「尊厳死」とは?法制化の賛否
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「死期の引き延ばしをしない」尊厳死。法制化を進める理由
尊厳死とは、「積極的な延命措置を行わずに、自然の経過のまま生命を終えることをいう」とされています。似た言葉に「安楽死」がありますが、「死期の引き延ばしをしない」という尊厳死とは違い、安楽死は患者の苦痛を除去するために「死期を早める」という大きな違いがあります。また、尊厳死はあくまでも患者本人の意思に基づく必要があるとされています。この点でも、家族などの第三者の意思に基づいて行われる可能性のある安楽死とは区別されるようです。
最近、「尊厳死」を法制化する動きがあるようです。法制化を進める大きな理由の一つとしては、既に延命措置を行っている患者について、医師が殺人罪等に問われることを恐れて延命措置をやめない傾向が強いといわれていることが挙げられています。現在検討されている制度としては、臓器移植の場合と似ていて、「延命措置を望まない」という本人の意思をあらかじめ書面で示しておくことを条件にすることが考えられているようです。この書面が存在し、かつ、医師によって死期が間近であると認めた場合は、尊厳死として延命措置をしなくても良いことになります。そして、このことによって医師が責任に問われることはありません。
死期が間近であることの判定について明確かつ厳格な基準が不可欠
しかし、以前から尊厳死には賛否両論あります。賛成派は、患者自身の意思や人間としての尊厳の尊重、医師の責任問題が中心に挙げています。ですが、実は背景には、今後の高齢化社会における医療費の抑制という面が存在するのではないかとも思われます。他方、反対派は、難病患者など医療提供を受けなければ生きられない社会的弱者に死の自己決定を迫ることにつながるおそれや、命の軽視を主張しています。
人間の尊厳というものは、憲法上の人権の根幹をなす大事な価値観であり、それ自体は最大限、尊重されなければなりません。その意味では、尊厳死を認める考え方も一定尊重されて良いのではないかと思います。 ですが、反対派の意見も非常に重要です。現在も心臓ペースメーカーなどの器具を使用した治療が盛んに行われており、これを延命措置と呼ぶ人はいないと思いますが、どのような患者へのどのような器具の使用が延命措置なのかを判断するのは実は非常に難しい問題なのです。
尊厳死の法制化によって、必要な人に対する必要な治療が行えなくなるような事態だけは避けなければなりません。その意味で、法制化にあたっては、死期が間近であることの判定について、特に明確かつ厳格な基準が不可欠となります。また、この基準が明確であることが、最終判断を行う医師を責任問題から救うことにもつながるのではないかと考えます。
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