マナーうんちく話535≪五風十雨≫
●何かと注意が必要「半夏生」の頃
6月21日は二十四節気の一つ「夏至」でしたが、それから数えて11日目頃の7月2日から6日頃までは、サトイモの仲間の「烏柄杓(からすびしゃく)」が生える「半夏生」です。
「半夏生」は雑節ですが、「半化粧」という名の花が咲く頃でもあります。
そしてこの時期の言葉に「半夏半作」があります。
米作りも野菜作りもタイミングが大事で、この頃までに田植えをしないと収穫量が半減するという注意喚起の諺だと思います。
米が話題になっている今、ぜひ頭に入れて頂きたい言葉です。
また今頃が一年で最も湿気の多い頃で、体調不良や食中毒が多く発生するので「天から毒が降り、地からは毒草が生えてくる」といわれています。
田植えが終えれば、ぜひ一服していただきたいところです。
さらに「半夏雨」という言葉もあります。
この時期の雨は、なにかと集中豪雨になりやすいので、特別な名前を付けてより注意を促したのでしょう。
半夏半作、天から毒が降る、半夏雨などは高温多湿で雨が多く、黴が生えやすいこの時期はいつもより特に気を付けて生活してくださいという、先人の知恵ですが、今年はすでに梅雨が明け、様子が異なってきました。
しかし色々な意味で注意が必要な時節です。
ご自愛ください。
●ユニークな由来が特徴「文月」
そして梅雨が明ければ一気に気温が高くなります。
7月7日は五節句の一つ「七夕」です。
7月は「文月」と呼ばれますが、稲作や七夕に関連する由来もあります。
稲の穂が実るから「穂含月」が転じたという説や、昔は書物の事を文といい、七夕に書物を干して、文字の上達を祈願した風習の「文被月(ふみひろげつき)」が転じたという説があります。
さらに七夕の日には織姫と彦星が互いに逢瀬を楽しみ、愛し合うので「愛逢月(めであいつき)」とも呼ばれます。
●言葉のニュアンスが異なる「暑気払い」と「納涼」
そして7月7日は二十四節気の一つ「小暑」でもあります。
暑気が急激に強くなるこの時期の言葉に「暑気払い」がありますが、夏の暑さを払いのけるという意味で、夏至から処暑までに行われるのが一般的です。
ただ現在の気候状況では、素直に暑い時期に行えばいいと思います。
よく似た言葉に「納涼」がありますが、「納」は取り込むという意味がありますから、暑さを避けて涼しさを味わうという意味で使用されます。
平安時代からの「夕涼み」が由来ともいわれていますが、暑気払いに比べると優しい表現だと思います。
過ごしやすさを色々と工夫して創り出すという意味もありますが、どちらかといえば猛暑の疲れをいやすために、涼しい所に出かけるとともに、涼しさを感じる行動と認識していただいたらいいと思います。
日本は四季が豊かな国で、暑い時期と寒い時期が明確に分かれていますが、その都度、不必要に暑さや寒さを恐れるのではなく、それらを楽しみに変化させる必要があります。
「暑気払い」や「納涼」もそのような考えのもとで生まれた言葉で、昔は酒や薬や食事、そしてしつらえなどに重きが置かれていたようですが、すべてのものが豊かになった現在では様々な方法があります。
地域や人によっても多様でしょう。
またそれを上手に利用し、商売に活かす人も多いと思います。
「暑気払い」と「納涼」は言葉の意味や時期にも違いはありますが、不必要にこだわることなく、その時の気温、湿度、天気、さらに気分や体調に合わせ、夏の風物詩としていろいろ楽しまれたらいいと思います。
●暑い時期に相手を思いやる日本ならではの文化「暑中見舞い」
ところで日本には暑い最中に、遠くの人の体調を思いやる「暑中見舞い」という文化がありますが、暦を基準にして、それぞれ名前が異なってくるので注意が必要です。
ちなみに梅雨の頃に世話になった人や親しい人の体調を気遣う便りは「梅雨見舞い」、梅雨が明けて暑さがピークに達した時には「暑中見舞い」、立秋が過ぎたら「残暑見舞い」になります。
暑中見舞いの形式は「挨拶」⇒「先方への様子伺い」⇒「自分の近況報告」⇒「先方への思いやりの言葉」、最後に日付となりますが、自分自身の言葉で表現できればいいですね。
