マナーうんちく話453≪冬来りなば春遠からじ≫
夏の残照が次第に遠のき、風や虫の音、そして草花の色づきに秋の気配が一段と強くなった気がしませんか。
そういえば、空が高くなり、鰯雲やうろこ雲が頻繁に見られるようになりましたね。
9月20日は「彼岸入り」ですが、彼岸花が咲き誇っています。
空に向かって真っ赤な花を咲かせるので「マンジュシャゲ」とも言われますが、実はその根は、飢饉の時の大切な非常食でした。
また、この時期に赤い花を咲かせる「鶏頭(けいとう)」の存在も強烈です。
雄鶏のとさかにそっくりだから「鶏頭」の名前が付けられましたが、マンジュシャゲと同様、良く知られた花ですね。
無花果、梨も旬を迎え、食欲の秋に一役買っています。
松茸の声もそろそろ聞かれる頃ですね。
香りの素晴らしさは万葉集にも登場する位で、これほど古くから多くの日本人に好まれた茸はないのでしょうか。
料亭などでは、ひとあし早くから季節の味覚を取り入れますが「松茸の土瓶蒸し」を食す時は、「マナーうんちく話606《松茸と土瓶蒸しの食べ方》」を参考にして下さい。
また、茄子がさらに美味しくなる頃です。
我が家でも栽培していますが、この時期のナスビはお世辞抜きで味が良くなります。
「秋ナスは嫁に食わすな」と言う諺がありますが、これは嫁いびりではなく、可愛い嫁に対する思いやりの言葉です。
夏に収穫されるので「夏美(なつみ)」が「なすび」になったと言う説があり、確かに美味なのですが、夏野菜ですから体を冷やします。
従って、嫁が茄子をたくさん食べて体を冷やしたら、子宝に影響を及ぼすから、くれぐれも気をつけて下さいと言う意味があります。
そして燕が南の国に帰っていく頃です。
春先に訪れた、縁起のいい渡り鳥と半年ほどのお別れです。
来年の春になると、また同じ巣に元気良く帰ってくるわけですが、なぜ同じ巣を覚えているのかは謎です。
燕が帰ると同時に「鶺鴒(せきれい)」がチチィと鳴き始めます。
恋の季節を迎えたと言うことですね。
イザナギの神とイザナミの神が結婚しますが、これからどうすればいいのか解りません。そこにほっそりして尾が長い鶺鴒がやって来て交尾をして、契りの結び方を教えたということが、日本書紀に記載されているそうです。
だから鶺鴒は「恋教え鳥」と呼ばれ、婚礼の時にも縁起物として重宝されるようになりました。
つがいになると本当に仲が良いそうですよ。
ちなみに「番(つがい)」とは、継ぎ合うと言う意味を有し、二つのものが組み合わさって一組になることで、「つがいの鳥」は仲睦ましい夫婦の象徴になっています。
涼やかな風、雲ひとつない青空の下で、周囲には秋を彩る花が咲き、ナシやブドウやイチジクが実るのが、ごく当たり前の暮らしをしていると、多くの人々から素晴らしい所にお住まいですねと声をかけて頂きます。
置かれた環境の素晴らしい数々の恵みを謙虚に受け止め、改めて感謝の気持ちで過ごしたいものです。