公認心理師や臨床心理士養成大学院の受験でなぜ英語が必要なのですか?
1. 社会人が英語を学ぶ意義
社会人が臨床心理士指定大学院などの進学を目指す際、最も大きなハードルの一つが英語です。受験における英語は、単なる教養科目ではなく、専門性の土台を築く基礎学力として位置づけられています。臨床心理学をはじめとする心理学の領域では、学問の発展が英語圏主導で行われてきたため、現在でも研究論文や最新知見の多くが英語で発表されています。英語が読めなければ、現代的な心理学の潮流から取り残されることになります。
このような背景から、
大学院の先生方が求めているのは、いわゆる「心理英語」ができるかというよりも、まずは「普通の英語が読めるかどうか」です。この「普通の英語」とは、専門用語の暗記ではなく、英文構造を理解し、文脈を追える力を指します。つまり、研究論文の要点や論理構造を把握できる力が、大学院入試では問われています。
2. 社会人の英語学習における課題
社会人の多くは英語に対して苦手意識を抱えています。英語ができる人はもともと得意だったのではないか、自分には無理だと考えてしまう傾向も強いです。しかし、それは思い込みかなと思います。多くの社会人は中学・高校時代にある程度の英語教育を受けており、完全な初心者ではないですが、むしろ問題なのは、「知っているけれど使えない」という状態です。
特に重要なのは、誤った勉強法の修正です。単語帳を暗記し続ける、訳語を辞書的に覚えるだけといった学習法では、実際の英文読解力は向上しにくいと言えます。また、「わからない単語があると読めない」「とにかく訳そうとする」といった姿勢は、英語を日本語的に処理しようとする癖を強め、読解力を阻害します。これらの学習の壁を乗り越えるには、正しい「フォーム」を身につけることが何よりも大切です。
3. 社会人に適した英語学習法
英語学習には段階的なアプローチが必要である。京都コムニタスでは次のような段階を踏んだ学習法を推奨しています。
① 文法習得
まず最優先は文法力です。特に第五文型(SVOC)までを確実に理解し、文構造を瞬時に把握できるようになることが重要です。特に日本人にとって難関となるのは「目的語」の認識であり、目的語が見えなければ補語もわからない。この段階では、「主語+動詞」「前から読む」「バック読みをしない」といった読み方の再訓練が必要です。
② 文構造・文脈理解のトレーニング
単語や文法を学ぶのは目的ではなく、英文の意味をつかむための手段です。したがって、実際の英文を使いながら、主語・動詞の見分け、補語・目的語の機能、接続詞や分詞構文などの働きを理解する必要です。また、"for example" や "first, second" などの文脈の目印を活用することで、文章の構造的理解も進みます。
③ 音読と多読
多くの社会人が見落としがちなのが音読の効用です。英語を「声に出して前から読む」ことで、英語のリズムと構造に慣れ、自然と意味が取れるようになります。1日30分の音読や、長文の反復学習を通して、英文に対する身体的な馴染みを形成することが大切です。
おすすめ教材としては、Z会の『速読英単語 必修編』など、長文が豊富で文脈付きのものが効果的である。最近第8版がでました。長文が半分以上改編されて、71になりました。これを1周、できれば3周程度繰り返すことで、単語・文法・文脈の3つを同時に鍛えることができます。
④ 実戦的訓練
文法・語彙・文脈の基礎が固まってきたら、ようやく過去問などの実戦的な英文に触れる段階に入ります。心理学の論文を題材とする問題では、問題設定、仮説、調査結果などの要点を正確に読み取る訓練が必要です。ここでは、ただ訳すのではなく「何が主張されているのか」「その根拠は何か」といった読み取りが求められます。
4. なぜ心理系大学院では英語が問われるのか
心理系大学院で英語が問われるのは、心理学は欧米発祥の学問であり、学会発表や論文執筆も英語で行うことが主流です。教員側の期待も、「英語が読める学生=論文が読め、研究の質が上がる学生」と言えると思います。
