労基署からの残業代支払命令は絶対?
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労基署への申告のうち、賃金不払いが圧倒的な割合を占める
少し前のデータですが、労働者からの労働基準監督署(以下、「労基署」という)への申告件数は44,736件でした(平成22年)。そのうち、賃金不払いに関する申告は、31,852件で、圧倒的な割合を占めています。そのような状況の中、ある日突然、あなたの会社に労基署から立ち入り調査(「臨検」といいます)の連絡が入り、その調査の結果、「未払い残業代を2年間遡って支払え」という是正勧告が出されたら、どのように対応しますか?
労働もしていない残業に対しては、勧告に従う必要はない
前提として、会社が残業を命令し実際に労働したにもかかわらず残業代が労働者に支払われていない場合、それは労働の対価としてきちんと支払う必要があります。これは当たり前のことです。その点を指摘されているのならば、是正勧告には素直に従う必要があるでしょう。
ただ、問題となるのは、実際に労働もしていない残業に対しても、労働基準監督署の是正勧告に従って支払う必要があるのか、ということです。これに対しては、答えはNoです。
残業代も労働時間に対して支払われるもので、労働時間は「使用者の指揮監督の下にある時間」です。ということは、労働者が自分の勝手な判断で行った残業、付き合い残業等は認められません。労働時間(残業時間)をめぐって納得がいかない場合まで、労基署の言う通りに100%支払う必要はないのです。
是正勧告は、労基法に違反する事実があった場合に出されるものですが、労基法違反が必ずしも明確でない場合までこれを認めるというのは、会社にとって受け入れがたいのではないでしょうか。このような場合には、会社側の立場と見解と示して労基署に理解を求める対応が必要と考えます。労基署と法律的な議論を要する場合には、専門家に交渉を依頼するというのも一つです。
労基署には検察庁へ送検するという強力な権限が
とはいっても、労基署(労働基準監督官)には、悪質なケースの場合、検察庁へ送検するという強力な権限があります。残業代未払いのケースですと、残業代未払いで是正勧告を受け、支払う金額が「確定」したのにもかかわらず、指定した期日までに支払われなかった等の場合に、悪質なケースとして送検されることがあります。
検察へ送検され、刑事告訴ということになれば、罰金刑や懲役刑が科される可能性がありますし、何より事件が公表されマスコミでも大きく取り上げられることになります。会社としての社会的信用性に与えるダメージは計り知れません。
労基署からの是正勧告には、基本的には積極的・協力的に従う姿勢をもち、それを労働環境の向上への機会と捉えるくらいの発想の転換も必要だと思います。
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