病院を相手に起こした裁判で、東京地裁は、精神保健指定医による診察を経ていないなど、医療保護入院の基本的な要件を欠いていたとして違法と判断し、東京高裁も結論を維持しています。
この裁判例は、事業者だけでなく、連れ出しの後に関わった医療機関の手続も、それ自体として適法かどうかを審査される対象になることを示しています。
横浜地裁の決定と判決|やり方そのものの違法性
神奈川県内の全寮制施設に入所していた元入所者らが起こした集団訴訟では、まず一部の原告について、裁判所が職権で解決案を示す「調停に代わる決定」が出されました。運営側はこれを受け入れ、承諾なく自由を制限したことを認めて慰謝料を支払い、今後同種の違法な事業を行わないことなどを約束したと報じられています。
残る原告についての令和7年5月15日の判決では、運営側が、本人は入寮時に同意書へ署名している、職員に止められずに正面玄関から出て行ったのだから移動の自由は侵害されていない、などと反論していました。報道によれば、横浜地裁は、事前の連絡なく自宅を訪れて本人の意に反して連れ出した行為と、金銭や通信機器の所持を原則として認めず、監視カメラや夜間の巡回を置いた施設での生活とを、一連の違法行為と認定しました。一方、支援の中身については、慰謝料が発生するほどの問題とまではいえないと判断しています。
裁判例から読み取れる判断の枠組み
出発点は「本人の意思に反するか」
各裁判例に共通しているのは、成人した本人の意思に反して住まいから連れ出すこと自体が、移動の自由や自分のことを自分で決める利益を侵害しうると捉えられている点です。令和4年1月の判決のように、力ずくの方法が認定されなくても、本人が拒んでいる状態で連れ出せば不法行為となりうると判断した例があります。
事業者側からは、署名した書類があることや、最終的には本人が納得して家を出たことが主張されることが少なくありません。しかし横浜地裁の判決は、入寮時の署名を理由とする運営側の反論があっても、連れ出しを違法と認めています。書類上の同意があるかどうかではなく、連れ出しの時点で本人が拒んでいたかどうかが、判断の出発点に置かれていることがうかがえます。
「外に出られたか」は実質で見られる
施設での生活について、裁判所は、鍵がかかっていたかどうかといった形式だけでなく、所持金や携帯電話の扱い、見張りの有無、逃げた場合に連れ戻すと告げられていたかなどを合わせて、本人が自らの意思で離れることが著しく難しかったかを見ています。なお、刑事上の監禁罪がどのような場合に成立するかについては、車から降ろさなかった・部屋から出さなかった|監禁罪の成立で解説しています。
ただし、令和4年3月の判決のように、外出できる時間があったことなどを理由に、違法とまではいえないとされた期間もあります。どの程度の制限があれば違法となるかは、事案ごとの事実関係によって判断が分かれうる点に注意が必要です。
支援の中身は別の物差しで評価される
支援の質については、令和元年の判決が契約上の義務違反として事業者の責任を認めた一方、横浜地裁の判決は慰謝料の対象とまではしませんでした。支援の中身は、本人に対する不法行為の問題というより、費用を支払った親と事業者との契約の問題として評価される傾向がうかがえます。
依頼した親の立場はどう評価されてきたか
親が責任を問われた例
令和4年1月の判決は、連れ出しを依頼した母親について、事業者側と共謀したものとして、連帯して賠償する責任を認めました(民法719条1項)。代理人弁護士によれば、この種の裁判で契約者である親の共同不法行為が認められたのは初めてだったとされています。
この事案では、母親が本人の意に反してでも連れ出すよう依頼したことが重く見られたと報じられています。「子のためを思って依頼した」という動機があっても、本人の意に反する連れ出しを依頼すれば、親自身が賠償責任を負う可能性があることを示した裁判例といえます。
親が事業者の責任を問う側に立った例
一方、令和元年の判決では、母親は本人とともに原告となり、支払った費用に見合う支援が行われていないことを主張しました。高額な費用を支払ったにもかかわらず十分な支援がなされなかった場合、親は契約の当事者として、事業者に責任を問える立場にもあります。
親は、依頼の仕方によっては責任を問われる側に回り、契約の内容によっては責任を問う側にも立つという、二つの立場を持っていることになります。同居する成人の子に家を出てもらうことが法的にどう扱われるかについては、【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しもあわせてご覧ください。
裁判にならなくても残るもの
報道では、連れ出された経験から親への不信が強まって家族関係が悪化した例や、施設を出た後に再びひきこもりの状態に戻ったという声も伝えられています。裁判で違法とされるかどうかとは別に、本人の意思を置き去りにした支援は、その後の親子関係や自立に影響を残しうることも、考えておきたい点です。
