技術流出を防ぐ企業の労務管理
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企業の技術流出は国益にも直結する深刻な事態
先日、東芝と提携している米企業の元技術者が、東芝の営業秘密の研究データを転職先の韓国企業に不正に提供した疑いで、警視庁に逮捕されました。あらためて日本企業の技術が海外から狙われていることを裏付ける事件でありましたが、これは氷山の一角といわれています。このような技術流出は、一つの企業内の問題ではなく、国益にも直結するほど深刻な事態となっており、政府は法律面も含めて抜本的な見直しをしようと、すでに動き始めています。一方で、政府の対策だけに頼っていても問題は解決できません。今回は労務管理の視点から、企業が技術流出を防ぐための対策について考えてみます。
賃金等の待遇改善だけでは技術流出は防げない
今回は、研究データを無断でコピーし、転職先に提供した疑いがあるといわれていますが、仮に法律でいくら制限をかけても、また、会社のルールをどれだけ厳しくしても、悪意のある人物が手を加えれば情報を持ち出すことは可能なことが多く、完全に防ぐことは不可能です。それでも企業は、できる限りの対策を講じなければなりません。今回逮捕された元技術者は、賃金等の待遇に不満を持っていたといわれています。そのようなことから考えれば、賃金等の待遇の改善や、その他の労働条件などに対しての不満を解消してあげる努力は惜しんではいけません。
しかしながら、待遇を良くすれば技術流出を防ぐことができるのかというと、そうではないと思います。人の心が動くのは、お金だけではありません。例えば技術者の職場内での地位や役割、そして人間関係などを含めて、仕事のやりがいを常に感じてもらえるような環境づくりを行うことも大切です。また、適切な人事考課を行い、モチベーションアップのためのさまざまな施策も考え、仕掛けていくことも流出の予防につながるといえます。
また、企業側の守りの視点からの対策としては、まず機密情報にアクセスできる人を制限することが最も重要です。さらに、制限するだけでなく、アクセス権限のある者以外が物理的にアクセスできないように環境面から徹底的に見直しをしなければなりません。
技術や情報の流出に関する社内研修の充実を
就業規則にも守秘義務に関する厳しい条文を追加し、あらためて全社員にその守秘義務契約の内容について細かく説明する機会を設けることも、今すぐにやっておきたいところです。今さらいうまでもありませんが、退職時に情報流出を禁じる守秘義務契約を結ぶことも絶対に忘れてはいけません。
日頃から従業員に対しての技術や情報の流出に関する社内研修を充実させ、「流出を必ず防ぐ」というスタンスでのぞみ、「このような環境下では、技術を持ち出すことはできない」と諦めさせるくらいの完璧な職場環境を構築していかなければなりません。労働トラブルがきっかけとなって従業員が退職に至ったときは、かなり危険性が高いといえるため、企業側も従業員の行動を先回りしてガードしておくことも必要です。
技術流出は、各企業が自らの力で何とか防がなければなりませんが、今後は有効な対策などを企業間で情報交換し、効果的なマネジメント方法について議論する機会なども設けてみるのも一つの方法でしょう。
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