マナーうんちく話569≪泥より出でて、泥に染まらず≫
6月に入ると自然のリズムは「夏」へ移行し始めますが、昔から6月1日は「衣替え」です。
ちなみに2005年から毎年一斉にクールビズ(COOL BIZ)がスタートして、冷房温度を適正化し、ノーネクタイ、ノー上着が推奨されましたが、本当に今までどれだけの効果があったのでしょうか?
クールビズの本来の目的である二酸化炭素の削減を図り、地球環境保全にどれだけ役に立ったのか?
相手が地球ということになれば、効果の検証はとても難しいでしょうね。
現に環境はますます厳しくなっている気がします。
検証すればするほど、都合の悪いことも沢山出てくるでしょう。
勿論特定の国だけの話では済まないし、難しいところです。
ただ「BIZ」は「business」の短縮形ですから、衣服の買い替えなどによって儲けた人は多かったと思いますが、儲けるだけの政策だったら寂しいですね・・・。
理想はすべての国の人が自然に対して、できる範囲で、素敵なマナーを発揮することだと考えます。
「思いやり」を根源にした礼儀作法を有し、豊かな自然に恵まれた日本が、その旗振り役を担えれば素晴らしいと思うのですが・・・。
もともと四季が明確に分かれている日本には、平安の時代から「衣替え」という文化が根付いています。
季節に応じて衣服を着替える風習であり、それによって季節の折り目を正したわけです。
つまり昔から自然に寄り添って暮らしていたわけで、これほど地球環境にやさしい生き方はないでしょう。
特に湿気の多い日本では昔から「畳替えし」や「虫干し」といった、季節に応じた文化がありました。
私も幼い頃経験しました。
また「衣替え」をすることで生活にもメリハリがつき、気分を変えることもできます。
昔は、今のように物が豊富ではありません。
全ての人が四季に応じた衣装を持っているわけではありません。
むしろ、貧しい人の方が圧倒的に多かったでしょう。
だから季節が終わって次の季節に移行するときには、今まで着ていた服をほどいて、次の季節用に「仕立て直し」しなければなりません。
例えば寒い季節への備えとして「綿入れ」をします。
温かい季節になると綿を抜きます。
同じ服を何年も大切に切るための生活の知恵です。
加えて衣服として用を足さなくなったら、今度は雑巾や風呂敷などに再利用したわけです。
今のように「SDGs」や「Reuse・Recycle・Reduce」のような洒落た言葉はありませんが、ごく当たり前に物を大事にしていたのが伺えます
さらに当時の人は服装で個性を表現する感覚ではなく、自分が着ている服が周囲にどのような影響を与えるのかを考慮したわけです。
ここを強調しているマナー教本はないようですが、私はこの点を大いに評価したいと思っています。
特に江戸時代の武士は年に4回衣替えがあり、期間のみならず、着物の素材まで厳格に定められていたそうです。
そしてこの考え方は、日本の礼儀作法にもいたるところで表現されています。
例えば「箸の持ち方」もそうです。
料理をおいしく食べることもさることながら、一緒にテーブルを囲む人に不快感を与えないための「嫌い箸」が和食の作法には多く存在します。
※《マナーうんちく話262「これだけはやめてほしい嫌い箸」》
日本人独特の季節感や協調性の精神はこのようなところから根付いたのでしょう。
「衣替え」という文化は、四季の国ならではの本当に素晴らしい日本の文化です。
時代の流れに柔軟に対応することは大切ですが、クールビズという新たに生まれた造語により、日本の伝統的な風習や美しい言葉が影をひそめるのは残念です。
季節の言葉に込められた先人の思いや、伝統的な風習の意味や意義を正しく理解し、後世に伝えていくことは大事だと考えます。
和風月名では6月は「水無月」です。
「無」は「・・・の」という意味で、水無月は「水の月」という意味になります。
本格的な梅雨を迎え、何かと水との縁が深くなる生活が続きます。
紫陽花や菖蒲を鑑賞したり、蛍狩りや潮干狩りを楽しんだり、田植えを経験してみるのもお勧めです。
我が家ではこの時期にはラッキョウをつけます。
これからさらに高温で湿度が高くなります。
コロナ・熱中症・食中毒にも注意して元気でお過ごしください。