マナーうんちく話569≪泥より出でて、泥に染まらず≫
石麻呂に吾物申す 夏痩せに良しというものぞ うなぎとり召せ(大伴家持)
暑気払いにウナギを食べる風習は1000年以上前から存在するのですね。
もっとも当時は濃い口醤油や味醂はありませんので、蒸して、塩で食べていたと思います。
ところで鰻はどんな川でも上流に向かって勢いよく昇る特性があるので、業績や数値などが上昇することを「うなぎ上り」と言いますが、鰻の値段が年々上昇し、土用丑の日であってもなかなか思うように鰻を食すことが困難になりましたね。
暇で困っている鰻屋の主人に対して、「本日土用丑の日」というキャッチコピーを考えた平賀源内の商才は素晴らしいと思いますが、本家本元の日本で鰻がこれだけ品不足になるとは・・。
さぞかし源内先生もびっくりしていることでしょう・・・。
令和4年8月4日は2回目の土用丑の日です。
「二の丑」と言います。
再度鰻の蒲焼を食す人もいると思いますが、これだけ値段が高騰すれば我慢する人の方が多いのではないでしょうか・・・。
神道と仏教を信仰し、四季が豊かで、稲作で栄えた日本には、季節ごとの様々な行事やお祝いの日に食べる「行事食」といわれる特別な料理が沢山あります。
現在、一番多く食されている行事食は正月にいただく「お節料理」「お雑煮」、大晦日の「年越しそば」だといわれています。
次に多いのがクリスマスイブの「クリスマスケーキ」だそうですが、これは明治にデパートが仕掛けた販売戦略が功を奏したもので、平賀源内が仕掛けた土用丑の日の鰻の蒲焼と似ています。
なんだかんだと言っても、現在人気が高い行事食は、業界の販売戦略の影響が非常に大きいような気がします。
ただそれだけに、行事食の本来の意味が薄れたり、異なったりすることも多いのが残念です。
ちなみに「土用」は立春・立夏・立秋・立冬の前の18日間で、年に4回ありますが、夏の土用丑の日にいただく「鰻のかば焼き」も、行事食としてすっかり定着しています。
夏の土用は「う」の付く食べ物、秋の土用は「た」の付く食べ物、冬は「ひ」のつく食べ物、そして春の土用は「い」の付く食べ物というわけです。
日本の年中行事の多さは世界屈指だといわれていますが、いずれも神様に感謝の気持ちを表現し、農作物の豊作、邪気払い、家内安全、子孫繁栄などを祈念するためです。
その際、いつもと違った料理をいただき、神に祈るわけですが、同時に四季折々の旬の食べ物で季節感も味わったわけです。
旬の食べ物は栄養価も高い上に、味もいいので合理的ですね。
手軽に地元の食材を味わったのでしょう。
いつもと違う料理、つまり「ハレ」の食べ物をいただき、贅沢感も味い、生活にメリハリを付けたわけですが、現在は食生活がとても贅沢になっているので、毎日が「ハレ」の食事かもしれませんね。
ただ今は物質的には豊かですが、共食が少なくなり、孤食や黙食などが多く、内容はお世辞にも豊かだとは言えません。
もう少しの我慢でしょうか。
また日本には春夏秋に祭りが多く存在しますが、神様への感謝や祈願と同時に、地域の人々の絆を深める大切な意味があります。
《マナーうんちく話》でもすでに登場した「直会(なおらい)」という行事があります。
神事を行う際にお供えした食べ物を、神事が終わった時に下げ、神事に参加した者同士で戴くわけです。
神様にお供えしたものを共にいただくことで、神様により近づくことができ、神様と一体となれるので、祈りの力が増すと考えられたようです。
大変ユニークな文化ですが最近は薄れました。
人気の行事食も、豪華さや娯楽性ばかりが強調され、本来の意味が薄れるのは寂しい限りです。
そして行事食もほとんどが営業目的で販売されたものが多く、商業ペースで進んでいることが気になります。
従って家族や地域の絆を深める効果が希薄になるのが残念です。
行事食は地域の気候風土や特産物を組み合わせたものも多く存在し、普段は口にしませんが、それぞれ意味があり、その背景を知ることで、食文化の奥深さを実感できます。
行事食を次世代に正しく伝え、国や地域の伝統を紡いでいければいいと思うのですが。
その前に日本の食料自給率を上げなくてはいけませんね。