家宅捜索(ガサ入れ)が来た|立ち会いでできること・できないこと
ご家族が逮捕されたという連絡を受けて、まず「保釈金はいくら用意すればいいのか」と考える方は少なくありません。ところが弁護士に相談すると、今の段階では保釈という手続はない、と説明されて戸惑うことになります。
保釈が使えないのは、説明が省かれているからでも、事件が重いからでもありません。刑事訴訟法が、起訴される前と後とで身体拘束の仕組みを分けて設計しているためです。この記事では、なぜ起訴前に保釈がないのかを条文の構造から確認したうえで、その段階で実際に使える手続を四つの型に整理して説明します。
「保釈」と「釈放」は同じ意味ではない
保釈は「勾留を残したまま外に出す」制度
保釈は、勾留そのものをなくす手続ではありません。保証金を納めることなどを条件に、勾留の執行だけを止めて身体の拘束を解く制度です。勾留状は生きたまま残っており、条件に違反すれば保釈は取り消され、納めた保証金が没取されることもあります。
これに対して「釈放」は、拘束が終わること全般を指す広い言葉です。勾留が請求されなかった場合も、勾留の請求が却下された場合も、不起訴になった場合も釈放です。保釈は釈放の一つの形にすぎず、二つの言葉は同じ範囲を指していません。
起訴前に保釈がないことは条文に書かれている
刑事訴訟法207条1項は、勾留の請求を受けた裁判官が、その処分について裁判所や裁判長と同一の権限を持つと定めています。ただし、その但し書きは「保釈については、この限りでない」としています。起訴前の勾留について、裁判官が保釈を判断する権限ははじめから与えられていないという建て付けです。
| 項目 | 起訴される前 | 起訴された後 |
|---|---|---|
| 本人の呼び名 | 被疑者 | 被告人 |
| 勾留の期間 | 原則10日、延長を含めて最長20日 | 公訴提起から2か月、以後1か月ごとに更新 |
| 保釈 | 制度がない(207条1項但し書き) | 請求できる(88条以下) |
| 拘束を解く道すじ | 勾留自体をなくすか、一時的に止める | 保釈のほか勾留の取消しなど |
なぜ起訴前には保釈が置かれていないのか
勾留の目的が違う
起訴前の勾留は、捜査のために置かれているものです。関係者から話を聞き、記録や物を集め、供述を突き合わせる作業がまだ終わっていない段階にあたります。証拠に手が加えられる余地が残っているため、金銭を預けることで出頭を担保するという保釈の発想がなじみにくい、と説明されます。
一方、起訴後の勾留は、裁判に出てもらうために続くものです。捜査は一区切りついており、確保したいのは判決までの間に法廷へ来てもらうことです。保証金という形で出頭を担保する仕組みが機能しやすくなります。
期間の区切り方が違う
起訴前の勾留は、請求の日から10日、延長があっても通じて20日で区切られます(208条)。逮捕からの時間を含めても、上限は法律で決まっています。これに対して起訴後の勾留は、公訴の提起から2か月、その後は1か月ごとに更新できます(60条2項)。起訴前は期間に短い上限があり、起訴後は長期化しうるという違いが、保釈という出口が起訴後にだけ置かれている理由として説明されます。
立法論としては議論が続いている
起訴前にも保釈を認めるべきだという意見自体は古くからあります。日本弁護士連合会は1966年の人権擁護大会で、起訴前の勾留についても保釈の権利を認める立法化を求める決議をしています。その後も制度の見直しは議論の対象になっていますが、現在の条文の下では、起訴前に保釈を請求することはできません。
「保釈金を払えばすぐ出られる」と言われたとき
逮捕の直後に、ご家族のもとへ「保釈金をすぐ振り込めば出られる」という連絡が入ることがあります。起訴前の段階に保釈という制度がない以上、この説明は制度と合いません。弁護士会も、こうした話を持ちかける手口があるとして注意を呼びかけています。
保証金は裁判所の窓口に納めるものであり、個人の口座へ振り込むものではありません。急がされる場面ほど、送金の前に、本人の弁護人か弁護士会に事実を確かめる順序をとることが大切です。
起訴前にできることを四つの型に分けて整理する
起訴前の手続は、名前だけを並べると準抗告・勾留取消請求・勾留の執行停止・勾留理由開示請求と続き、違いが分かりにくくなります。何を目指す手続なのかで分けると、性質の差が見えやすくなります。
