マナーうんちく話453≪冬来りなば春遠からじ≫
日本人女性が着物で、畳に凛とした姿勢で正座している姿は、欧米のセレブでもまねのできない美しさだと思いますが、女性であれ、男性であれ、手紙を書いている姿は実に美しいものです。
恐らく世界共通でしょう。
なぜでしょう。
理由は手紙を書くときに生じる季節にふさわしい言葉、相手に対する敬意や思いやりなどが、その姿に反映されるからだと思います。
知性や教養、さらに色気まで映し出されるかもしれませんね。
しかしこのような長い間親しまれてきた手紙というコミュニケーションツールが、時代の流れとともに衰退しているのはゆるぎない事実です。
いちいち便箋や封筒を用意し、手紙を書いて、切手を貼り、郵便ポストまでいかなくても、いつでも、どこでも、しかも瞬時に意思疎通ができる時代です。
だったら手紙・葉書はデジタル時代に淘汰されるのでしょうか?
私は頻度こそ少なくなるが、やはり残り続けると思います。
一番の理由は、手紙や葉書は手元に残ることと、頂いた時の温かい感触です。
加えていくらデジタルの時代になっても、どうしても「手紙」でないといけない要件はあると思うわけです。たとえば、デジタルでは担えない、真心を伝えるセールスの役割もそうでしょう。気持ちを伝えるとともに、事務処理の役目もあります。
また手紙や葉書独特のボキャブラリーがあるのもおもしろいですね。
拝啓、謹啓、前略を始め、日本独特の時候の挨拶も多々あります。
さらに安否を尋ねる言葉、ご無沙汰を詫びる言葉も続きますが、最後に相手に対する「思いやりの言葉」も非常に大きな要素です。
コロナ禍で人とのつながりを痛感された人も多いと思います。
こんな時こそ手紙や葉書で心を結んでみるのもお勧めです。
コロナ禍ですが「暑中見舞い」の季節になりました。
四季が豊かな日本には、昔から冬と夏に物品や書状を贈って相手を気遣う文化があります。出すタイミングは今では、二十四節気の一つ「小暑」、もしくは梅雨明けから立秋の前日までとなっています。
年賀状のように厳格なマナーはありませんが、涼感とタイミングが大切です。
ポイントは差し出す相手先の天気を参考にしてくださいね。
相手との関係を考慮しつつ、決まり文句のほか「一言」加味すればいいでしょう。
また手書きの見舞状はとても魅力的ですが、ワープロの文字でも十分心は伝わります。
どんな書体がいいか、挿絵はどうか、相手を思い浮かべながら言葉を選んだりして、手間暇は同じくらいかかります。だから、その分気持ちが伝わるわけです。
再度自粛生活を余儀なくされている人も多いと思います。
加えてマスクが必須で、社会的距離の確保などが問われる今こそ、日頃疎遠になっている人、お世話になった人、大切な人などのことを思い浮かべながら、一筆啓上はいいものです。
「コロナ禍で、随分ご無沙汰していますがお元気ですか?」の一言が、相手に思わぬ勇気と希望を与えることもあります。
ところで「文香」をご存じでしょうか?
平安貴族は大切な人に贈る頼りに香を焚き染め、香りを添えたそうですが、その習慣が文香という形で今でも残っており、結婚式の招待状をはじめ、名刺やしおりなどでも使用されています。
今年は新型コロナや豪雨で何かと大変な思いをしている人も多いと思います。
香りを加味した温かい便りで大切な人を思いやるのもおすすめです。
ひいては、このことが「自分自身が豊かなひと時を過ごすこと」になるわけです。
オンラインではできない、猛暑を乗り切る知恵だと思います。