マナーうんちく話569≪泥より出でて、泥に染まらず≫
暑い日が続いておりますが、いかかお過ごしでしょうか?
様々な方法で涼をとられていると思いますが、何もかも豊かで便利な時代になりましたので、昔ほど寝苦しくなくなりましたね。
四季が明確に分かれている日本では、冬の寒さと夏の暑さをできる限り快適に過ごすために、先人は色々な工夫をしてきました。
今回は、暑い夏を気分的に涼しくするための「風鈴」に触れてみます。
風鈴は涼を、「音」と「見た目」からとる、粋な「夏の風物詩」です。
日本人は、風を音や色に変えて、その風情を楽しんだわけですね。
いまでも、チリンと鳴る風鈴の音を聞くと、暑さで疲れた心が和らぐ気がしますが、実はその起源は大変古く、日本の風流な小道具とはほど遠く、中国において、竹林につるして、音の成り方で、吉凶を占う道具だったそうです。
日本には仏教と共に伝来し、貴族階級が屋敷の縁側につるしておき、外部から入ってくる、疫病神の侵入を防いだと言われております。
要は、魔よけのための道具が、時代と共に、それが醸し出す心地良い音に、夏の涼を感じる物へと変化したわけですね。
そういえば、太鼓や笛のように、音が出る物の歴史は大変古く、そしてその役目も、動物や疫病を遠ざけるとともに、同時に動物や神様に近かずいて頂くものでも有ったわけですね。
例えばお宮参りする時には、先ずお賽銭を納め、次に鈴を鳴らしますが、この鈴の役目もそうですね。
ちなみに、以前「扇子」を取り上げましたが、これは自分の手で風を送る道具ですが、単に風を起こすためだけでなく、昔は邪気を払うためにもあおいだわけですね。
今でも冠婚葬祭時に扇子を用いますが、その理由は、その辺に有るようですね。
もっとも、結婚式等で使用する扇子は「末広」と呼ばれ、「末長く良縁が続きますように」との意味を込めています。
従ってこの場合は、仰げば仰ぐほど幸を呼ぶわけです。
余談事ですが、女性は金や銀の扇子を持ち、男性は白扇になります。
そして、江戸時代に入ると「ガラス製の風鈴」が登場します。
当時はガラス自体が非常に珍しい時代ですから、値段も数百万円位したとか・・・。
やがて、明治になると、一般庶民にも手に入る値段に落ち着くわけで、様々な素材からできた風鈴は、暑さから来る不快感やイライラ感を癒してくれる、風流な小道具になったわけですね。
しかし、「匂い」もそうですが、「音の感受性」には個人差が有ります。
少なくとも私には、風鈴の音は、小鳥のさえずりや、小川のせせらぎのように、聞いてとても心地良いものですが、育った環境が全く異なる、現代の若者や外人は、必ずしも心地良い音には聞こえないかもしれません。
個人的には、風鈴のような心地よい音が、雑音にしか聞こえないのは、寂しい限りだと思うわけですが、松茸の臭いがたまらないほど好きな人もいれば、嫌な人もいるのと同じ理屈ですね。
マナーには「不易流行的な側面」が有ります。
加えて、その国々の文化や気候風土や宗教により表現方法が異なります。
子どもの頃から、電気で作られた音で育った若者、あるいは自然と調和する習慣の無い外国人には、風鈴の良さを理解するのは難しいかもしれませんね。
また、これだけ猛暑が続く頃にあって、扇風機やクーラーの果たすべき役割は多大な物が有りますし、風鈴の音では熱中症の予防にはなりません。
それでも、風鈴は、日本の夏を豊かに彩る風物詩として、いつまでも日本人の心に美しく鳴り響いて欲しいものです。