「文学的香り」を意識してみてください―経営者の情報発信、あるべき一つの姿―後編
何を発信するのか
私はこれまで、現代の企業経営は「情報発信(アウトプット)」が極めて大事であり、経営者は、率先してそれを行なう必要がある、と述べてきました。その「情報発信(アウトプット)」を行なうための媒体には、現在、様々な手段、手法が登場してきています。そのため、昔に比べて個々の「情報発信(アウトプット)」は、格段にやりやすい環境になっています。
それでは具体的に、どんなことを発信し、訴えればいいのでしょうか。「媒体がいろいろあるということは分かった。ただ、発信するその中身がわからないから苦労しているんじゃないか。」という声が聞こえてきそうです。
では、その典型的な切り口を一つご紹介します。
親子喧嘩は分岐点の一つ
例えば、社長がかつて先代(ほとんどの場合父親だと思いますが)とのケンカが絶えなかったとします。そうすると、事あるごとに対立していたというそのことが一つの材料になるのです。
「そんな馬鹿な!親父とのケンカなんぞ、思い出したくもない。嫌な思いばかりさせられたんだ。」と思う人もいるでしょう。無理もありません。どちらかといえばネガティブな思い出でしょうから。
とはいえちょっと待ってください。ここで一呼吸おいて、そのケンカの原因を思い出していただきたいのです。もちろん親子の感情のもつれということは結果的にはあったでしょう。
しかし、その原因の一つが経営方針を巡る争いであったとしたら、意味のないことではありません。それは、先代或いはその前から続いてきた事業を巡る経営の方向性の分岐点だったともいえるのです。
大抵の場合、「親父の言う通りだった。あのとき、全面的に先代のいうことを聞いていればよかった。」なんてことはあり得ないだろう、と私は思っています。もちろん、先代のいうことにも一理あって、当時の自分には理解できなかった、ということもあるとは思います。
しかしやはり、その時代、若い社長が「こうではないか。」と考えたことは、それまでの考え方ややり方がもう違ってきている、変える必要がある、と判断したからにほかなりません。つまり、親子喧嘩、特に経営者のそれは、事業を巡る旧時代と新時代の代理戦争のようなものです。少なくとも私が見てきた多くの事例には、そういった様相が多々見られました。
意義ある通過点
かくいう私も、父とは随分ぶつかりました。父は、それまで自分のやり方で、ある程度の成功を収めていました。尚且つ、地方におけるほかの産業がかなり廃れて行っている中で、まだ一定の事業性は保っていましたので、父は自分のやり方を変える必要性など微塵も感じていなかったのです。
私は、それまでの父のやり方を否定するつもりはさらさらなかったのですが、そのままの延長で未来へ向かってやって行けるとも思えませんでした。いろいろと考えながら、新しい機軸を次々と打ち出す私と「これまでの、俺のやり方のどこが悪いんだ!」と思う父とはしばしばぶつかったのです。
そこの親子喧嘩の場面だけ思い出すのは、私もごめんこうむりたい気分です。しかし、あれは経営方針のぶつかり合いだったんだ、と思えば、今進行している事業にとってもそれなりに意義のある通過点だったといえるのです。
これはほかのどの事業にも当てはまることです。老舗企業が、昔からの伝統的な事業を続けていたとしても、常に革新は必要です。
しかし多くの場合、先代が後継者が打ち出す革新性を、全面的に理解し受け入れることは難しいといえましょう。それは厳密にいえば、マインド(精神)の問題というよりも、人間の脳の構造の問題かもしれません。
ストーリー(物語)こそ企業の貴重な財産
まあ、それはともかくとして、その親子ゲンカのときに交わした言葉、ぶっつけ合ったいろいろな思いというのは、経営の転換点という意味では、振り返って整理してみるのは意味のあることだと思います。そのことを、今現在社長が行なっている事業の形成過程にどのように位置づけるか、ということです。
そこを深く考察してみれば、それは一つのストーリーとして、外へ向かって伝えるべき内容のものになるのです。このストーリー(物語)こそ企業の貴重な財産ではないでしょうか。
このように、これまで経営を巡って起こった様々なエピソードを、現在進行中の事業に投影させてみるという作業を行なってみて下さい。そうすれば、親子の対立一つもただの内輪喧嘩ではなく、発信すべき情報として第3者に伝えるべき内容に昇華させることができます。
このほかにも「今まで身の回りであれこれと起こって経験した話の中身が、そんな意味のあることなのだろうか?」という疑問には、今後いろいろな形でお伝えしていきたいと思います。(了)
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「ここはアフリカか?!?」と見まごうばかりの志布志の夕暮れ。