「ど忘れ」とアルツハイマー病の違い
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後になって思い出せたなら、病的な「もの忘れ」として扱わない
「もの忘れ」といっても、内容はさまざまです。そもそも、ちゃんと覚えていなかったことを思い出そうとしても、それはきちんとした記憶の形になっていないので、思い出せるはずがありません。「ないもの」を探しても、それは無理というものです。
また、「モノや人の名前が出てこない」といった訴えを、「もの忘れ」と言う人もいます。この場合、例えば洗濯バサミを見せて「これは何ですか?」と問うたとき、「うーん、なんて言うんだっけ?」と答えられずにいても、次に「何に使いますか?」と聞けば「洗濯物を干すときに、衣類が落ちないように留めておくもの」と、それが何なのかをちゃんとわかっていることがほとんどです。つまり、名前が素早く出てこないだけのことなのです。
人の名前についても同様で、Aさんという友人の写真を見せて「この人は誰ですか?」と質問して「すぐに出てきません」と言っていても、Aさんを含む数人が写っている写真を見せて「Aさんはどの人ですか?」と聞くと「この人です」と迷わず答えられるのならば、ちゃんとAさんの顔は覚えているということになります。
このような現象は、必要なことを思い出す働きが遅くなった結果と言えます。ずっと後にふいに思い出したり、話している相手から「ほら、あの時のあそこで」などのヒントをもらったりすると、ピンときて「そうだった」と思い出せる。これは、いわゆる「ど忘れ」です。そして、勘違いや思い違いを「もの忘れ」ととらえていることもあります。「出来事そのもの」「それが起こった場所」「時間」の三つが揃わず、いくつかの出来事やそれらの起こった場所や時間がごちゃごちゃになっているのです。これらの場合は通常、病的な「もの忘れ」として扱いません。
アルツハイマー病は、記憶の形を新しく作れなくなる
では、アルツハイマー病の「もの忘れ」とは、どのようなものなのでしょうか。アルツハイマー病の場合、記憶の形を新しく作れなくなって、刻々と変化している身体内外の現状を上手く判断できないために、昔の出来事の記憶にひきずられて行動してしまうことがあります。つまり、昔の記憶を奥にしまって、今必要な記憶を新しく迎え入れることができにくくなるのです。そのため、現在の状況と行動が「ちぐはぐ」になってしまい、周囲には「徘徊」や「妄想」といった問題行動に見えてしまうことになりますが、本人にはそうする理由があるのです。※このメカニズムについてもっと詳しく知りたい人は、臨床医が語る認知症の脳科学 (岩田誠.日本評論社. 2009年11月30日第1版第1刷発行)を読んでみてください。
アルツハイマー病を始めとする認知症では、もの忘れ・徘徊・妄想のイメージが広く浸透しているかもしれません。自分が理解できない出来事などに対して恐怖を覚えたり、途方に暮れることになるかもしれませんが、「なぜ、そうなるか」の理由が少しでもわかれば、恐怖は薄らぎ、できることが見つかる可能性もあります。
補足ですが、65歳未満で発症した認知症を若年性認知症と呼びます。ある統計では、日本における若年性認知症の患者数および有病者数はこの10年間ほぼ同じで、人口10万人対し患者数は47人です。また若年性認知症の原因としては、アルツハイマー病の割合が増加しつつありますが、最も多いのは脳血管性認知症です。
認知症診断と治療のプロ
宮﨑裕子さん(内科・脳神経内科・リハビリテーション科 宮﨑ゆうこクリニック)
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