梅雨見舞い、暑中見舞い、残暑見舞いなどは、いずれにせよ適切な季節感を伝えることがポイントですから、風情を感じさせる言葉やデザインを選んでください。
●温暖化の影響で風情ある夏の言葉が台無しになった
この時期の風や雨にも、風情が感じられる名前が付けられています。
梅雨入り頃の風は「黒南風(くろはえ)」、梅雨の半ばに吹く風は「荒南風(あらはえ)」、梅雨明け頃は「白南風(しろはえ)」と呼びます。
そして梅雨入り前の雨は「走り梅雨」、梅雨の終わりころの雨は「送り梅雨」、
梅雨が明けてからの雨は「帰り梅雨」と呼ばれます。
四季の豊かさから生まれた、風情を楽しむ日本人独特の感性は、風や雨にも微妙に異なるネーミングをつけ、梅雨を楽しんだのでしょう。
加えて7月6日に降る雨は、織姫と彦星が逢瀬を楽しむために乗った牛車を洗うので「洗車雨」と名付けられています。
そして一年に一度だけ会える7月7日に雨が降れば、二人は雨であえなくなり、涙を流すことになるので「催涙雨」と呼ばれています。
「七夕」は中国伝来の物語と、日本古来の風習が複雑多様に重なり合って今のスタイルになりましたが、七夕の定番料理である素麺は、麦の収穫への感謝の気持ちが込められているともいわれています。
今、このような文化が急激に失せています。
理由は様々ですが、いずれにせよ、時代の流れとあきらめてしまうには、勿体ない気がしてなりません。
●クールビズの小物としてではなく、相手を敬い謙譲の心を発揮したい「扇子」
ところで、この時期には暑気払いとしての小物も多くみられますが、特に「扇子」は日本の文化と深い関りがあります。
団扇が風をおこして蚊や蠅を払うに対し、扇子は風をおこし邪気を払う目的があります。
だから日本の伝統芸能やお茶の席で使用されます。
また和室において、扇子を膝の前において座礼をするのは、相手に対する敬意が込められています。
「わたし」と「あなた」の間に結界を設け、あなたが上座で、私が下座になるわけです。
さらに扇子は男性用と女性用では大きさや柄などが異なりますが、持ち方も異なります。
女性は親指で要や骨の部分を持ち、親指以外の4本の指と手の甲を相手に見せます。
これに対し、男性は要の部分をしっかり握り、親指を相手側に向けます。
扇子を使用するときには、自分だけに風が当たるように心がけて下さい。
静かに、ゆったりとあおぎ、涼風と優雅な雰囲気を醸し出し、風流美人を目指すのもいいかも・・・。
扇子も団扇も今ではクールビズの趣を有した小物ですが、扇子は日本で作られ、団扇は中国から日本に伝来したといわれています。
「左うちわ」という言葉がありますが、本来団扇は利き腕の右手であおぐわけですが、力の入らない左手で団扇を動かすということは、ゆとりのある優雅な暮らしに例えられます。
このような生活がうらやましいか?否かは別として、私は超高齢化社会において認知症が深刻な課題になっている中、あえて左うちわの生活をしてみようとはおもいません。
皆さんは如何でしょうか。
●五節供の一つ「七夕」の行事食「ソーメン」の由来
最後に令和7年の7月7日は、ラッキーセブンが3つ重なる縁起のいい日です。
「七夕」が晴天に恵まれる確率は四分の一といわれていますが、今年は梅雨が明けているので、可能性は高いのではないでしょうか。
いずれにせよ、6日から7日にかけて雨が降れば「洗車雨」や「催涙雨」の由来をイメージし、天気が良ければ、夜に夕涼みを兼ねて、扇子で涼を取りながら、夜空を見上げ、織姫と彦星のロマン伝説に浸って、七夕をお楽しみください。
一人でも複数人でもできる、風情のある「納涼七夕祭り」です。
ちなみに「七夕」の行事食の定番は、地方により様々ですが「ソーメン」が良く知られています。
麦の収穫に対する感謝、ソーメンを天の川に見立てた、織姫は裁縫上手ですからソーメンを糸に見立て裁縫の上達を祈願したなどの由来があります。
また彩が鮮やかな「ちらしずし」も縁起物の料理としてお勧めです。
笹の葉が手に入れば上手に利用してみて下さい。



