理想の家は建築専門家だけではできない!
片付けても、1週間で元に戻る。スーパーで買い物をしているとき、手に取った商品を棚に戻すことがあります。あのとき、どこに戻すか考えている人はいません。取った場所へ、ほとんど無意識に返している。
人は、元の場所に戻すという行為が苦手なわけではありません。店の棚では正確にできています。家でできなくなるのは、そのモノに戻る場所が決まっていないからです。
私の母は、一人暮らしのときに認知症になりました。部屋を訪ねると、出したモノがそのまま置かれていて、床にも机にも散らばっていました。判断する力が落ちると、定位置のない家はあっという間に破綻します。裏を返せば、定位置さえ決まっていれば、判断しなくても片付くということです。
工場や病院では、これを仕組みにしています。工具も器具も、置く場所がひとつに決まっていて、形の跡がついた棚に返す。目的は作業効率だと思われがちですが、本当の狙いは事故を防ぐことです。どこに戻すかをいちいち考えていると、脳に負荷がかかる。その負荷が判断ミスを生みます。だから、考えなくても手が動く流れを、意図してつくっている。
住まいにも、同じ設計ができます。収納を増やす前に決めることがあります。どこで何をしているか、です。郵便物をどこで開けるか。爪切りをどこで使うか。上着をどこで脱ぐか。使う場所としまう場所が離れているモノは、必ず出しっぱなしになります。
新築やリフォームの打合せで私が確かめるのも、収納の量ではなく、この動きのほうです。図面に「納戸」と書いてあっても、そこに何をしまうかが決まっていなければ、数年で物置になります。面積は足りているのに片付かない家は、たいていここでつまずいています。
収納の中身まで決めておくと、図面の見え方が変わります。この棚には季節の家電、この引き出しには書類、と書き込んでいく。すると必ず、行き先の決まらないモノが出てきます。その量が、そのまま増やすべき収納の量です。先に面積を決めてあとから詰め込む順番だと、この計算ができません。
今の家でやるなら、いちばん散らかる場所からではなく、いちばん頻繁に手に取るモノから決めてください。鍵、眼鏡、リモコン、印鑑。1日に何度も使うモノほど、定位置がないと家じゅうを移動します。
決めるときのコツは、しまいやすさではなく、戻しやすさで選ぶことです。扉を開けて、箱の蓋を取って、奥に入れる。この手数が3つを超えると、人は戻さなくなります。ワンアクションで返せる場所に置いてください。見た目は少し悪くなりますが、片付いた状態は続きます。
この性質は、逆にも使えます。私は自宅に帰ると、机の上にあるリモコンに手が伸びて、そのままテレビをつけていました。見たい番組があったわけではありません。手の届くところにリモコンがあったからです。
そこで、リモコンを手が届かない場所へ移しました。それだけで、帰ってすぐテレビをつける習慣はなくなりました。我慢したわけでも、決意したわけでもありません。手数をひとつ増やしただけです。
定位置は、片付けの道具であると同時に、習慣を決めている装置でもあります。戻してほしいモノは手数を減らして手前に。手を伸ばしてほしくないモノは手数を増やして遠くに。家の中の置き場所は、それだけで人の行動を変えます。
だからこの作業は、家族の誰かひとりではできません。使う人が決めないと、その人は戻さないからです。「何度言っても戻さない」という不満は相手の性格の話になりがちですが、戻す場所が決まっていなければ、言われた側は動きようがありません。人を変える前に、場所を決める。順番はこちらが先です。
決めるときは、家族が集まっている時間に、声に出しながらやってください。「これはどこに置きたい?」と聞くだけで構いません。次の休みに、鍵ひとつだけ決めてみてください。玄関のどこに置くか、家族全員で。それが1週間続いたら、その家は片付く家です。


