本人が高齢で手続を理解しきれない|家族が支えられる範囲

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

ご家族が高齢で、警察や検察から説明を受けても内容をのみ込めていない様子だと、周りの方は落ち着かない気持ちになると思います。面会や電話で聞いても「よく分からないけれど、はいと答えておいた」としか返ってこない、ということも起こります。

 このときにまず整理しておきたいのは、家族から見て「理解できていない」と映る状態が、手続の上では一つの問題ではなく、いくつかの別の問題に分かれているという点です。どこで理解が問われているのかによって、働きかける相手も、使える仕組みも変わってきます。

 この記事では、高齢のご本人が被疑者・被告人となった場合に、手続のどの場面で理解が問われるのかを整理したうえで、家族の立場でどこまで支えられるのか、逆にどこからは本人にしかできないのかをご説明します。

「理解できていない」は一つの問題ではない

 同じ「分かっていないようだ」という印象でも、法律の側から見ると、問われている中身は場面ごとに違います。まずは次の三つに分けて考えると、状況が整理しやすくなります。

場面そこで問われること家族が関われる主な形
事件があったとされる時点そのときに善悪を判断し、行動を思いとどまる力があったか当時の暮らしぶりや変化を伝える
取調べを受けている場面話した内容が本人の理解や記憶と合っているか普段の受け答えの様子を伝える
手続が進んでいる現在説明を理解し、自分の立場について判断できるか弁護人の選任、補佐人、生活の維持


 この三つは、判断される時点も、判断する人も別です。事件のときの状態が問題になるのは検察官や裁判所の判断の中でですが、いま説明が届いているかどうかは、取調べや打合せのその場で問題になります。家族が最初にできるのは、どの場面の話をしているのかを弁護人と共有することです。

年齢そのものが処分を決めるわけではない

 刑法犯で検挙された人のうち高齢者が占める割合は、以前と比べて上がっていると犯罪白書は指摘しています。高齢の方が刑事手続の当事者になること自体は、めずらしいことではなくなりました。

 もっとも、年齢が高いことがそのまま処分を軽くする事情として扱われるわけではありません。実際に見られているのは、事件の内容、被害の回復ができているか、同じことが繰り返される見込みがどれくらいあるか、そして本人の周囲に支える体制があるかといった点です。年齢は、その周辺事情を説明するための入口にとどまります。

手続を理解して自分を守る力は、責任能力とは別に問われる

 「認知症ではないか」という心配から、多くの方は責任能力という言葉にたどりつきます。責任能力は、事件があったとされる時点で、善悪を判断する力とそれに従って行動する力があったかという問題です。

 これに対して、いま手続を追えているかどうかは、訴訟能力と呼ばれる別の問題として扱われます。最高裁は平成7年の決定でこの点を取り上げており、被告人としての重要な利害を区別し、それに従って相応の防御ができる力があるかどうかが目安とされています。ここで大切なのは、本人が一人ですべてを理解できていなくても、弁護人の助けを得て防御できるのであれば足りると考えられていることです。裁判の内容を細かく説明できないからといって、それだけで手続が止まるわけではありません。

 一方で、意思の疎通そのものが難しい状態が続く場合には、刑事訴訟法に、裁判所が公判の手続を止める仕組みが置かれています。さらに、状態が戻る見込みがないと判断されたときには、手続を打ち切る扱いをすることができるという判断を、最高裁が平成28年に示しています。ただしこれらは、長い期間にわたって意思疎通が成り立たない状態が続いたような、限られた場面についての話です。物忘れが目立つ、説明が頭に入りにくいという段階で当然に使えるものではありません。

「分かっていない」と伝えるだけでは動かない

 訴訟能力にせよ責任能力にせよ、判断するのは検察官や裁判所です。家族が「本人は分かっていません」と伝えるだけでは、判断の材料になりにくいのが実情です。後の章で触れるように、いつからどのような様子だったかという具体的な内容にしてはじめて、検討の対象になります。

