マナーうんちく話622≪世界平和記念日と日本の礼儀作法≫
●江戸時代に原型が生まれた和食と外食文化
2013年に和食がユネスコの無形文化遺産に登録され、はや12年が経過しましたが、大変広範囲の和食の原形ができたのは江戸時代と言っていいと思います。
今の東京もそうでしょうが、江戸の町は地方出身者が多く、特に独身の男性が多かったようです。
また当時の台所事情は貧しく、冷蔵庫もなければ調理器具も限られています。
火も起こさなければなりません。
従って、ほとんどの人は自炊ではなく、外食だったことが容易に想像できます。
またそれまで一日2食だったのが3食になり、濃い口醤油や味醂、加えて七輪などが発明され、食を取り巻く環境が大きく好転します。
食事情が豊かになってくると朝はご飯、みそ汁、納豆、昼は漬物にお茶漬け、夕食はご飯、みそ汁、七輪で焼いた魚などの定番料理の食生活ができるようになったわけです。
当時百万人を超える人口を有していた江戸で、和食文化が発達したことは頷けますが、その特徴はなんといっても「素材主義」です。
畑では旬の野菜が豊富に収穫され、江戸前の海からは様々な貝や魚が水揚げされます。
天婦羅、おでん、蕎麦、うどん、握りずし、鰻の蒲焼、さらには丼物や鍋物、豆腐料理や卵料理、弁当にいたるまで、令和の今も好まれている料理が多々生まれてきます。
なかでも天婦羅、寿司、蕎麦、鰻の蒲焼は江戸の「4大名物料理」といわれ、特に人気が良かったといわれています。
冷凍技術も養殖技術もない当時の事ですから、素材はすべて天然だから、令和の今より贅沢だったかもしれませんね。
そして、それに合わせレシピ本やグルメガイドのようなものも登場します。
料理だけではありません。
庶民でも気軽に買える「駄菓子屋」も登場してきます。
現在でも楽しまれている「スイーツ類」も多く生まれています。
花見の頃の桜餅、端午の節句にいただく柏餅、初夏の水無月や若鮎、彼岸の牡丹餅やお萩、お月見団子、加えて「マナーうんちく話」で詳しく触れてきました焼き芋や甘酒もそうです。
その他、江戸っ子の知恵や楽しみが凝縮された豪華な「行楽弁当」、芝居見物の合間に食べる「幕の内弁当」などは、料理もさることながら、弁当箱もとても豪華で、現在のコンビニよりはるかに素晴らしかったと思います。
さらに醸造技術も向上し、よりおいしい「酒」が続々と登場してきます。
「灘の生一本」と呼ばれるブランドが生まれたのもこのころです。
ちなみに日本には200年以上の歴史がある企業が約3000存在するといわれていますが、その中に酒屋が多くあるのもすごいことですね。
美味しい酒が登場すると、それにつれ「酒器」の文化も花開きます。
徳利や猪口などもおなじみです。
飲み食いを楽しむ人が増えてくるわけですが、こうなると、それにかかわる様々な飲食産業が発展を遂げます。
庶民や下級武士なども気軽に利用できる「屋台」から、やがて座敷で食事ができる「居酒屋」や「料理茶屋」、金持ち相手の「高級料亭」が次々と誕生し、そこには競争の原理が生まれてきます。
ともに切磋琢磨して、料理の味や接客技術等も磨かれてくるわけです。
こうして《接客サービスの概念》が誕生してきたと思います。
●江戸時代にも存在した料理店の格付け
江戸時代は様々な文化が誕生しますが、出版物も例外ではありません。
相撲の番付表に倣って、料理店の格付けなどを表示した書物なども現れるようになります。
ちなみに今話題になっているミシュランガイドは、タイヤメーカーであるミシュラン社が出版する様々なガイドブックですが、代表的なものにレストランの評価を星の数で表す「レストラン・ホテルガイド」があります。
パリ万博が開催された1900年に、ドライバーがドライブを楽しむ目的で作成されたミシュランガイドのようなものが、江戸にも存在していたわけですね。
ところで料理茶屋の番付表で上位を占めたのが「八百善」「平清」「百川」「大黒」などといわれています。
いずれも料理の味や質、店内の雰囲気、さらに接客サービスまで、洗練されたものが数多くあったと思います。
なかでも百川と八百善は以前《マナーうんちく話》でも触れましたが、幕末にペリーが来航した際、江戸幕府からの依頼で「おもてなし料理」を担当した素晴らしい実績があります。
こうしてみると、旬や初物にこだわり、すべて天然物で、手作りの料理を楽しんだ江戸時代の人々はある意味では、とても贅沢だったと思います。
モノが氾濫する令和の今の食べ物は殆ど加工品で、工場で製造され、しかも旬や初物にこだわれることは殆どありません。
有害物質も多く含まれています。
さらに悲しいことは殆ど自国では供給されていないという現状があります。
加えて食べ方もお世辞にもいいとは言えません。
どこかで間違った気がしてなりません。
江戸の人にまねて食べ物と真摯に向き合う姿勢を取り戻したいものです。