マナーうんちく話453≪冬来りなば春遠からじ≫
10月の声を聞くと朝晩が寒く感じるようになり、野山に冷たい露が宿り始めるとともに、金木犀の甘い香りが漂い始めます。
そしていよいよ「稲刈り」がピークを迎えます。
5月の田植えからあっという間に稲刈りですが、稲の穂が出て40日から45日くらいで黄金色に成熟した稲穂が垂れ下がってきます。
実は日本人にとって最も大切な仕事であった「田植え」と「稲刈り」の時期は、暑くもなく、寒くもなく、ともに一年の中でも最も過ごしやすい時節なのです。
神様のお心遣いに感謝です。
ちなみに昔は、銀は「しろがね」、金は「こがね」と呼んでおり、黄金色とは赤みを帯びた黄色です。今流に表現するとオレンジがかった黄色で、まさに日本の収穫の秋を最も象徴的に表現した色ではないでしょうか・・・。
四季の移ろい及び植物、動物、空の様子、食べ物から感じ取り、自然と仲良く暮らしてきた先人は「浅葱色」「茜色」「小豆色」「飴色」「亜麻色」「菖蒲色」「杏色」「紅色」など、暮らしの中に多彩な色を取り入れ、豊かな趣を愛でてきたのでしょう。
中でも「黄金色」は豊かさを表現する色で、存在感が強く、実りの秋、収穫の秋と共に心が前向きになる大変素敵な言葉です。
そして稲刈りが終わると全国津々浦々《秋祭り》のシーズンです。
四季が豊かで年中行事が多い日本には春夏秋冬を通じ、全国で数十万の祭りが催されるといわれていますが、いずれも華やいだ風情の裏には、昔の人の深い思いが込められています。祭りの由来や意味を理解したうえで楽しみたいものですね。
稲作を中心とした農耕文化で栄えた日本の祭りは、何かと農事にまつわるものが多いのが特徴です。
例えば春に開催される祭りは無病息災を祈念するものもありますが、五穀豊穣祈願が多いようです。
夏の祭りは高温多湿のせいで、疫病が発生しやすい時期ですから疫病退散を願うものが結構あります。
また「二百十日」といわれる大風に見舞われるとともに、害虫が発生しやすい時期なので、せっかく成長した農作物が損なわれないようにする「風よけ」や「虫おくり」の意味が込められています。
そして秋祭りはズバリ収穫に感謝する目的が多いのが目立ちます。
昔は「米は88の手間がかかる」といわれていました。
水の管理や肥料、加えて大水や風、日照り、害虫対策等など。
特に自然現象は人の力が及びません。
一喜一憂しながら、苦労して育てた米が実って、収穫できるとなればこの上ない喜びです。だから先人は節目・節目ごとに祈り、感謝をささげてきたわけです。
日本は今でこそ「飽食の国」「美食の国」といわれていますが、多くの国の人と同じように、つい70年位前までは飢えとの戦いです。
今でも食べ物、飲み物に不自由して、恒常的栄養失調に陥っている人は、地球上には10億人近くいるのではといわれています。
古今東西「生きることは食べること」である以上、どこの国でも五穀豊穣を祈り、収穫に感謝する祭りは多いと思います。
ところで日本では昔から子どもは「神の子」といわれていました。
食べ物も貧しく、医学や科学とは無縁だったころ、子どもが生まれても、その子が無事に育つかどうかは神様のみが知るから、幼い子は神の領域だったわけですね。
稲作も天候次第で、常に自然との闘いです。
田植えをしても、豊作になるか?不作になるか?は人間にはわかりません。
豊作になれば、神様から食べ物を《賜った》ことになります。
だから「食べる」の語源は「賜る」からきた言葉とされています。
豊かな精神文化を有する和食ならではの美しい言葉です。