日本人体型?―サイジングにおけるおじさんの悩み―
提案していたのはライフスタイル
昔「VAN」という主として男性ファッションを展開する大きなアパレル企業があった。団塊の世代、或いはその前後の世代には忘れられないブランドであろう。また同社には、その兄貴分に「Kent」というブランドもあった。
「VAN」は、昭和の時代、日本のメンズファッションを代表する大アパレルメーカーだったのだ。まあ「だった」という過去形を使うのは実は間違っている。両ブランドとも今もちゃんと生きているからである。
ただ、一度倒産の憂き目を見て、大幅にその企業規模は縮小された。かつての大ブランドのイメージから行けばどうしても過去形の表現になるのである。
VANは石津謙介氏が創設し、昭和30年代から50年代にかけて、日本のメンズファッション界を席巻した。その人気、ブランド力、若い人に与えた影響力は、現在数ある様々なブランドを束にしても、まだ遥かに及ばないくらい大きかったと思う。
石津氏は常々「我々が提案しているのは単なるファッションではない。ライフスタイルである。生き方そのものなのだ。」といった発言をされていた。
そしてその発言通りの生き方、ライフスタイル、美意識といったものを自ら示された。そんな氏の影響力もあって、VANの人気は一過性のものではなく、昭和の時代かなり長く続いたのである。
これはそのVANで購入したスタジャンです。
久しぶりの出会い
さて、そのかつての大ブランド、VANとKent。この両ブランドのみを取り扱う専門店が、東京の青山通り沿いに1店舗だけ残っている。以前は同じ青山通りと外苑西通りの交差点というもっと一等地にあったのだが、今は引っ越して青山通り沿いの古いビルの3階にひっそりと小さなショップが一軒だけである。
VANが倒産した後も、引っ越す前の店には時々通っていた。その後、このショップだけがずっと残っていたことは知っていたが、私が東京を離れたこともありなかなか訪れる機会はなかった。(HPはありますのでよかったら見て下さい。)
2010年代になって、上京した折初めてこのショップに行ってみた。店内にはトレーナーやBD(ボタンダウン)シャツなど、懐かしいアイテムが昔のままの品揃えである。VANのロゴ入りのトレーナーやTシャツ、ジャンパーなども変わらずにおいてあるのだ。以前からいた女性の店員さんも、私のことを覚えてくれていた。
そんな中で、ハッと1足の靴が私の目に留まった。その靴は、光沢のある深く濃いボルドー色のローファーであった。それは、まぎれもなく昔、青春時代憧れていたアメリカ製のコインローファー、BASS WEEJUNS(バス ウィージュン)であった。当時は高嶺の花で、とても買えなかった1足である。
この靴です。
もはやあこがれの対象ではないけれど・・
ちなみに私が最初に手にしたローファーは国産のリーガル社製のもので、当時バスの半分もしない値段だったと記憶している。確か大学に入ったばかりの1年生の頃だった。
それからもバスは長い間憧れの存在であり続けたが、いつの間にか見かけなくなった。その後、日本でも靴のブランドのバリエーションはいろいろと増えて、私自身もう少しハイブランドのものも買えるようになった。そんなこともあって、全く見かけなくなったバスは、とっくに生産中止にでもなったのだろうと思っていたのだ。
さて、久しぶりに目にするバスは昔と同じ光沢を放ち、若造だった自分が憧れていた頃と同じ佇まいであった。よく見ると、価格も当時とほとんど変わっていない。(2万円くらい)
これは驚きであった。その後の円高と価格上昇の曲線が一致したからだろうか、ヨーロッパブランドのものに比べると随分リーズナブルな価格に見える。
あの頃から約40年が経とうとしている。この間、世の中だいぶ変わった。当時の2万円は学生の身としては目ん玉飛び出るほど高かったに違いない。
で、今はというと、目の前のバスは当時と同じ佇まいとはいえ、あの頃みたいに、もはや憧れの対象ではない。この40年、歳を重ねる間に、より履きやすく歩きやすいバスよりはもう少し贅沢な靴も履けるようになったからである。
40年の時空を超えて・・
さて、現在履いているそれらの靴に比べると、目の前のバスは少しチープに見える。使っている皮もなんだか硬そうな感じが否めない。40年の時空を超えた再会は、「懐かしさ」と同時に、ある種の「落差」も覚えずにはいられなかった。
私は、久しぶりにバスを手にして、そんないろんな思いが入り混じった少し複雑な心情になったのである。とまあ、頭の中ではごちゃごちゃと様々な思いが交錯したとはいえ、結局私はこの靴を購入した。
なんだかんだ言っても「懐かしさ」が「落差」上回ったことになる。IVY少年の必須アイテムであったコインローファーは、実に40年近い時間を経て我が手元に辿り着いたのであった。
思った通り少し硬めの皮は履きならすのに時間がかかりそうである。若い頃は少し背伸びして見上げる対象だった憧れの靴も、今はちょっと気恥ずかしくなるくらい若者向けに見える。
且つ、ビジネスシーンでは履く機会もそう多くはありそうにない。こいつを履き慣らす頃には、俺ももうすっかり爺さんかもしれないな、とも思う。それでも、あの青春の1ページを彷彿させるこいつをしばらく可愛がってやろうと思っている。
長年、憧れておりました。
PS:プロらしいお話ではなくてすみません。
ファッションもマーケティング的視点で見ていますので、
こんなお話にもお付き合いください。
どんな話題でもそれなりに展開していきます。
楽しんでいただければ幸いです。