マナーうんちく話682《同じ釜の飯を食う》

平松幹夫

平松幹夫

テーマ:人間関係を良好にするマナー

「和食 日本人の伝統文化」が世界無形文化遺産に登録されたこともあり、各地で「和の礼儀作法及び和食のテーブルマナー講座」を開催しておりますが、これに関する講演依頼も今年になりかなり増加傾向にあります。

関心が高まっている事でしょうか。
この機会に、日本が世界に誇る和の礼儀作法や和食を正しく身に付け、益々素敵に輝いて頂ければ嬉しい限りです。

それにしても、日本には素晴らしい食文化やそれに関する精神文化、及び礼儀作法や言葉が沢山存在するのに、日本人自身がその価値を理解しないで、外国人が評価することで、その素晴らしさを気付かされることが多々あります。

例えば「もったいない」と言う言葉。
ケニアの環境副大臣マータイ博士が来日された時、この言葉に感銘を受け、国連で演説された事は有名です。

さらにミシュランガイドは、和食とその精神文化を褒め称えていますが、日本では次第に薄れつつある感がしてなりません。

何より由々しき状態は「日本の食料自給率の低さ」ではないでしょうか?
39%と先進国の中では最下位で、今後増加する気配もありません。

日本は稲作文化で栄えた国ですが、近年日本人は本当に米を食べなくなりましたね。洋食の浸透や農業政策等色々な要因は考えられますが、日本人なら、日本で栽培したコメを食べるのが本来の姿ではないかと思うわけです。

確かに今、日本は世界一の「飽食の国」「美食の国」になり、戦後間もない頃に比較して栄養状態も格段によくなり、加えて医療制度や医療水準が高くなったおかげで、世界屈指の長寿国になっています。

反面、「孤独死」「無縁社会」「無縁仏」等と言う言葉がまかり通るようになり、家族、親族、地域の絆は希薄化の一途をたどっているのが現状です。

明確な因果関係は解りませんが、コメ離れと関係があるような気がしてなりません。

日本には昔から「同じ釜の飯を食う」と言う美しい言葉が存在します。
「一つ釜の飯を食う」とか「一つ鍋の物を食う」とも言われます。

一つの釜で炊いたご飯を共に食べると言う意味ですが、生活を共にしたり、同じ職場で働いたりして、辛いことや悲しい事や嬉しい事を分かち合った親しい間柄のたとえです。但し、遊び仲間には使用しません。

日本は神様(神道)仏様(仏教)の国ですから、昔から日本人は神様と共食し、家族や地域の人と共食して絆を深めてきたわけですね。

そんな中で、世界が認めた日本の食文化は育まれたわけです。
だから、現在の日本人は日本の食文化の原点に立ち返り、和食とそれに伴う年中行事や精神文化の素晴らしさを再発見し、家族、地域、職場の絆を深めていかなくてはなりません。

人が死んだら、死後ただちに故人の枕元にお供えするご飯を、「枕飯」とか「一膳めし」と言います。

死者の分だけのご飯を焚き、そのご飯を余すことなく故人が使用していた茶碗に高盛に注ぎ、2本の箸を垂直に立て枕許に供えます。

その同じ釜で食べた飯を食べたら、使者と共にあの世に行ってしまうと言われていたわけです。だから同じ釜の飯を食うと、一心同体で、運命をも共有するくらい強い絆で結ばれると言う意味で使用されます。

そういえば、嫁入りの時の、家族での別れの食事は一膳飯が習わしであったようです。そして、西洋には「to drink op the same cup」(同じ杯で飲む)と言う諺があります。

西洋には西洋の、日本には日本の食文化があります。いずれにせよ、自国の食文化は生きていく上の基本です。大切にしたいものですね。

和食の精神文化は、知れば知るほど奥が深く、より良く生きる知恵が凝縮されています。「英語よりは先ずこの事を理解すべき」と言うのが私の持論です。



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平松幹夫
専門家

平松幹夫(マナー講師)

人づくり・まちづくり・未来づくりプロジェクト ハッピーライフ創造塾

「マルチマナー講師」と「生きがいづくりのプロ」という二本柱の講演で大活躍。「心の豊かさ」を理念に、実践に即応した講演・講座・コラムを通じ、感動・感激・喜びを提供。豊かでハッピーな人生に好転させます。

平松幹夫プロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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