| 目指すもの | 主な手続 | 働きかける相手 |
|---|---|---|
| 拘束そのものをなくす | 勾留請求前の意見書、準抗告、勾留取消請求 | 検察官・裁判官 |
| 拘束を一時的に止める | 勾留の執行停止 | 裁判官 |
| 拘束の期間を短くする | 勾留延長への反論、延長決定への準抗告 | 検察官・裁判官 |
| 拘束の理由を確かめる | 勾留理由開示請求 | 裁判官 |
保釈が「拘束を残したまま外に出す」型であるのに対し、起訴前に使えるのは、拘束そのものを終わらせる型か、期間を限って一時的に止める型に限られます。ここが、起訴前と起訴後でできることの中心的な違いです。
拘束そのものを終わらせる手続
勾留が決まる前の働きかけ
検察官が勾留を請求する前、また裁判官が勾留を決める前に、勾留の理由や必要がないという意見を書面で伝えることができます。ただし、これは法律に定められた申立ての手続ではなく、事実上の働きかけという位置づけです。逮捕から勾留の判断までの時間は限られており、動ける幅も広くはありません。
勾留が決まった後の不服申立て
勾留の決定に不服があるときは、その取消しや変更を請求することができます(429条1項2号)。申立ての期間について定めはなく、勾留が続いている間であれば申し立てられます。決定をした裁判官とは別の裁判官が改めて判断する点も、この手続の特徴です。
後から事情が変わった場合
勾留の理由や必要がなくなったときは、勾留の取消しを請求できます(87条1項)。この条文は、請求できる人として弁護人のほかに配偶者・直系の親族・兄弟姉妹を挙げています。ご家族自身が法律上の請求権者として書かれている、数少ない規定です。
一時的に拘束を止める手続——勾留の執行停止
起訴前に使える手続のうち、勾留を残したまま外に出るという保釈に近い形をとるのが、勾留の執行停止です(95条)。裁判所が適当と認めるときに、本人を親族などに委託するか、住居を制限したうえで、勾留の執行を止めるという仕組みです。
保釈と似ているが、違う点が二つある
- 保証金を納める仕組みがない。金銭を用意しても、それによって判断が動く制度にはなっていない。
- 請求権が条文に定められておらず、裁判所の職権で行われる。弁護人が出す書面も、職権の発動を促すものという位置づけになる。
起訴前でも使える一方で、「請求すれば当然に審理される」という性質のものではない点が、保釈との大きな違いです。
認められる場面は限られている
条文は「適当と認めるとき」としか書いておらず、要件が具体的に定められているわけではありません。実務では、親族の危篤や葬儀への参列、入院や治療の必要、日程を動かせない受験といった、緊急性と必要性が高い事情がある場面で用いられています。日常の生活に戻るための手続ではなく、限られた用事のために期間を区切って外へ出るための手続だと理解しておくと、見通しを誤りません。
2023年の改正で条文が整えられた
この制度は、2023年の刑事訴訟法改正で条文が組み替えられました。執行停止の期間を指定できること、期間を指定するときはその終期を日時で示すとともに出頭すべき場所を指定しなければならないこと、その期間を延長したり短縮したりできることが、条文に明記されています。あわせて、期間を指定されて執行停止をされた被告人が、指定された日時に指定された場所へ出頭しない場合の罰則も新設されました。一時的に外へ出るための制度であることが、条文の上でもはっきりした形です。
期間を短くする、理由を確かめる
延長は「10日か0日か」の二択ではない
勾留の延長は、やむを得ない事由があると認められるときに、通じて10日を超えない範囲で認められます(208条2項)。延長そのものに反対するだけでなく、必要な日数はそこまで長くないはずだという形で主張することもできます。満期が数日早まれば、勤務先や学校への説明にかかる負担もその分だけ変わってきます。
勾留理由開示は釈放を求める手続ではない
勾留理由開示は、公開の法廷で勾留の理由を明らかにさせる手続で、弁護人のほか配偶者や直系の親族なども請求できます(82条)。ただし、これ自体は釈放を求める手続ではありません。述べられる理由は抽象的にとどまることも多く、期待した中身が得られるとは限らない点は、あらかじめ知っておいたほうがよいところです。
