マナーうんちく話569≪泥より出でて、泥に染まらず≫
《野分のまたの日こそ いみじうあわれにをかしけれ》 清少納言
厳しい残暑の中に到来した大型台風10号。
8月31日は雑節のひとつ「二百十日」、つまり立春から数えて二百十日目で、昔から台風がやってくる日とされています。
農家にとっては三大厄日のひとつですが、もともと稲の収穫期の頃ですから、「台風に注意して下さい」と暦の上で呼びかけたのが二百十日です。
今は科学の力で台風を予報出来るようになりましたので、被害を最小限に抑えることが出来ますが、回避することはできません。
昔はなおさらです。
だから無事を祈る行事が各地で盛大に行われたわけですね。
ちなみに、昔は台風に伴う暴風を「野分(のわき)」と呼んでいましたが、枕草子にも記されています。
冒頭の句は「野分の吹き荒れた翌日は胸にしみじみと感じるものが有る」という意味でしょうか、今回の台風10号のもたらした影響はあまりにもひどいものですね。
9月1日は、台風の襲来が多いとされる二百十日に備え災害への備えを説いた「防災の日」ですが、備えのみならず温暖化防止など、自然との共生も真剣に考える必要がありそうですね。
甚大な被害に遭われた方々には心よりお見舞いを申し上げます。
そして一日も早い復興を心よりお祈りいたします。
ところで厳しい暑さが残っていても、気持の上では季節は移り変わる頃です。
体の色が赤いトンボのことを「赤とんぼ」と言いますが、赤トンボの赤は秋の到来を色で感じさせてくれます。
山田耕作作曲の赤トンボの歌が懐かしいですね。
そして夜が更けると、松虫や鈴虫が美しい鳴き声を響かせて秋を演出してくれます。
虫の鳴き声を聞いて「美しい」と感じる日本人の感性は誠に素晴らしいと思いますが、平安貴族は鳴く虫をかごに入れて鳴き声を競ったとか・・・。
恐らく日本独特の文化ではないでしょうか。
そして江戸時代には「虫売り」の商売が出来上がったようです。
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さらに秋は果物がおいしい季節です。
既にブドウやナシやイチジクがお目見えしていますが、イチジクは「無花果」と漢字で書かれるように、花が無い果実と思われていたようです。また、アダムとイブが付けていた「腰ミノ」は無花果の葉だといわれています。
そして日本人の主食である稲が実る頃でもあります。
日本に稲作が伝わったのが約6000年前だと言われていますが、以後日本人と米は切っても切れない関係になりました。
《実るほど首を垂れる稲穂かな》という慣用句が有ります。
稲が実ってくるとその重みで稲穂が垂れてしまいますが、それと同じように「人間も偉くなればなるほど謙虚になりなさい」という戒めです。
黄金色に色づいて、しなやかに垂れる稲穂は、まさに農家の一年間の努力のたまものです。
米という漢字を分解すれば「八十八」になりますが、まさに米作りには88の手間暇がかかっているわけです。
「勿体ない精神」もここからきているのでしょうか・・・。
稲穂が垂れるということはその苦労が実ったということで、それを満足げに眺めながら先人はこの言葉をつくったのでしょうね。
政治家も実業家も学者も肝に銘じてほしいものです。