マナーうんちく話535≪五風十雨≫
先人は邪気払いと同様、暑い夏を少しでも快適に過ごすために「暑気払い」という文化を築いています。
「払う」には、不要なもの、無益なもの、邪魔なものを取り払うという概念がありますが、飲み物や食べ物で、体の中に蓄積された熱を取り払い、心地よくするという考え方のようです。
ちなみに暑気払いは平安時代の頃から行われていたようで、琵琶茶などが存在していたとか・・・。
今はデパートなどで、暑い夏をおいしく楽しむ「暑気払い特集」などが企画されており、多くの魅力的な食品が並んでいますね。
筆頭格は栄養価の高い鰻、そして甘酒、さらに体を冷やすソーメンやスイカなどなどでしょうか。
ちなみに江戸時代には枝豆、ところてんなどに加え、「麦湯」が夏バテ防止に人気があったようです。
当時はクーラーも扇風機もないので、暑い夏の夜は、家の中より外の方が住みやすいので「夜遊び」が盛んで、その際、特に「麦湯」がよく売れたとか。
勿論売れる理由があります。
当時は麦湯を売る屋台も多く、実はそこで浴衣を着た若い女性が接客してくれるので、これが大変好評だったといわれています。
恐らく、世界に誇る日本の接客スキルは、このころから飲食店などで磨かれてきたのではないでしょうか。
また夏の生水は衛生上とても危険です。
だから値段も手ごろで、栄養価もあり、美味な熱い麦湯や甘酒が愛飲されたのでしょう。
しかも愛想の良い、若い女性が、浴衣姿で接客してくれれば、流行ること間違いなしですね。
浴衣は夏の涼の代表格で、素足に下駄で出かけるのもいいものです。
物が豊かになった今では浴衣も大変豊富になりましたが、普段着として広まったには江戸時代からです。
さて「浴衣のマナー」ですが、たまに浴衣を着る期間や時間帯の質問を受けることがあります。
一般的には7月・8月と思われがちですが、普段着として広まっている点から考えると、いつ着てもいいと思います。
午前でも午後でもいいでしょう。
さらに今は25度を超えれば「夏日」、30度を超えれば「真夏日」とされていますが、南北に細長い日本では地域に気温はさまざまで、期間限定というわけにはいかないでしょう。
それこそ浴衣を着る人の個性を尊重したらいいと思います。
ただ普段着と言え「着物」を日常で着ることは珍しいと思います。
慣れている人は別として、初めて着る場合はある程度練習することをお勧めします。
着る期間や時間は自由ですがTPOに配慮することが大切です。
さらにドレスコードが定められているときには注意してくださいね。
また浴衣はTシャツの様なカジュアル感覚でいいと思いますが、簡単にポイントに触れておきます。
立ち居振る舞いは丁寧に、そして小さめに、加えて背筋を伸ばしてください。
洋服の時よりやや内またで、歩幅は小さめということです。
特に扇子や団扇などを使用する際にも、周囲への配慮をお忘れなく。
ところで年配者はご存じだと思いますが、夏には風を通して蚊をシャットアウトする「蚊帳(かや)」があります。
昔の人にとって蚊帳は夏の必需品ですが、「初鰹 りきんで喰って 蚊に食われ」という滑稽な川柳があります。
見栄を張ることが好きな江戸の男性が、誰よりも早く高価な初鰹を食いたくて、蚊帳を質に入れて金を工面して、みんなの前でいい格好するわけですが、夏になっても蚊帳が買い戻せず、蚊に食われ、散々な目にあうという話です。
部屋の4隅をつって寝床を覆う蚊帳は、まさに日本の夏を象徴する道具ですが、昔は麻や木綿で出来ており、これが涼を呼ぶポイントになったわけですね。
いずれにせよ四季が豊かな日本では昔から夏の暑さ、冬の寒さと上手に付き合ってきたということです。
また集団や仲間から無視され、情報も入ってこなくなることを「蚊帳の外」と言いますが、蚊帳の中ではなく、蚊帳の外で蚊に刺されるからついた言葉です。
半世紀前頃からクーラーや網戸が普及して、蚊帳とは縁が薄くなりましたが、無視されたり、不利な扱いを受けるなど、人間関係における仲間はずれで悩んでいる人は昔よりはるかに多くなりました。
皮肉な話です。
さらに「大暑」の時期にヒートアイランド現象を緩和するために「打ち水」が推奨されていますが、これも暑さを乗り切る江戸時代から続く日本人の知恵です。
私も花や野菜に水やりするときには、ついでに道路にも打ち水をしますが、気持ち涼しくなります。
また打ち水には「清める」目的もあり、来客を迎えるとき等には、門前に打ち水をします。
最後に「夏の土用には《う》のつくものを食べるといい」といわれていますが、暑い夏を乗り切るために「土用の喰い養生」という風習も残っています。
「土用卵」「土用蜆」「土用餅」などが有名ですが、食べればいいものではありません。
食べすぎ、飲みすぎに注意するとともに、睡眠や適度な運動、さらにコロナにも注意して、元気で、日本の夏をお過ごしください。