また、英語ができるかどうかで、入試の選択肢そのものが変わってくる。英語を課す大学院の方が多く、仮に英語を課さない大学院であっても、その分専門科目や面接の比重が高くなるため、英語を避けることが必ずしも有利とは言えない。むしろ英語が得点源になれば、合格可能性は大きく広がります。
5. 英語を学び直す社会人へ
英語を社会人が学び直すことは、単なる受験対策を超えた意味を持ちます。現代の情報社会において、英語を使えることは世界へのアクセス権を持つことでもあります。専門分野で最先端の知見に触れ、自らの視野を広げることは、学術の場にとどまらず、キャリアや自己実現にも直結します。英語学習は「気合いと根性」で乗り切るべきものではありません。正しい方法を見つけ、適切な訓練を継続すれば、誰もが確実に力をつけることができます。京都コムニタスでは、一人ひとりの現状に合わせてコーチングを行い、丁寧な読み合わせを通じて着実な成長ができるようにしています。
社会人だからこそ、目的意識をもって取り組める学習があります。受験を一つの通過点として、今後の人生を切り開く力として、英語を味方につけることで、あなたも英語が武器となります。
6. 社会人の英語学習で失敗しないために
社会人が英語学習を再開する際に最も陥りやすいのは、「学生時代の延長」のように取り組んでしまうことです。つまり、単語帳を端から暗記する、ひたすら訳す、といった、成果の見えにくい勉強法に固執してしまうのです。特に受験が目的の場合、努力がそのまま点数に結びつかないと不安や焦りが募ります。しかし、英語は一朝一夕で身につくものではなく、正しい「読み方」の習得と、継続的なトレーニングの積み重ねこそが最も確実な道です。
例えば、難解な単語にこだわるよりも、"that"や"those"などの基本語を文法・文脈の中で正確に使えるようにすることの方が、はるかに重要です。
有名なthat5と言われる文があります。
I think that that that that that boy wrote is wrong.
「私は、あの男の子が書いたあのthatは間違っていると思う」
この訳と文章構造が瞬時に見抜けた方が点数になります。
これは、学習の深さと精度の話です。むしろ「知らない単語」よりも、「見たことはあるが意味があやふやな単語」の使いこなしこそが、合否の分かれ目になるといっても過言ではありません。
7. 学習を「継続」するための工夫
社会人が勉強を継続できない理由の1つに、成果が感じられないことにあります。だからこそ、「毎日英語に触れること」を最優先に設定することが必要です。英語学習は筋トレや楽器練習と同じで、空白期間があるとすぐに感覚が鈍ります。一方で、毎日少しずつでも触れていれば、着実に慣れていくことができます。
その継続のためには、「量」よりもまず「習慣」が大切です。たとえば、通勤時間に音読する、決まった時間に英語の長文を1本読む、気に入ったフレーズを書き写すなど、生活の中に英語のリズムを組み込むことが効果的です。学習記録をつけることもモチベーション維持につながります。
合い言葉は「覚えようと思ったら繰り返そう」です
さらに、学習の「意味」を見失わないことが大切です。自分はなぜ英語を学んでいるのか。受験のためだけでなく、研究や仕事、あるいは生涯学び続けるための武器としての英語。その目的を明確にしておくことで、学習の意義がぶれなくなります。
8. 受験英語は“基礎”としての意味がある
最後に、誤解されやすい「受験英語」の位置づけについて触れておきたいと思います。受験英語は、実社会で即通用する英語力ではないかもしれません。しかし、それは車の教習所のようなもので、まずは基本動作を身につけるために存在します。受験英語で文法・構文・読解の基礎を固めた人は、その後、実践的な英語を身につける土台が確実にできています。
重要なのは、受験英語を「最終目標」にしないことです。それはあくまで「スタート地点」であり、その後の読解力、表現力、理解力の成長にどうつなげるかが問われるのです。受験を機に再び英語に触れることは、社会人にとって大きな財産になります。



