マナーうんちく話569≪泥より出でて、泥に染まらず≫
秋の語源は穀物や果物などの食べ物が飽きる程出回るから、「飽きる」が「秋」に転じたという説が有力ですが、早くも稲刈りが始まった地域もありますね。
そして秋の果物としておなじみのイチジクやブドウやナシが旬を迎えています。
イチジクは江戸時代に日本に伝わりましたが当初は薬用だったようですね。
実の中に咲かせる白い花は、外からは見えないので花のない果実、つまり「無花果」になったとか。
一方ナシは歴史が非常に古く弥生時代から食されていたという説もあります。
8月27日には鳥取の20世紀ナシの出果が始まったとの報道がありました。
また秋の果物を代表するブドウも最盛期を迎えようとしています。
ブドウには多くの品種があり、日本でも生食用のみならず、ワイン専用の品種も栽培されています。
さらに間もなく健康的な土が育んだイモ類やキノコ類が旬を迎えます。
食欲の秋といわれるだけあって、秋という響きは前向きになれる要素が多々あります。
そしてこの時期には日本人ならではの感性を楽しめるご馳走があります。
「虫の音」です。
チンチロリンと美しい鳴き声のマツムシの声は格別で、まさに優美という言葉がぴったりだと思います。
リーン、リーンとなく鈴虫もしかりですね。
いずれも秋に鳴く代表的な虫たちです。
あれ松虫が鳴いている
ちんちろちんちろ ちんちろりん
あれ鈴虫も鳴き出した
りんりんりんりん りいんりん
秋の夜長を鳴き通す
ああおもしろい 虫の声
とい唱歌を口ずさんだ頃が懐かしいですね。
しかし欧米人にはこの鳴き声を美しいと感じる感性はあまりないようです。
美しい虫の鳴き声を聞いて感傷に浸る文化は日本人独特のようで、まさに「音のご馳走」と言えるわけです。
ところで、平安貴族は美しく鳴いている虫を選んで、豪華に装飾を施したかごの中に入れて、その優美な鳴き声を楽しんでいたようで「虫撰(むしえらみ)」という名前がついています。
加えて「虫合わせ」といって、自分が飼っている鈴虫や松虫の鳴き声を互いに競い合う風流な遊びもあったようです。
どのような基準で優劣を競うのかよくわかりませんが、これくらいだったら私たちでもまねができそうな気がしますが、平安貴族ならではの奥深さがあります。
左右に分かれて、それぞれ虫にちなんだ歌を詠み、優劣を競う遊びです。
脱帽ですね。
そして江戸時代になると松虫や鈴虫を飼育し、販売する商売もあったとか・・・。
ちなみに、日本では人間がなく場合は「泣く」と表現し、人間以外の虫や動物がなくのことを「鳴く」と表現しています。
今ではすっかりなくなりましたが、秋は空気が鮮明になり、お月様がとても美しく見える時期で、「月の出」を楽しむ文化もあったようです。
昔は「日の出」とともに「月の出」も楽しみだったわけですね。
秋の夜長、月明かりの元、美しい虫の声を単に音としてではなく、声をして受け入れる風雅な文化は日本人ならではです。
この秋はお月見とともに虫の鳴き声もぜひお楽しみくださいね。
心が洗らわれます。