マナーうんちく話453≪冬来りなば春遠からじ≫
梅が熟する頃に降る長雨の事を「梅雨」と表現しますが、菜の花が咲く頃に降る雨は「菜種梅雨」といいます。
春雨に打たれながらも、幸せ色の黄色がしっかり映える「アブラナ」、つまり菜の花もまた格別ですね。
ちなみに昔は「な」といえばご飯の「おかず」を意味する言葉です。
「おかず」は現在でも使用されますが、もとは宮中に奉公する女性が使っていた言葉で、優美で上品な言葉とされていますが、「おかず」はその代表格で、「数が多い」からこのように呼ばれたという説が有ります。
ごはんのおかずは昔から数が多かったわけですね。
また菜の花は、「菜種油」と呼ばれる良質な油がとれるので、昔から重宝されています。観賞用としても、食用としても、さらに油までとれるとなれば此れはとても貴重品で、沢山歌に詠まれているのも頷けます。
梅に鶯、紅葉に鹿がお似合いのように菜の花には蝶ですが、中国では菜の花が蝶になる伝説があるとか・・・。
ところで、なの花を「おかず」にしてきた日本の「和食」が、世界中において大変人気のようですが、どこにその原因があるのでしょうか。
農林水産省の調査では世界各国には日本食の店が約88000店あるそうですが、すごい勢いで増えている気がします。
江戸中期には濃い口醤油やみりんが発明されたおかげで、今の和食の原型が確立されたと言われていますが、恐らく江戸の人も旬を大切にしたグルメ志向であったと思います。
さらに最近では「ミシュランガイド」が東京、そして京都や神戸や大阪の食文化を高く評価したことも大きな要因でしょう。
国連教育科学文化機関である「ユネスコ」の無形文化遺産への登録が追い打ちをかけたのもご承知の通りです。
特に和食は何十年ものキャリアが要求される専門性を有しており、しかもその数が多いことは他国では例のないことでしょう。
加えてその技術が何代も継承されているのも素晴らしいことです。
これに日本を訪れる外国人が増加したことも、和食が世界に普及した大きな理由でしょう。
そしてとくに注目したい点は、これらの背景には自然を大切にして、食と真摯な態度で向かい合い、食へのこだわりと共に日本人の手先の器用さも功を奏していると思います。
忘れてはいけないことがまだあります。
何よりも和食には豊かな「精神文化」が含まれていることが大きいと思います。
正月や節句や祭りなど年中行事との関わりもしかりでしょう。
食事の前後に「いただきます」「ごちそうさま」と感謝の言葉が発せられますが、このような文化が和食の礎を築いてきたことは間違いなさそうですね。
しかしユネスコやミシュランガイドは和食を絶賛していますが、肝心な日本では和食の精神文化はもはや衰退の一途をたどっています。
マナー講座や講演の時よく質問しますが、往々にして知識が乏しいと感じます。子どものみならず大人のご飯の食べ方も気になります。
日本人がかつて隆盛を極めた和食の精神文化を復活させ、身も心も美しい国が蘇ってほしいものです。