行政の相談窓口で十分な支援を得られず、最後の手段として民間の事業者を頼るご家庭も少なくないとされます。警察・行政・弁護士がそれぞれ何を担えるのかは、【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担で整理しています。
裁判例をふまえて、親が確認しておきたいこと
契約の前に確かめたい点
消費者庁も、ひきこもり支援を目的に掲げる民間事業の利用をめぐるトラブルについて注意を呼びかけ、消費者ホットライン(188)への相談を案内しています。裁判例をふまえると、契約の前には少なくとも次の点を確かめておくことが考えられます。
- 本人の同意をどのように得る方針か、本人が同意しない場合はどうするのか。
- 施設での所持金や携帯電話の扱い、外出や退所の自由がどう定められているか。
- 医療や福祉の専門職が関わるのか、支援の具体的な内容と記録がどう残されるのか。
- 費用の内訳と、途中でやめる場合の返金の扱い。
- 医療機関への入院を前提とした説明がないか。
とくに、「本人が嫌がっても大丈夫」「親の同意があれば問題ない」といった説明があった場合には、ここまで見た裁判例の考え方と整合しないため、慎重に検討する必要があります。
親と子を「それぞれ」支えるという考え方
弁護士法人若井綜合法律事務所では、家庭内暴力やひきこもりなどの親子の問題について、弁護士が親の代理人として子と向き合い、民間の自立支援カウンセラーが子の側の住まい探しや仕事探し、生活保護の申請のサポート、日々の金銭管理などを担う形で対応しています。子を孤立させたままでは自立は実現しにくいという考えから、親と子のそれぞれが自立できる形を目指すものです。
人が関わることなので結果をお約束することはできませんが、親子の物理的な距離を取るだけでも、双方に変化が生まれることがあります。サービスの内容は、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応で詳しくご案内しています。
よくあるご質問
親が契約していれば、本人が嫌がっても連れ出してもらってよいのですか。
これまでの裁判例では、親の了承があっても、成人した本人の意に反する連れ出しは不法行為と判断されてきました。親の同意は本人の同意の代わりにはならないと考えておくのが安全です。依頼の内容によっては、親自身も事業者と連帯して賠償責任を負う可能性があります(民法719条1項)。
すでに事業者へ支払った費用を取り戻すことはできますか。
契約で約束された支援と実際の支援を照らし合わせ、見合っていなければ債務不履行として賠償を求める余地があります(民法415条)。令和元年の判決はその例です。契約時の説明の内容によっては、消費者契約法に基づく取消しなどが検討される場合もあります。ただし、事業者がすでに破産している場合には、破産手続の中で債権を届け出ることになり、実際に回収できる額は限られることがあります。
事業者から精神科への入院を勧められた場合は、どう考えればよいですか。
本人の同意によらない医療保護入院には、精神保健指定医の診察の結果、入院が必要と判断されることなどの要件があります(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律33条)。令和4年の東京地裁判決は、この要件を欠いた入院を違法としました。医療の必要性は医師が判断するものであり、支援の手順の一部として入院が組み込まれているような説明を受けた場合は、慎重に考える必要があります。
まとめ
- 連れ出し型の支援をめぐっては、2019年以降、事業者や依頼した親の責任を認める裁判例が続いている。
- 成人した本人の意に反して住まいから連れ出すことは、力ずくの方法が認定されなくても、不法行為とされうる(民法709条)。
- 施設での生活は、所持金や通信機器の扱い、見張りの有無などを合わせて、自らの意思で離れることが著しく難しかったかが見られる。
- 支援の中身は、主に費用を支払った親と事業者との契約の問題として評価され、債務不履行が認められた例がある(民法415条)。
- 連れ出しを依頼した親が、事業者と連帯して賠償責任を負うとされた例がある(民法719条1項)。
- 連れ出し後の医療保護入院も、要件を欠けば医療機関の責任が問われる(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律33条)。
- 契約の前には、本人の同意の扱い、外出や退所の自由、費用と返金の定めを確かめておきたい。
親子の問題でお悩みの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士若井亮は5年以上にわたり、北海道から沖縄まで全国の親子の問題に取り組んできました。遠方にお住まいの方については、【親子問題】遠方でも依頼できるのか|全国対応の実際をご覧ください。
民間の支援を検討していて契約の内容に不安がある方、すでに支援を受けたものの本人との関係がこじれてしまった方、どこに相談すればよいか分からないまま時間が過ぎている方は、一度ご相談ください。ご家庭の状況をうかがったうえで、親の側として取り得る手段を一緒に整理します。