理解の条件は、先に整えられる部分がある

 説明が届かない原因が、判断力そのものではなく、聞こえや見え方、体調にあることもあります。ここは家族が早い段階で手を打てる部分です。

  1. 眼鏡がないまま調書を読み聞かせられていないか。文字を自分で確認できているか。
  2. 補聴器を使っている方であれば、取調べや面会の場に持ち込めているか。電池が切れていないか。
  3. 入れ歯が手元にないと、話しづらさから受け答えが短くなることがある。
  4. 持病の薬を普段どおり飲めているか。留置される際には持病や常用薬の聞き取りがあり、必要に応じて医師の診察や処方につながる扱いになっている。
  5. 体調が悪いときにそれを自分から言えているか。遠慮して黙ってしまう方は少なくない。


 これらは弁護人を通じて留置の担当者に伝えることができますし、弁護人が接見のたびに確認することもできます。薬そのものの差し入れは原則として認められていませんが、必要な受診につなげてもらうよう申し入れることはできます。

差し入れの扱いは施設ごとに違う

 眼鏡は差し入れができる一方、コンタクトレンズの保存液は認められないなど、品目ごとに扱いが分かれます。補聴器や入れ歯についても、施設によって判断が異なります。受付の時間や数量の制限も同じではないため、持って行く前に留置の担当窓口か弁護人に確認しておくと、無駄足を避けられます。

家族に認められている関わり方には決まった形がある

 家族だからという理由で手続に参加できるわけではありませんが、法律は家族に限られた権限を認めています。使えるものと、その限界を並べると次のようになります。

家族ができること内容限界
弁護人を選ぶ配偶者、親や子などの直系の親族、兄弟姉妹などは、本人とは別に自分の判断で弁護人を選任できる本人が納得しなければ解任されることもあるため、通常は弁護士が本人と会って意思を確かめる
補佐人になる起訴された後、届け出たうえで、本人ができる訴訟行為を行える本人がはっきり反対している場合はできない。審級ごとに届出が必要
勾留の理由の開示を求めるなぜ身体拘束が続いているのかを、法廷で示すよう求められるそれ自体で釈放されるものではない
保釈を請求する起訴された後、釈放を求める手続をとれる認めるかどうかは裁判所の判断による


補佐人は、起訴された後の制度

 補佐人は、配偶者や直系の親族などが届け出ることでなれる立場で、本人がはっきり反対しない限り、本人ができる訴訟行為を代わりに行えます。手続を理解しきれない方を支える仕組みとしては、家族にとって使いやすい制度です。

 ただし、これは被告人についての制度なので、起訴される前の捜査の段階では使えません。捜査の段階で家族が使えるのは、弁護人を選任する権利のほうです。そして補佐人になった後も、本人が「そうしないでほしい」と述べている事柄については行えません。あくまで本人の意思の枠の中で動く立場だと考えてください。

署名を求められる場面が、いちばんの分かれ目になる

 高齢の方の手続で気をつけたいのが、内容を十分にのみ込まないまま書面に署名してしまう場面です。とくに影響が大きいのが、略式手続に関する同意です。

 罰金で終わらせる略式手続を使うには、検察官が本人に手続の内容を説明し、通常の裁判を受けることもできると告げたうえで、本人が異議のないことを書面で明らかにする必要があります。これは公開の法廷で裁判を受ける権利を手放すことを意味するため、本人の署名が求められます。家族が代わりに署名することはできません。

 言い換えると、この場面では本人の理解が手続の前提として組み込まれています。「早く帰りたい」「よく分からないが勧められたので」という気持ちのまま署名すると、内容を争う機会がないまま結論が決まってしまいます。

14日以内であれば、通常の裁判を求められる

 いったん略式命令が出た後でも、告知を受けた日から14日以内であれば、通常の裁判を求めることができます。この請求は、本人がはっきり反対していない限り、弁護人からすることもできます。署名してしまった後に家族が気づいた場合でも、この期間内であれば取り得る手が残っています。日付が起点になるため、書面が届いたらまず告知の日を確認してください。

