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心の発育を阻む「1歳児のスマホ」

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1歳児の74%がスマホを利用。抱かれる一抹の不安

心の発育を阻む「1歳児のスマホ」

最近、ネット上で「1歳児の74%がスマホを利用している」という統計結果が報じらました。そのアンケート調査によると、0歳児では24%なのが1歳で急増、2歳で85%となり、その後は90%前後で変化なく推移するようです。利用の内容は、お気に入りのキャラの動画、ゲーム、知育アプリなどが主なものです。スマホの登場で、赤ちゃんが言葉を憶える前から、PCの操作法を学び始める時代となりました。画期的な進歩です。

しかし、同時に一抹の不安を抱かれることでしょう。今日、ネット依存が個人を蝕んでいるほか、企業もIT中毒により創造性を失いつつあると警鐘が鳴らされています。

1歳前後は外の世界に関心が開かれ、想像力が育まれる時期

乳幼児の心の発達の上で、特に1歳前後というと、離乳期にあたります。また、運動能力が発達して自立歩行を始める時期であり、認知能力も高まるために外の世界に関心が開かれて、お母さんから物理的に離れ、いわば「冒険をしていく」ことが際立った特徴です。それまでは、お母さんに抱っこされて一心同体のように来たのが、この時期にはお母さんから離れ出し、自分の興味の向くままに動き始めます。もっとも、歩行と言っても「よちよち歩き」ですから、お母さんと離れることには強い不安も心の底の方では感じているわけです。離れては、お母さんのいないことに気づき、お母さんの元に戻るという行動を繰り返します。これが3歳くらいになると、お母さんが目の前にいなくても安心して、ある程度一人で過ごせるようになってくるとされています。

お母さん離れをして一人で平気でいられるようになるのは、子どもが想像力を働かせて、「目の前にいなくても、本当にいなくなったわけではない、お母さんはちゃんと傍にいてくれている」とわかっているからでしょう。また、逆に「お母さんが目の前にいない」からこそ、想像力が発達してくると言えます。

刺激的なアプリの世界では、子どもは想像する必要がなくなる

私が心配しているのは、赤ちゃんの「おもり」のためにスマホを持たせるような場合です。1歳前後のこの時期、子どもは外の世界をいわば冒険し始めるのに、ゲームで慰めてくれるアプリは「アメ玉」のようなもので、安全なまま強い満足感を起こす刺激を与えてくれます。一方、外の世界の冒険では。万が一のことがあれば、自分で身を守らなければなりません。しかも二次元ではなく、五官で体験する生きた世界なのです。アプリの世界は刺激的で面白すぎるので、放っておくと「食べ過ぎ」になってしまうでしょう。

また、欲しいときに欲しいだけ目の前に映像が現れるので、全能感を刺激されやすいといえるでしょう。これらのことが、中毒性につながりやすい要因ではないかと思います。現実では、欲しいときに欲しいものだけが現れるものではありません。せっかくお母さん以外に魅力的なものを発見して、独り立ちしようとする時期に、アプリの映像に関心が貼り付いてしまったら、子どもは想像する必要がなくなり、心の発達が阻害されてしまうでしょう。ですから、この時期は、子どもが自分なりに一人で現実の世界と接することを最優先してあげるべきです。その上で、並行してアプリの想像の世界も親と一緒に少しずつ経験させれば良いのではないでしょうか。「おやつ」の与え過ぎにならないように。

ネットによる人間関係も、現実の関係があった上に相手のことを想像して成り立ってくるものです。ITの仮想空間を使いこなすためには、まずしっかりとした現実感覚に基づく想像力が不可欠です。そのために、やはり昔ながらの子育てのやり方は相変わらず役に立つと思います。この基礎に立ってIT学習をさせれば、子どもはその弊害のリスクを克服して、新たな進歩をもたらしてくれる。そう信じたいものです。

池上司

精神科医・ユング派分析家として心理療法を行う専門家

精神科医

池上司さん(池上メンタルクリニック)

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