マナーうんちく話2131《満ちれば欠ける!優雅に品よく使いたい「扇子」の作法》

平松幹夫

平松幹夫

テーマ:マナーの心得

今年は前例がないほど梅雨が早く開けましたが、本来梅雨は「黴雨」であり、一年で最も食中毒が発生しやすい時期です。

今は医学も発達し、食中毒になっても適切な治療が受ければまず大事に至らないでしょう。

でも昔は違います。
ことのほか怖い病気ですが、治療方法も薬も限られています。
ではどうするか?

先人はこれらを邪気と捉え、邪気払いを行うわけですが、風をおこして邪気を払うために扇子が考案されたという説があります。

中国から伝わった団扇にも、風や火をおこしたり、羽で様々な害を打ち払う目的があったようで、昔の人は色々なことを考えていたのですね・・・。

今でも、涼を呼ぶ小道具としてのみではなく、様々な儀式に使用されるもそのためでしょう。

ただ使用方法には団扇と扇子では大きな違いがあります。

特に扇子は生粋の日本製であり、様々な用途で使用されますが、品よく使用するのは難しいようです。

そこで今回は扇子に関するうんちくをお届けします。
是非参考にして下さい。

●扇子の用途
奈良時代から平安時代頃に、日本で扇子が考案されたといわれていますが、当時は貴族や神職の文化で、庶民に普及したのは江戸時代だといわれています。

特権階級の人が公式行事の式次第をメモしたり、装飾品として身に付けたりしていたようです。

やがて能や茶道の世界にも登場し、戦国時代には鉄を使用した護身用の扇子まで登場し、独特の文化を形成しています。

以後庶民の間でも普及し、夏の涼を取る必需品として昭和30年頃までは結構需要があったようですが、やがて扇風機に押されて次第に影をひそめるようになります。

●扇子の持ち方
今はクールビズ用品としておしゃれ感覚で使用されますが、長い歴史を誇り、素晴らしい芸術性を帯びた伝統工芸品であり、しかも風流な文化ですので、品よく使用したいものです。

ちなみに扇子の「扇」は風をおこす意味がありますが、なんといっても華やかさや奥ゆかしさを感じる小道具ですので、厳格な作法が存在するのも頷けます。

先ず持ち方ですが男性と女性は違います。

男性は親指を外側に立てて使用します。
人から見た時に親指が見えるのがポイントで逞しさを感じます。

女性は4本の指をまっすぐ伸ばし、親指で挟んで手の甲を見せます。
4本の指を見せるのがポイントで、優しさを醸し出します。

そして両手に持ち、ゆっくり、丁寧に、開いたり閉じたりします。

ちなみに団扇は柄をもって使用しますが、扇子は「要」を持ちます。

また扇子は団扇と異なり、バタバタ使用でなく、ゆっくり仰いでください。
だから風量は多くありません。

風量を期待するのであれば、今流行りのハンディータイプの扇風機などの方がいいでしょう。

ちなみに団扇の世界にも「左うちわ」という言葉がありますが、本来は利き手の右手で仰ぐものですが、左手でゆっくり仰いでもことがたりるので、何の心配や不安がなく、気楽な生活ができるという意味です。


また扇子は広げたら末広がりになるので「末広」とも呼ばれ縁起物として扱われたり、風をおこして邪気を払い幸運を呼ぶともいわれています。

●扇子の作法
そして扇子の使用上のマナーは、一言で言えば自分のみです。
つまり相手に風がいかないように、体の下から上に(腹の位置から顔に)向けて仰ぎます。

大勢の前で使用するときは、使用してもいいか?尋ねて下さいね。

最後に「満ちれば欠ける」という言葉があります。
扇子を全部開ききったらあとは欠けるだけですので、8分目から9分目まで開いて、少し閉じたままにします。

未完成に価値を求めたわけで「十三夜の月」を愛でる気分です。


●扇子の種類と精神文化
ところで、扇子には様々な種類があり、それぞれ特定に名前が付けられていますが、クールビズの小道具として涼をとるために使用する扇子は「夏扇子」と呼ばれています。

一方儀式に用いる「祝儀扇子」もあります。
相手に対する「敬意」や「結界」の意味を有し、閉じたまま使用します。

結婚式のときに立礼する時や記念写真を撮るときに使用した経験をお持ちの方も多いと思います。

改まった席や挨拶などで使用することが多いのですが、その意味を理解しないまま使用されるのは本当に残念な気がします。


先日「夏の歳時記」に関する講座で「扇子」の作法に触れました。

残念ながら高齢の人でもほとんどの人がご存じない気がしました。

扇子に込められた相手に対する「思い」は、日本人独特の優しさや敬意だと考えます。素晴らしいコミュニケーションです。

今は物が豊かになり、クールビズ製品としての扇子は目を見張るほど多くの品ぞろえになりました。

しかしそこに込められた本来の精神文化は影を潜めている気がしてなりません。
寂しい限りです。

コロナの影響を受け「団扇会食」なんていう言葉が一時登場しましたが、とても違和感を覚えました。

非常に暑い時だからこそ優雅に、品よく扇子を使用し、夏の穢れと暑さを仰いで払うとともに、心を豊かにしたいですね。

扇子の風には不思議な力が宿っていると思います。

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平松幹夫
専門家

平松幹夫(マナー講師)

人づくり・まちづくり・未来づくりプロジェクト ハッピーライフ創造塾

「マルチマナー講師」と「生きがいづくりのプロ」という二本柱の講演で大活躍。「心の豊かさ」を理念に、実践に即応した講演・講座・コラムを通じ、感動・感激・喜びを提供。豊かでハッピーな人生に好転させます。

平松幹夫プロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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