マナーうんちく話569≪泥より出でて、泥に染まらず≫
以前にも触れましたが、初秋の季語に「桐一葉」があります。
他の樹木より早く紅葉し、落葉する桐の葉が落ちる姿を見て、昔の人は秋の到来をいち早く察したとか・・・。
そういえば古今集に登場する藤原敏行の「秋きぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる」という詩がありますが、いつもと違う風の音でふと秋を感じた繊細な感性はさすがですね。
物理的には殆ど恵まれなかったいにしえの人は、豊かな自然が織りなすほんの些細な変化さえも、敏感にキャッチする能力を兼ね備えていたのでしょうか。
自然と真摯に向かい合って生きてきたからでしょう・・・。
そしてそれの最も大きな節目が「夏至」と「冬至」、加えて「春分の日」と「秋分の日」ではないでしょうか。
「夏至」は一年で最も昼が長く夜が短い日で、「冬至」は夜が長くて昼が短い日です。
さらに「春分の日」と「秋分の日」は太陽が真西から登り真東に沈み、昼と夜の長さが同じ長さになる日です。
今年も相変わらず厳しい残暑が続きましたが、さすが「秋分の日(9月23日)」を迎えるころには、朝夕めっきり涼しくなります。
また野山には「秋の七草」も咲き乱れるころになります。
黄色な可憐な小粒の花を咲かせる女郎花、万葉集で最も多く登場する花「萩」、お月見には欠かせない「すすき」等などが目を楽しませてくれます。
またこの時期、空の雲には変化が見られます。
小さな雲の破片が群れとなり、まるで魚の鱗のように見える「鱗雲」です。
果物にも恵まれる季節で、ブドウ、イチジク、栗、柿、ナシなどが旬を迎えます。
山からは「山のダイヤ」と呼ばれる「松茸」が届きます。
松茸はまさに日本のキノコの王様で、古くは万葉の時代から愛されていたとか・・・。
輸入品が多いようですが、香りが良い国産は鰻と同じでとにかく高価です。
このコラムでも《マツタケの土瓶蒸しの食べ方》に詳しく触れておりますが、だんだん縁が遠のくのが寂しいですね。
秋を代表する魚である「秋刀魚」も、今年は大漁の声が聞こえてきませんね。
こちらも寂しい思いです。
そして彼岸のスイーツといえば何といっても《半殺し》でしょう。
なんだか恐ろしいネーミングで、スイーツには相応しくないかもしれませんが、小豆がまだ半分くらい粒が残った「おはぎ」のことを「半殺し」と呼ぶ地域があります。
ちなみに、春の彼岸は春に咲く牡丹にちなんで「牡丹餅」と呼ばれますが、秋には萩が咲き乱れますので、その名をとって「おはぎ」と呼ばれます。
ではなぜ彼岸に牡丹餅やおはぎを食べるようになったのでしょうか?
諸説ありますが「先祖供養の目的」が有力です。
加えて、春は豊作を祈願し、秋には収穫に感謝するためのお供えしたとか・・・。
当時は米も小豆も甘味料もとても高貴な品です。
ご先祖様に色々なお願いや感謝の意をささげるのにふさわしいお供え物です。
先人の目に見えないものに対する、まさに「おもてなし」の表れだと思います。
「名月」には芋・栗・豆・秋の七草等をお月さまにお供えしますが、「彼岸」には当時は超高級食材であった小豆・米・甘味料で作った団子をご先祖様に備えます。
それだけ命に直結する《収穫》には敏感だったわけです。
日本には多くの年中行事が存在しますが、中でも正月と盆と彼岸は特別な行事です。先祖の思いをくみ取り、現在の生活に感謝する姿勢は大切にしたいですね。