マナーうんちく話535≪五風十雨≫
梅雨のない北海道を除きすべての地方で梅雨が明け暑い日が続いていますが、こんな時期にふさわしい言葉に「暑気払い」があります。
漢字が示すように夏の暑さを払うという意味ですが、体にたまった熱気を取り除いて、弱ったエネルギーを回復させて元気を取り戻すことです。
古今東西暑さよけの方法はいろいろありますが、方法は時代の流れやライフスタイルにより変わります。
たとえば昔は「行水」がありました。
「川遊び」も誰でも気軽にできる方法でしょう。
加えて「冷たい飲み物や食べ物」、さらに「酒」や「薬」や「漢方薬」もあったようです。
今では、もっぱら暑気払いといえば「ビアガーデンでの飲み会」を思い浮かべる人も多いと思います。
暑気払いは「いつするか?」という問い合わせをいただくことがあります。
期間は厳密には定められてはいませんが、二十四節気の「小暑」から「大暑」の期間がおすすめです。ちょうど今頃ですね。
最近は残暑がとても厳しいので暑気払いは9月でもいいような気がしますが、今年は8月23日が二十四節気の一つ「処暑」で、一応暦の上では暑さが収まる日ですから参考にしていただくのもいいかも。
ところで暑気払いの食べ物は昔から「ウナギ」が相場ですが、とにかく効き目や味は別として高価です。毎日手軽というわけにはまいりません。
そこでお勧めなのがスーパーなどでも簡単に買える「甘酒」です。
日本では1000年の歴史がある貴重な栄養ドリンクですが、江戸時代には「夏の飲み物」として人気があったようです。
特に高温多湿な日本の夏には、麴から作る発酵食品の甘酒が適したのでしょうか。
当時の暑気払いの食べ物としては「鰻めし」「どじょう」「冷ややっこ」「そうめん」「ところてん」などが一般的だったようです。
ちなみに涼風を呼ぶ「冷やしそうめん」という食べ方が生まれたのも江戸時代からです。
これに加えて、夏の飲み物として「麦湯」と「甘酒」がお目見えします。
夏になると、ところてんと同じように行商の甘酒売りが江戸の町にやってきて、「甘い甘酒」と言って商売に精を出したそうです。
お椀一杯が150円前後で売られていたようで、生姜のしぼり汁を入れた甘酒が江戸時代の納涼として定着したのでしょう。
当時は医学が発達していませんので、冬の寒い時期より、酷暑の夏のほうが死者が多かったといわれています。
だから栄養豊富な甘酒は安価で手に入る、もってこいの暑気払いだったようですね。
「白雪」や「三国一」といった富士にちなんだネーミングも生まれ、すっかり季節の風物詩になったいきさつがあります。
それが最近健康ブームに押され復活しましたね。
医学や栄養学が進歩した今では「飲む点滴」とか「飲む美容液」と言われ、夏の飲み物として定着した感があります。
ちなみにこのコラムで6年位前に「甘酒は夏の季語」になっていることに触れましたが、当時は「えーそうなの」といって不思議がられた人が多かったことを記憶しています。
確かに甘酒は俳句の世界でも「夏の季語」にもなっていますが、寒い時期にもおいしいのはご承知のとおりです。
そして甘酒と同様「麦湯」も江戸時代には重宝されています。
ただし今のように冷たい麦茶としてではなく温かい麦湯として好まれたわけです。
理由は江戸時代の水は今のように衛生状態が良くないので温めたということです。
麦湯が暑気払いに効くといわれていたようですが、まさに江戸っ子の生活の知恵だったようです。「麦湯専門店」もあり、夏に浴衣姿の美しい女性が接客したようで、これがまた大きな人気を得たようです。
日本における接客業の元祖かもしれませんね。