家族のコミュニケーション不足の原因の70%は住環境が原因
落書きは、消しても戻ってきます。
建築士事務所をやっていた頃、クライアントの方から相談を受けたことがあります。自宅の塀に、スプレーで落書きをされる。消しても、また書かれる。その繰り返しで困っておられました。
それまでは、落書きされた部分だけを塗り直していました。当然の対応です。汚れたところを直すのだから、それ以上のことをする理由がありません。
落書きは一度や二度ではありません。塗り直すたびに、数日から数週間で同じ場所に書かれていました。塗料代も手間も、そのたびにかかります。
それでも落書きは止まりませんでした。
現場を見に行って気づいたのは、塀の色がまだらになっていたことでした。直した部分だけが新しく、周りは古い。遠目には、補修の跡が模様のように見えました。
私がお願いしたのは、部分ではなく、塀の全面をきれいに塗り直すことでした。
反対されました。消しても止まらなかったのに、全部塗ってどうなるのか。費用も余分にかかります。その場では納得されませんでした。
私は、もし塗り直したあとにまた落書きされたら費用の半分は私が持つ、と申し上げました。そこまで言うならと、塀の全面を塗り替えることになりました。
結果は、その日からです。落書きは、ぴたりとなくなりました。
からくりは単純です。きれいなところを汚すのは、意外に勇気がいるのです。
部分的に塗り直した塀は、近くで見れば直っていても、全体としては「すでに汚れている場所」に見えます。汚れているところに一筆足すのは、ためらいが要りません。ところが全面がまっさらだと、最初の一筆を入れる人がいなくなります。
同じことが、家の中でも起きています。
部屋全体が散らかっていると、そこにもう一つ何かを置いても、状態は変わりません。置いた本人も気になりません。だから片付けても、数日でもとに戻ります。散らかった状態のほうが、次の行動を呼んでいるからです。
設計の相談でうかがうお宅でも同じです。片付かないと言われる家には、きれいな面が一つもありません。どこを見ても何かが置いてある。基準になる状態が、家の中に残っていないのです。
反対に、一度きちんときれいになった場所は、そこだけ汚しにくくなります。何かを置きかけて、手が止まる。気づけば、その場所だけは片付けている自分がいます。
ここから、実際の進め方をお伝えします。
全部を一度に片付けようとしないでください。家じゅうを片付けようとすると、途中で力尽きます。そして中途半端にきれいな状態が残り、それがまた散らかる呼び水になります。
選ぶときの条件は2つです。毎日必ず目に入ること。5分で片付く広さであること。広い場所を選ぶと、最初の1回で力尽きます。
選ぶのは1か所だけです。一番長くいる部屋の、一番目につくところ。ダイニングテーブルの上でも、珄関の靴箱の上でも構いません。そこだけを、完璧にきれいにします。
そして翌日から、その同じ場所だけを整えます。他の場所には手を出しません。1か所がきれいな状態で保たれると、その隣が気になってきます。範囲は、あとから自然に広がります。
もうひとつ、片付けるときのお願いがあります。
手を動かす前に考えないことです。後で使うかもしれない、思い出がある、高かったから。考え出すと、手が止まります。何年も使っていないものは、たいてい必要のないものです。
片付けは、意志の強さではなく順番の問題です。順番を間違えると、どれだけ根気があっても続きません。
今日は、机の上だけで十分です。そこが明日もきれいだったら、それがもう習慣の始まりです。


