マナーうんちく話498≪うかつ謝り≫
何度も《マナーうんちく話》で触れましたが、改まった座礼の際は膝の前に扇子を置きます。
日本人ならではの大変美しい挨拶だと思います。
しかしなぜ扇子を置くのか?
その奥に込められた思いを理解しないと、された方も戸惑いますね。
扇子は本来手に持ちますが、手に持ったままお辞儀をするのは様になりません。
だから前に置くわけですが、いろいろな意味が込められています。
一番有力な意味は扇子を置くことにより「結界」をつくることです。
結界とは仏教用語で「あの世」と「この世」の境であり、あの世に敬意を表す表現になります。
そこから転じて、扇子を境にして相手側が上座、自分側が下座になります。
つまり自分をさげすみ、相手をたてるわけで、日本ならではの謙虚な姿勢の表れではないでしょうか。
扇子を前に置くもう一つの理由は、昔武士の世界では扇子は武器になります。
その扇子を持ったままでは相手を警戒していると取られるので、扇子を前において、相手に敵意がないと解釈してもらうためですが、定かではありません。
平安の時代から風を仰いで涼をとる目的ばかりではなく、コミュニケーションや儀礼など様々な場面で活躍した扇子ですが、貴族や武士の間では使用方法が多少異なっていたようですね。
貴族は扇子に和歌を書いたり、扇子に花を載せて贈ったり、風流を味わうこと
にたけていたのではないでしょうか。
一方武士は武器としての目的もあったようです。
だからお辞儀をする際、扇子を前に置き、扇子とひざの間に両手をついてお辞儀したと思います。
扇子は純日本産の小さな小道具ですが、風をおこしたり、風流を味わったり、邪気を払ったり、結界を作ったりする目的で使用されるので、大きな役割を背負っています。
大切にしたい日本の文化だと思います。