マナーうんちく話509≪「女しぐさ」と「男しぐさ」≫
戦後間もない頃の日本人の平均寿命は、先進国の中で最下位クラスだったようですが、今はトップクラスになり名実ともに世界屈指の長寿国になりました。
長寿は人類永遠のテーマであり、それを世界に先駆けて達成できたことは誠に目出度いことです。
しかし長寿国は裏を返せば高齢者が多い社会です。
「和食のテーブルマナー」に本格的に取り組んで15年が経過しました。
和食のマナーですからほとんどの場合和室が舞台になります。
従って和食のマナーは単に箸の持ち方や器の扱い方のみならず、履き物の脱ぎ方、揃え方、入室の仕方、座り方、挨拶の仕方等も加味されます。
年中行事等の知識も必要です。
ところで和室の場合は正座になるわけですが、高齢者は膝が悪くなっている人も珍しくありません。
だからひと昔と異なり今では、畳の部屋でもテーブルに椅子といったスタイルも多くなっています。
とはいえ、畳の部屋での作法は日本の作法を象徴するものが多々あり、その精神や立ち居振る舞いは、ぜひ後世に伝えたいものばかりです。
美しい所作に加え、思いやりの心に満ち溢れているからです。
またコミュニケーションの第一歩である挨拶は、日本では立って行う「立礼」と、座って行う「座礼」がありますが、和室は基本的には座礼です。
まだ畳が開発されてなく部屋が板の間の時には「あぐら」が主流でしたが、畳の普及とともに正座が一般的になります。
そして明治維新以降、畳の部屋での正式な座り方は「正座」であると、維新政府が決めたいきさつがあります。
当時の人は平均寿命も短く、膝に支障が出るくらい生きた人も少なく、着物が主流でしたから、正座はできて当たり前です。
しかし今は西洋化が住居にも浸透し、正座に慣れていない人の方が多くなりましたが、正座には正座の良さがあり、それなりの意味があります。
マナーとは尊敬、感謝、思いやりの気持ちを具体的に表現することですが、正座には相手に対する敬意が込められています。
この相手とは、主に目上の人や上司ですが、神様・仏様の場合も多々あります。
仏前で正座するのはその典型です。
また「平伏する」意味や「かしこまる」意味もあります。
さらに自分が上位になった時でも、和室で正座している姿は、非常に凛として美しいもので、身も心も洗われます。
足腰が丈夫な人は、ぜひ30分くらいは正座ができるようになって欲しいものです。
さらに正座にともなう立ち居振る舞いまで身に付けて頂ければ鬼に金棒ですね。
テレビドラマで時代劇を見ていると、武士の立ち居振る舞いの美しさに感心します。
国際化とは不必要に西洋文化に翻弄されるのではなく、先ずは自国の文化や作法に精通し、それを正しく次世代に伝えるとともに、国際社会に発信することが大切だと考えます。
日本が半世紀足らずで世界屈指の長寿国になった原因は、食糧事情が良くなったこと、医療制度や技術が進歩したこと、健康への関心が高まったことがありますが、日本が平和な国であることが大きな要因をしめています。
日本の礼儀作法は平和な社会背景から生まれ、思いやりや敬意がベースになっている世界に誇る文化です。
中でも「座るマナー」は非常に美しいのが特徴です。
いつまでもたいせつにしたいものですね。