マナーうんちく話2222《これでいいの?インバウンド客と日本の「お・も・て・な・し」》

平松幹夫

平松幹夫

テーマ:マナーの心得

最近旅行会社のツアーをよく利用しますが、観光地は多くの外国人客でにぎわっています。
コロナ禍で日本人客のみならず訪日外国人客数が激減し、閑古鳥が鳴いていた観光業界にとってはまさに救いの神で、観光業界を始め様々な業種が活性化し、日本の経済に大きなインパクトを与えていますね。
とてもいいことだと思います。

でも「過ぎたるは猶及ばざるが如し」です。
度を過ぎれば、足りないのと同じくらい良くないということです。
「度を越えれば害になる」ということをしっかり認識する必要があると思います。
日本は世界屈指の長寿の国であり、平和で、四季折々にそれぞれの魅力があり、多くの世界遺産や観光資源に恵まれ、治安の良さや素晴らしい食文化を有しています。それに加え空前の円安の影響とあっては、この上ないビジネスチャンスの到来といえますが、「儲かればいい」とはいかないでしょう。

●目にあまる観光公害
度を過ぎた、多くの外国人客が、日本を訪れる状況が長引けばいいことも沢山ありますが、困ったことも多々発生します。
困ったことは、観光地が過度に混雑し、地域や自然に悪い影響を及ぼします。
いわゆる最近よく話題になる「over tourism」です。
昔からの観光地が訪日外国人であふれかえり、外国人に占領されてしまっている気がします。
宿泊費や料理代金なども高騰しましたね。
ごみのポイ捨てや店でのふるまいも気になります。
マナーに関するトラブルも多発しているということです。
いくら「背に腹は代えられない」といっても、こうなると私のような昭和人間にとっては、外国人客も「上客」ではなく「招かざる客」になりかねません。
外国人客と、従来の日本人客や地域住人その双方が《快適に過ごせる対策》が必要でしょう。
設備面及び人的面からの受け入れ態勢を充実させる必要があるということです。
何らかの対策を講じないと、在りし日の日本の文化や観光地ではなくなってしまう恐れが多分にあるでしょう。
観光地はすべてがテーマパークではないはずです。
日本ならではの風情が漂う中、ゆっくりと過ぎてゆく時間を楽しみたいものです。日本古来の文化に触れる時間も大切にしたいですね・・・。
これ以上日本らしい景色をなくしてはいけないと思います。
旅行の質を落とさないで欲しいということです。
そもそも「爆買い」という言葉が生まれ、それが流行語大賞にノミネートされた時から、いろいろな面で、おかしくなり始めた気がしてならないのですが如何でしょうか。

●外国人にも日本人にも「お・も・て・な・し」のアピールはほどほどに
「おもてなし」の文化は多くの国に存在すると思いますが、日本の「もてなし」の原点は、正月に里帰りされる「歳神様」や、盆に里帰りされる「ホトケ様」へのもてなしではないかと思っています。
そしてそれは稲作や神道の影響が強いのが特徴です。
従って国民性、宗教、文化、歴史、食文化、気候風土などが異なる外国人には、日本のもてなし文化を、そのまま受け入れられるのは非常に難しいと考えます。
目に見えない神様やホトケ様に対し、見返りを求めず、裏表なく、誠心誠意もてなすのが日本のもてなしであり、サービスを提供したらチップを要求するもてなしとは微妙な違いがあると思っています。
また千利休がおもてなしの心を説いた「利休七則」は有名ですが、これには非常に深い意味や道徳性があります。
例えば最初の「茶は服のよう点て」は、時や場所でのお客様の気持ちを考慮して点てなさいという意味です。
石田三成が、豊臣秀吉が狩りの際立ち寄った寺で献上した3杯のお茶のエピソード、つまり「3献茶」によく似ていますね。
光成のおもてなしのすばらしさに秀吉が感心し、家臣に採用した話で、相手の状況や気持ちを察して行動しなさいという教えです。

また4則では「花は野にあるように活け」と説いていますが、相手に喜んでいただくには、物事の本質を考えて対応することが大事という意味です。
今から約600年前の利休のおもてなしの心ですが、国際化やデジタル化が急速に進んだ令和の日本人には大変難しい教えだと思います。
マニュアルではなく、経験を積んだ臨機応変な振る舞いが求められるでしょう。

その「おもてなし」が最近では、言葉だけが先走りして、内容が伴っていない気がしてなりません。
商売といえ、気軽に口にし過ぎだと思います。
東京オリンピック招致委員会で話題になった日本の「お・も・て・な・し」ですが、東京オリンピックで、日本人はどれだけ外国の方々に「お・も・て・な・し精神」を発揮できたのでしょうか?
東京五輪が成功したか失敗したかは、それぞれの立場などにおいて様々な捉え方があるでしょうが、少なくとも私には、コロナ禍で強行開催された東京五輪は「復興五輪」とは名ばかりで、何の志もなく、私利私欲の道具にされただけのように思えてなりません。
快適な「お・も・て・な・し」ではなく、不快感漂う不祥事に始まり、不祥事で幕を閉じたと思っています。
それに対する振り返りも反省もなかった気がしますが、いったい誰が、どのくらい儲けたのでしょうか?
日本人が先祖から代々受け継いできたおもてなしが、国際舞台で十分発揮できなかったことを残念に思います。
数多くのボランティの方々のご活躍は推測できますが、それらのニュースがあまり伝わってきたようには思えません。

