マナーうんちく話569≪泥より出でて、泥に染まらず≫
春されば まづ咲く宿の梅の花 独り見つつや 春日暮らさむ(山上憶良)
初春の花といえば「梅」を思い浮かべる人が多いと思いますが、寒が明け、立春の声を聞くと花が咲き始めます。
私が主催する講座では、この時期、会場の飾り花として椿とともに大活躍してくれますが、今年はどうでしょうか。
講座では毎年同じ花を活けますが、その季節になると、時期のものがお目見えすると、なぜかホッとしますね・・・。
特に厳寒の冬から春に移行する頃には、待ちに待った春の到来を告げるものはうれしいものです。
「春近し」「春待つ」「春隣」などの季語がありますが、春を待ち望む気持ちは昔も今も同じでしょう。
また寒さが緩み始める目安になる「立春」になると、太陽の暖かさや光が蘇る祝いの気持ちや、大切に思う心が、日本の文化には強く感じることができます。
古今集、新古今集、万葉集にも待ち遠しい春をうたう歌が多くみられます。
今回は改めて「春告げ草」に触れてみます。
昔の人は、東風が春を連れてくると信じていたようですが、東風を待って咲くのが梅で「春告げ草」といわれています。
桜は日本ですが、梅は中国が原産で、日本には奈良時代に伝わったといわれています。
当時の貴族は自分の屋敷の庭に梅を植えて、それを眺めるのが一種のステータスだったとか。
万葉集でも萩に続いて多く詠まれており、当時は「花見」といえば梅を愛でていたのではと推測できます。
厳寒の中で、百花に先駆け、いち早く凛とした香りと、愛らしい花を届けてくれるので「春告げ草」と名付けられましたが、梅はどうみても「草」ではなく「木」です。
ではなぜ「草」なのでしょうか?
野暮な詮索かもしれませんが、歳時記のセミナーなどで、たまに質問を受けますので私見を述べてみます。
約46億年前に地球が誕生し、34億万年前に植物が誕生したといわれていますが、そもそも迷路のような植物の分類ができたのはごく最近の話で、「春告げ草」と名前が付けられたときには、花や草や木というような明確な分類は存在しなかったのではないでしょうか。
例えば食用にする「春の七草」には大根や株もありますが、野菜ではなく草で統一されています。
さらに観賞用の「秋の七草」は、萩や桔梗や女郎花などもどう見ても今では花に分類されますが、これも草で統一されています。
細かいことはそれくらいで、今は「実」を大事にする「実梅」と、花を観賞する「花梅」に分類されますが、我が家では、正月には迎春の飾り花として、梅雨時になれば熟した梅を収穫して梅干しにしたり焼酎漬けにします。
まさに見てよし、食べてよしですが、明治以前には薬用としても重宝されています。
そればかりではありません。
梅は匂いも魅力的で「匂い草」という名前も付けられています。
加えて春の風を待って咲くから「春風草」という、大変響きの良い名前も有しています。
だから「松」や「竹」とともに、吉祥のシンボルとして多くの人に愛され続けて来たのだと思います。
まだまだ寒い日が続きそうですが、たまには、今、風がどの方向から吹いてくるのか確認してみて下さい。
そして大きく手を広げ、東風を迎えてはいかがでしょうか。
良いことがありそうな気持になれます・・・。
梅に続いて春告げ鳥の「鶯」の初音も聞こえてくるでしょう。
店頭には、地域によりさまざまですが「イカナゴ」「鰆」「メバル」など春告げ魚もお目見えしますよ。
次回は吉祥のシンボル「松竹梅」についてです。