マナーうんちく話516≪袖触れ合うも多生の縁≫
日本では「春は嵐と共にやってくる」と言われますが、中国では「春風が狂うのは虎に似たり」と言われ、さらにヨーロッパでは「3月はライオンのようにやってきて、羊のように去っていく」と言う諺が有ります。
また、色々な説が有りますが、一般的に男性は「女心と秋の空」、女性は「男心と春の空」と形容するように、秋の天気も変わり易いですが、春の天気も変わり易いのが特徴です。
荒れる天気と変わる天気には、くれぐれもご用心くださいね。
しかし、天気がコロコロ変わるのは自然現象ですから致し方ないけど、人の心が度々変わるようであれば、やはり気になります。
特に、一度発した言葉には、出来る限り責任をもちたいものです。
ところで、幼い時に、親子や友達同士で交わした経験をお持ちの方も多いと思いますが、「指切りげんまん」の歌をご存知でしょうか?
「指切りげんまん 嘘ついたら針千本飲ます・・・。」ですね。
家庭・地域・学校・職場等において、信頼関係はとても大切ですが、そのためには約束は守らなくてはいけません。
江戸しぐさは「相互扶助」と「共生」を基本理念とし、不要な争い事を避け、互いに幸せになるためのルールですから、特に約束を守ることに重きをおいています。
今のように契約書を交わすようなことではなく、口約束が主流で、証拠が有るわけではないですが、どんな小さな約束でも、「約束は約束」として大事にしたようです。
約束を破ると言うことは、信用不振に繋がるのでご法度だったわけですね。
ちなみに、「指切りげんまん 嘘付いたら針千本飲ます」の後には、まだ続きが有ります。
この後には「死んだら御免」という文句が加わり、指を切ります。
つまり、「指切りげんまん 嘘付いたら針千本飲ます 指切った」となるわけです。勿論実際に指を切るのではなく、切ったふりをして意気込みを見せるわけですね。
もう少し注釈を加えると、「げんまん」とは「拳万」で、拳骨(ゲンコツ)一万回と言う意味です。
「約束を破ったら拳骨を一万回くらわすぞ、針を先本飲ますぞ」と言う強烈な意味です。
そして、「指を切る」と言う表現は、遊女から出たと言う説が有力です。
当時遊女は客引きのため、度々言葉巧みに嘘をついて客を誘ったので、いざという時には信用してもらえません。
そこで、相手に誠意を示すために指を切ったと言うのが有力ですが、遊女に限らず、戦国の武将たちも信頼の証として指を切ったと言われております。
そういえば、忠臣蔵にも血判状が登場しましたね。
当時の人が、いかに約束を守る事を大切にしていたかが、容易に想像できます。
それでも、人間、いつ、何が起こるか解りません。
何かの拍子で約束が守れないことが有ります。
死んだらそれまでです。
だから、「一度交わした約束は、死なない限りは固く守る」、言いかえれば「約束が守れなかったら死んでお詫びする」と言う意味を込めて、このように歌にして、大人が子どもに解り易く教えたのでしょうね。
当時の人の誠実さや真面目さがヒシヒシと伝わってくる気がしませんか?
非常に荒々しいけど、ライオンやトラのような威厳を感じる言葉でもあります。
今、選挙のたびにマニフェストという「政権公約」「選挙公約集」が注目を浴びますが、格好いい言葉を並べるより、この言葉の重みをしっかり受け止めて頂き、「有言実行」であってほしいものですね。
「指切りげんまん、嘘付いたら針千本飲ます 死んだら御免 指切った」。
現代は、子どもより、上に立つ人ほど噛みしめて欲しい言葉です。