●日本の「おもてなし」が表面化したのは最近の事
昭和の終わりころにホテル業界に就職しましたが、当時「おもてなし」といった言葉はあまり聞いた覚えがありません。
「ビジネスマナー」という言葉もなかった気がします。
電卓も携帯電話もない時代で、人的サービスに依存することが多かった時代ですが、マニュアルや顧客満足といった言葉もなかったと思います。
もちろん外国人のお客様は沢山いましたが、常に誠心誠意のおもてなしを心がけていました。
「おもてなし」という言葉はなかったけど、心を込めておもてなしするのがごく普通だったわけです。
恐らく、これはどこの国でも同じでしょう。
つまり今、日本が盛んにアピールしている「今流のおもてなし文化」の歴史は浅く、また日本の専売特許のようなものではないということです。
ちなみに以前の日本のおもてなしや千利休にみられるおもてなしは、少人数のお客様を自宅に招いたようなおもてなしであり、文化や宗教の異なる不特定多数のお客様は想定していなかったのではないでしょうか。
今流行している「おもてなし」とは、恐らく30年前頃から、観光業界で使用され始めたのではないかと思っていますが、明確に記憶しているわけではありません。
また「おもてなし」という言葉が話題になって、急に人的サービスが向上したり、総合的にサービスの質がよくなった感は全くありません。
「おもてなし」という言葉を発するのも自由だし、それなりのサービススキルや設備投資も要求されないということです。
むしろ「人的サービス」は、私たちが現役時代の方がはるかに高かかったと思っています。

ビジネスの戦略の方法の一つとして大変都合が良い「おもてなし」という言葉は、非常に温かみがあり、心に訴える効果は高いと思いますが、それだけに、使用する側が、それなりの心遣いが必要で、むやみやたらに乱発しないで欲しいものです。

●先ずは自国の文化を優先
先日九州に観光に行った際、宿泊したホテルは大変接客マナーも良く、料理もおいしく、設備もりっぱで快適でした。
ただ部屋は「和室」でしたが座布団ではなく、三角形の形をした背に高いクッションのようなものが置かれていました。
とてもお洒落で多分、正座が苦手な外国人対応であり、日本人でも若い人には好評だと思うのですが、昭和のアナログ人間である私は残念な気がしました。
確かにインバウンド対応として多言語表示やキャッシュレス精算、旅館や飲食店のシステムの説明、和食の食べ方の説明等はある程度必要だとは思いますが、自国の文化は凛とした対応が良いと思います。

日本の「座布団」しかりです。
日本の座布団は来客への敬意から生まれた、日本ならではの素晴らしい文化であり、西洋のクッションとは、そこに込められた思いは異なります。
旅館の部屋のテーブルに置かれているお菓子、お茶、急須にも独特の思いが込められています。
サービスを提供する側が先ずそれらを正しく理解し、その素晴らしい文化をしっかり、利用していただいた外国人客に発信出来ればいいと思うのですが・・・。
さらに今まで経験した気になる事例は、和食をいただく際に「金属製の箸」や「箸を縦に置いている」店がありましたが、いかがなものでしょうか。
さらに最近特に感じるのは、和食をいただくときにお膳に「箸置き」がないケースが多いのがとても気になります。
いかに和食の作法や文化が正しく理解されていないということでしょう。
そもそも終戦後の日本の学校教育には「礼節教育」はありません。
学校でも家庭でも礼節に関する手ほどきを受けずに育った人たちが、どれだけ外国人観光客に「おもてなしの心」を発揮できるのか疑問です。
勿論あまり「おもてなし」を堅苦しくとらえる必要はないと考えますが、あまりにも「おもてなし」の言葉が前に出ると、誇大表示になってしまいそうな気がします。

●マナーには不易流行的側面があるのですが・・・。
国際化時代、情報化時代を迎えたことで、新たに必要とされるマナーは多々あります。私のような昭和時代のアナログ人間にとっては頭が痛いところですが・・・。
しかし、その反面、いくら時代が変化しようが、変えてはいけないマナーも存在します。
例えば年中行事の意味や和食に込められた精神性などはそうだと考えます。
日本を訪れる大半の外国人もそれらに興味があって、日本を訪れている人が多いのではないでしょうか。
だからこそ、サービスを提供する側は、しっかり自国の文化や作法を身に着け、凛とした態度で素敵に発揮していただきたいものです。
何度も「マナーうんちく話」で触れましたが、「日本の礼儀作法」は平和な社会背景から生まれたので、相手に対する「思いやり」や「敬意」や「感謝」の気持ちがその根源になっています。
従って地球が直面している、平和や環境保全などには非常に貢献できる内容だと思っています。
自信と誇りをもって、その精神を外国から遠路はるばるやってきたお客様に発信したいと思うのですが、いかがでしょうか。
東京オリンピックはそれを発揮するのに千載一遇のチャンスだったと思うのですが・・・。

コロナの影響が大きいと思うのですが、最近特に日本の礼儀作法や文化が影をひそめてしまった気がしてなりません。
このような国が本当に幸せになれるのでしょうか・・・。

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平松幹夫
専門家

平松幹夫(マナー講師)

人づくり・まちづくり・未来づくりプロジェクト ハッピーライフ創造塾

「マルチマナー講師」と「生きがいづくりのプロ」という二本柱の講演で大活躍。「心の豊かさ」を理念に、実践に即応した講演・講座・コラムを通じ、感動・感激・喜びを提供。豊かでハッピーな人生に好転させます。

平松幹夫プロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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