マナーうんちく話535≪五風十雨≫
この時期の風物詩の一つに大掃除がありますが、とくに有名な神社仏閣での大掃除は毎年マスメディアに登場しますね。
また一般家庭でも、年末になると普段掃除をしないような個所も丁寧に掃除をしますが、皆様のお宅はいかがでしょうか。
実はこの大掃除は、伝統的な表現をすれば「すす払い」で、平安の時代から受け継がれている伝統行事です。
昔のことですから主に囲炉裏生活です。
換気扇はありません。
薪や炭を焚くので、当然家中にすすがたまります。
だから「すす払い」になるわけです。
では、いつ、何のためにするのか?
当時は七草粥を食べたり、衣替えをしたり、炬燵を出すのは、定められた日に一斉におこなわれました。
ただ炬燵を用意するのは、武家階級と一般庶民では異なっていたようです。
「すす払い」は12月13日ですが、これは江戸城で12月13日に実施されていたのが、庶民にも伝わったといわれています。
12月13日は当時の暦では「鬼宿日」で、鬼が宿の中でおとなしくしている日とされ、縁起がいい日とされていたからでしょう。
そして「すす払い」の目的は単なる掃除というだけではなく、正月と密接な関係があります。
《マナーうんちく話》で何度も触れましたが、正月は私たちに幸運をもたらして下さる「歳神様」をお迎えし、おもてなしをし、そしてお見送りする一連の行事です。
ちなみに歳神様とは先祖霊や穀霊の集合霊のことですが、神様をお迎えするわけですから家の中の邪気を祓い、清めなくてはなりません。
すす払いの目的はまさにそこにあります。
さらに13日には、門松に使用する松や、雑煮などを焚く薪を近くの山から採ってきます。
いわゆる「正月事始め」で、しめ縄など様々な正月用品もこの日に準備します。
ちなみに門松に使用する松を取りに行くことは「松むかえ」と言います。
昔は何をするにも形式を重んじたのでしょうね。
平安時代に定められた「延喜式」には「すす払い」の順番まで事細かく決められていたとか。
恐らく当時は「すす払い」は魔よけの意味もあったのでしょう。
だから12月13日は大変重要な日であり、神聖な日でもあったわけです。
そして、この正月事始めを行って「お歳暮」の用意をするわけです。
お歳暮は歳神様にお供えするためにする本家や実家への贈り物です。
それがやがて世話になった人への贈り物になったわけです。
今では早くお歳暮を購入すれば割引制度もあり、お歳暮の時期も早くなりましたが、これも時代の流れでしょうか・・・。
さらに明治以降日本に西洋文化が入ってきて、クリスマス行事が根付くと、大きな売り上げにつながるので、自然に正月準備より、クリスマス商戦に力が入るようになります。
こうしていつの間にか歳神様をお迎えする準備の日は忘れ去られ、神社仏閣など限られたところでしか行われなくなりました。
大掃除もクリスマスを済ませてからの家庭が多くなったのではないでしょうか。
秋祭りもそうですが、日本の伝統行事が薄れ「ハロウイーンイベント」の方がビッグイベントになりましたね。
外国の文化をおおらかな気持ちで迎えるのは良いことだと思いますが、まずは自国の文化や礼儀を大切にしたいものです。
時代に流れだと簡単に忘れ去ってしまうには、あまりにも勿体ない、大切な意義や意味が日本の伝統行事には存在しているからです。
最後に長年テーブルマナーに関わっている私は、常に「台所」をきれいにすることをお勧めしています。家族全員が安らぐ場所だからです。
今年の大掃除は特に、食卓をきれいにされることを心がけていただければ嬉しいです。