あらゆるものが端末になる世界―競争はアプリからボットへ―Ⅲ(おしまい)
[「上司説得型マーケティング」からは生まれない世界]
さてここからが、ピーター・ドラッカーのいう「企業の使命は、市場の創出である」という言葉を受けた上での著者の最も重要な提言になります。
― アップルやダイソンが成し遂げてきたことは、むしろマーケティングの段階では、確信の持てるデータを導き出せるものとは思えません。
両者の商品はトップからの提案なのです。
さらに言えば、すでに類似商品で定番と言われるものがあるなか、まったく新しくそれらの商品を革新したうえに、プレミアム価格まで上乗せしてしまったのです。―
これは、日本のトップ企業家にとって耳の痛い提言ではないでしょうか。
技術が優れ、商品の機能性、安全性や堅牢性もトップクラスで、生産コスト面だけが弱点とされてきた日本製品が、新しい機軸を打ち出せないままでいたとき、このような現象が起きてしまったのです。
しかも、日本製品はそれだけ優れた製品にもかかわらず、プレミアム価格をつけることなど到底考えられません。
価格競争の中でむなしく敗れていったのです。
確かにアップルやダイソンが打ち出してきた革新性は「上司説得型マーケティング」からは決して生まれない、というのは理解できます。
マーケティング的にもまともなデータなど引き出せないだろうと思います。
ここにこれまでのマーケティングの限界があるのではないでしょうか。
アップルやダイソンの成功について著者の小林氏は次のように続けています。
― いったい誰が、定番かつ、どんどん安価になる一方だと思われていた携帯電話、掃除機、扇風機といった商品を革新できると思ったでしょう。
このようなイノベーションは、「上司説得型マーケティング」を繰り返していては生まれきません。
当然のことながら、まずトップのビジョンありきです。
これは商品力としては最強です。
それは、インタンジブル(無形のもの)であり、複製できません―
物質文明が極度に達したといわれる現代先進国社会において、いわゆるレッドオーシャン、飽和状態の市場はいくらでもあるといわれています。
もう新規参入、新規需要の掘り起こしなど到底無理!と言われている世界のことです。
上記のように、携帯電話や掃除機、扇風機といった家電類はその最たるものだったでしょう。
しかし、アップルやダイソンは、これらの市場を新しいコンセプトの商品で、再びこじ開けました。
かつてのユニクロも、もはや新規参入の余地などない、と言われていたカジュアル衣料の分野に打って出て、今や日本一のアパレル産業となったのです。
考えてみれば「もう無理!」というのは、「上司説得型マーケティング」を繰り返すしか能のない企業のイクスキューズなのかも知れません。
この筆者が言われるようにトップの優れたビジョンがあれば、この現状はいくらでも打破できる可能性があるのです。
これも革新?
つづく