マナーうんちく話622≪世界平和記念日と日本の礼儀作法≫
今からかれこれ10年前くらいになりますか、IOC総会で日本の「お・も・て・な・し」が話題になった記憶がありますが、世界中には恐らく、どこの国にも客人をもてなす文化は存在するのではないでしょうか?
しかし日本のもてなしの仕方は素晴らしいと思います。
ホテル業界で長年、現場一筋に接客の仕事に関わってつくづくそう感じます。
喫茶店やレストランで提供される「お絞り」にもその姿勢がありありと現れています。
たとえば飲食店では、お客様が入店されるや否や「いらっしゃいませ」と笑顔で迎えてくれます。
そして席に案内すると、次にメニューとともに、冷たい水とお絞りが出されます。
水やお絞りが50円とか200円とか、有料であればそうは思いませんが、ほとんどの店では無料で提供します。
スーパーなどで、レジ袋が有料になっているにもかかわらず、飲食店では、お絞りや水が無料でサービスされ続けるのは素晴らしいと考えます。
ヨーロッパなどではまずないでしょう。
現在の物価高のあおりを受け、ほとんどの店では経営が苦しくなっていると思いますが、いまだお絞りや水は提供され続けています。
いかに店側が「もてなしの精神」を発揮しているかということでしょう。
つまり、沢山の店が乱立する中「ようこそ私どもの店においでくださいました」という「歓迎の気持ち」の表れと捉えてもいいと思います。
ちなみに日本でおしぼりが使用され始めたのは古く、貴族が屋敷にお客様をお迎えする際、濡れた布を出していたという説があります。
そして一般的に普及したのが、江戸時代です。
お伊勢参りが盛んになるにつれ旅籠が繁盛するようになるわけですが、当時の旅は草鞋です。
だから旅籠にチックインの際、草鞋を脱いで足を洗います。
このとき桶とともに布を提供し、お客様をそれで足を洗い、布を絞って吹いたから「お絞り」といわれるようになったとか・・・。
さらに昭和30年過ぎから「お絞り」を扱う専門業者が出現し、今では「布のお絞り」のみならず「紙お絞り」から「ウエットティシュ」まで多種多彩になってきました。
フレンチレストランなどでは、お絞りでなく「テーブルナプキン」が出されますが、これは文化の違いでしょう。
ちなみに洋食では、食事の前に手を洗う習慣があるので、あえてお絞りは不要だと思いますが、ナプキンは手と口を拭く役目があります。
さらに洋食で食事中に指を使用するような場合は「フィンガーボール」が用意されます。
一方、日本のお絞りには以前にも「マナーうんちく話」で触れましたが、「手を清める」役目があります。
神様から、命を繋ぐために与えられた大変神聖な食べ物をいただくわけですから、手を清めて頂きます。
さらに日本人は昔から大変清潔を好みます。
これは神道、稲作、温泉などの影響が強いといわれています。
また和食は畳で食しますが、畳での挨拶は座礼です。
つまり両手をその都度畳に付けて挨拶するので、いくら食前に手を洗っても、また汚れます。
だからナプキンでなく「お絞り」というのは大変合理的理由が存在するわけです。
ではお絞りを出された時の振る舞いはどうでしょうか?
入店してお絞りを出されたら笑顔で「ありがとうございます」と、お礼を述べて下さいね。
これが一番大切なマナーだと思います。
それから、お絞りを右手で受け取り、左手に載せて広げ、両手をふけばいいでしょう。
手をふく行為ですから、仰々しくではなく、できればテーブルの下で静かに拭いて下さい。
ふき終わったらたたんでナプキン受けに戻します。
たたむ際、ふいた部分(汚れた部分)を裏側にしてたためる人は素晴らしいです。
このようなところに品格が出ます。
また家庭や店でお客様にお絞りを出すときには、できるだけ、丸めないで、二つ折りにして、折り目を客人に向けて出せばいいでしょう。
笑顔で一声かけて下さいね。
人数が多い時や時間のゆとりがない時には、丸めてお絞り受けに置いたらいいと思います。
左側には菓子類、右側にはお茶、コーヒーなど飲み物を置きますので、お絞りはさらに右側がお勧めです。
右利きの人には好都合です。
お客様が長時間滞在する場合は、途中で古いおしぼりを下げ、新しいものを出してもいいですね。
お茶のお変わりの時などがグッドタイミングです。
フランス料理は豪華絢爛な雰囲気が魅力的で、ナプキンの存在感も大きく、素敵なテーブルコーディネートになります。
加えてナプキンは多彩なコミュニケーションツールにもなっています。
その点、和食のお絞りは地味ですが、豊かな精神文化を有しています。
また疲れをいやす効果も期待できる気がします。
いずれにせよ「テーブルナプキン」も、おしぼりも「もてなす」という共通の気持ちが込められており、歓迎の気持ちがあるのがいいですね。
加えて「布のお絞り」も「テーブルナプキン」も、使用後は、またほかの人が使います。
この点をしっかり頭に入れて使用して下さい。