起訴の日に何が起きるかは一通りではない
「起訴されたら裁判が終わるまで出られない」と受け止められがちですが、起訴の日に起きることは一つではありません。
- 不起訴となる、または処分を保留したまま釈放される。この場合は勾留状の効力がなくなり、その日のうちに身体の拘束が終わる。
- 略式手続によって罰金の裁判が告げられる。罰金や科料の裁判の告知があったときは勾留状が効力を失うため、検察庁で罰金を納めてそのまま帰宅する流れになる。
- 公判請求される。このときに勾留は被告人としての勾留に切り替わり、ここではじめて保釈を請求できるようになる。
起訴されたから身体の拘束が続く、と決まっているわけではありません。逆に、不起訴で釈放されたことは「無罪になった」という意味ではなく、起訴しないという処分がされたということです。この二つも混同されやすいところです。
起訴前から保釈の準備を始める意味
保釈は起訴された日から請求できる
保釈の請求は、起訴された後であればいつでもできます。第1回の裁判を待つ必要はなく、起訴された当日に請求することもできます。請求できるのは、本人と弁護人のほか、法定代理人・保佐人・配偶者・直系の親族・兄弟姉妹です(88条)。
もっとも、請求すればすぐ外に出られるわけではありません。検察官の意見を聞き、裁判所が判断し、保証金の額が決まり、それを納めてはじめて釈放されます。準備を起訴の後から始めると、この一連の流れがそのまま日数として積み上がります。起訴前の段階で保釈の話が出るのは、この時間差があるためです。
起訴される前に整えておけること
- 釈放された後に住む場所と、そこで生活していることを示せる資料。
- 本人を引き受け、日常の様子を見ることができる人の存在と、その人が書いた書面。
- 保証金として用意できる金額の見通しと、誰の資金から出すのかという整理。
- 勤務先や学校との関係で、どの範囲までどう説明するかという段取り。
保証金の額は先に決まっているものではない
保証金の額は、犯罪の性質および情状、証拠の証明力、本人の性格および資産を考慮して、出頭を保証するに足りる相当な金額として定められます(93条2項)。相場として語られる数字はありますが、事案によって幅があり、あらかじめ決まっているものではありません。用意できる金額の見通しを弁護人と共有しておくことが、現実的な準備になります。
早い段階で相談する意味
起訴前の手続は、どれも期限に強く縛られています。勾留が決まるまでの時間、勾留の10日間、延長を含めた20日間と、それぞれの区切りの中でしか動けません。どの型の手続を選ぶかは、事件の中身と、本人の生活の状況の両方が分かっていなければ決められません。
弁護人は、本人と面会して事実関係を確かめ、住む場所や引き受ける人の状況を資料の形にし、どの段階でどの手続をとるかを組み立てていきます。ご家族から見て動きが見えにくい期間でも、期限は進んでいきます。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件についてのご相談を承っています。池袋と新橋に事務所があり、初回のご相談は無料でお受けしています。ご本人と連絡が取れない状況でも、ご家族からのご相談を受け付けています。
まとめ
- 保釈は勾留を残したまま外に出す制度で、起訴前には認められていない(207条1項但し書き)。
- 理由は、起訴前の勾留が捜査のためのもので期間に上限があるのに対し、起訴後の勾留は裁判のためのもので長期化しうるという設計の違いにある。
- 起訴前に「保釈金を振り込めば出られる」という連絡は制度と合わないため、送金の前に弁護人か弁護士会に確かめる。
- 起訴前にできることは、拘束をなくす型、一時的に止める型、期間を短くする型、理由を確かめる型の四つに整理できる。
- 勾留の執行停止は起訴前にも使えるが、保証金の仕組みがなく、請求権もなく、緊急性の高い用事のために期間を区切って使われる。
- 起訴の日に起きることは、不起訴・処分保留による釈放、略式手続による罰金、公判請求の三通りがあり、保釈が問題になるのは公判請求された場合である。
- 保釈は起訴された当日から請求できるため、住む場所・引受人・保証金の見通しは起訴される前から整えておくことになる。


