高齢者の交通事故で家族に賠償責任?
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高齢者の交通事故が増加。本人に「責任能力がない」場合は?
最近、高齢者の交通事故が増加しているようです。アクセルとブレーキの踏み間違いによる店舗への衝突、高速道路での逆走などのほか、道路での交通事故以外にも電車との接触事故というケースもあります。
交通事故を起こした場合、法律的には、加害行為を行った本人が民法709条の不法行為に基づく損害賠償責任を負うことが原則です。 しかし、本人に「責任能力がない」という判断が下された場合には、民法714条により、その家族が監督責任を理由に被害者に対する賠償責任を負う可能性があります。
名古屋地裁で、家族に賠償責任を負わせる判決
昨年、名古屋地方裁判所では、認知症の男性が線路に入り列車と接触して死亡した事故に対し、鉄道会社から男性の家族に対して起こされた電車遅延等を理由とする損害賠償請求訴訟について、男性の徘徊行為が予見できたのに家族の監督が十分でなかったなどの理由から男性の家族に賠償責任を負わせる判決を言い渡しました。
男性の家族側が控訴したので、この事の最終結論はまだ出ていません。ですが、電車事故に限らず普通の交通事故の場合でも、このケースと同じように認知症の高齢者本人に「責任能力がない」という判断が下されてしまうと、家族が賠償責任を負ってしまう可能性があるのです。 もっとも、民法714条によれば「監督義務者がその義務を怠らなかった」場合や、その義務を怠らなくても損害が生ずべきであった」場合には、責任を逃れられることになっています。よって、「監督義務を果たしている」といえる場合であれば、本来家族が責任を負う必要はないはずです。
判決には批判も。社会全体として事故防止を考えるべき
昨年の名古屋地方裁判所の判決に対しては、家族に行き過ぎた義務を課したのではないかという批判もあります。高齢者の事故の責任を全て家族に負わされてしまうということになれば、家族が高齢者の監督を拒否したり、高齢者に対する管理監視を過度に強化したりすることになりかねません。ただし、家族に責任を負わせる判決が現に出ている以上、認知症の高齢者を抱える家族としては、自分たちが責任を負わされる可能性があるということは知っ ておくべきだと思います。また、高齢者に対して全く何の配慮もしていなかったということになれば「義務を怠らなかった」とは言いにくいので、最低限やるべきことはやっておく必要があるでしょう。
家族が高齢者本人を尊重し、大切にしようとする意識をもって最低限やるべきことをやっていれば「監督義務を果たしている」と評価されるような、社会全体の意識を作っていくことが求められるのではないかと思います。 さらに、事故防止という観点からは、家族の監視監督というだけではなく、社会全体として事故発生をどのようにして防ぐのかということを考えていくべきでしょう。
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