取調べの調書も同じ構造

 取調べで作られる調書も、読み聞かせを受けたうえで本人が署名する形になっています。聞こえていなかった、その場では意味が分からなかったという事情があれば、訂正を申し立てることや署名を断ることができます。この点は本人に伝わっていないことが多いため、弁護人から改めて説明してもらうとよいでしょう。

家族が届けられるのは、診断名よりも具体的な様子

 診断書があれば話が早いと考えて、まず病院を探そうとする方がいます。診断書は材料の一つになりますが、取得に時間がかかることも多く、それだけで結論が変わるものでもありません。家族にしか分からない情報のほうが、実務では役に立ちます。次のような内容を、時期がわかる形でメモにまとめてみてください。

  • いつ頃から、どのような変化が出てきたか。きっかけになった出来事があったか。
  • 同じ話を繰り返す、約束を忘れるなど、日常で気づいた具体的な場面。
  • 買い物や金銭の管理をどこまで自分でできているか。
  • 質問に対してどう答える癖があるか。分からないときに「はい」と答えてしまうことがあるか。
  • かかりつけ医や、介護保険サービスを利用しているかどうか。担当者の連絡先。
  • これまでに受けた検査や診断があれば、その時期と医療機関。


 推測と、実際に見聞きしたことは分けて書くのがこつです。「認知症だと思う」よりも、「昨年の秋から、通い慣れた道で迷うようになった」のほうが、弁護人にとっても検察官にとっても検討しやすい材料になります。

生活の側を止めないことも支えになる

 手続そのものと同じくらい、日々の暮らしが崩れないようにしておくことが後で効いてきます。身体拘束が続いた場合、生活の基盤が失われると、釈放された後の見通しを立てにくくなるからです。

  1. 介護保険のサービスを利用している場合、ケアマネジャーに状況を伝えて調整しておく。
  2. 年金の受け取りや家賃、公共料金の引き落としが滞らないようにする。
  3. かかりつけ医に、服薬が途切れる可能性があることを伝えておく。
  4. 住まいを維持できるかどうかを早めに確認する。賃貸であれば連絡の窓口を決めておく。
  5. 地域包括支援センターなど、地域の相談窓口に事情を伝えておく。


 高齢や体調の面で自立した生活が難しい方について、釈放された後に福祉のサービスにつなげる公的な取り組みも用意されています。ただし自動的に始まるものではないため、弁護人を通じて相談してみるとよいでしょう。

誤解されやすい点

 ご相談の中で、行き違いが起きやすいところをまとめます。

  • 成年後見人がついていても、その人が刑事手続で本人に代わって進められるわけではない。成年後見は財産の管理などについての民事の制度であり、刑事責任能力や訴訟能力の判断とは別に扱われる。
  • 家族が「本人は理解していない」と申し出れば、手続が止まるわけではない。判断するのは検察官や裁判所で、材料になるのは具体的な事実のほう。
  • 診断名がつけば処分が変わる、という関係にはない。同じ診断でも、事件の内容や当時の状況によって評価は分かれる。
  • 高齢であることを理由に、取調べが行われないということはない。体調への配慮が求められる場面はあるが、聴取そのものがなくなるわけではない。
  • 家族が代わりに署名や同意をすることはできない。できるのは、本人が判断できる状態を整えることと、期限内に手続でやり直しを求めること。


まとめ

  • 「理解できていない」と感じる状態は、事件当時の判断力、取調べでのやり取り、いま手続を追えるかという三つに分かれる。
  • いま手続を追えるかは訴訟能力の問題で、弁護人の助けを得て防御できるのであれば足りると考えられている。
  • 眼鏡、補聴器、入れ歯、常用薬といった条件は、家族が早い段階で整えられる部分が大きい。
  • 家族には、弁護人の選任、起訴後の補佐人、勾留理由の開示請求、保釈請求といった限られた関わり方が認められている。
  • 略式手続の同意など、本人の署名が求められる場面が分かれ目になる。署名の後でも、告知から14日以内であれば通常の裁判を求められる。


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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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