ドワンゴの入社試験料が合理的なワケ
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新卒採用制度に一石を投じたドワンゴの試み
アベノミックスの効果が取り沙汰されていますが、現状では、まだ就職氷河期は解消されていません。学生は企業に対する就職活動で50社、100社と数多くエントリーし、企業はあてにならない学生に対する採用活動の継続を余儀なくされます。こうした悪循環になっている動きは、学生と大企業のマッチング作業においてであり、学生と中小企業との間ではほとんどみられません。多くの学生が大企業を就職ターゲットとしているからです。
そのような中でドワンゴグループが2015年卒の人材採用から、2525円の有料の採用選考試験制度を導入することを発表しました。新制度の適用対象は、一都三県(東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県)在住の学生です。企業の新卒採用制度に一石を投じることになるものの、社会的影響が大きい奇抜な制度にもなりかねないことから、社会的に、また、法的にその合理性が問われることになります。ここでは、まず社会的合理性に触れ、最後に法的合理性について見てみます。
大企業を中心に効率性の高い雇用のマッチングをもたらす
有料の入社試験制度は、「この会社の内定がほしい」と強く思う学生を効率よく集合させ、意味のないマッチングをそぎ落とす役割を果たすと考えられます。学生側も、受験料の納付という行為によって、チャレンジ精神に火が付くかもしれません。企業が採用戦略を描く過程の中で、有料の採用選考試験制度の意味を重視する企業が増えれば、新卒採用の新制度として普及することで社会的な地位を得ることが予想されます。ドワンゴが始めた制度は、確立された入社試験制度のある大企業中心に、効率性の高い雇用のマッチングをもたらす点で社会的合理性があるといえるでしょう。
抵抗感を持つ学生が中小企業の応募に流れる?雇用の流動化に期待
しかし、入社試験の受験料の2525円に対して学生が抱く価値は一様ではなく、抵抗感を持つ学生も少なくないと考えられます。新制度の導入期に多くの摩擦が生じることは、これまでの定説です。こうした有料の入社試験に価値を見出さずに抵抗する学生のうち、それまで大企業志向だった人が、有料の入社試験制度を導入していない中小企業の応募へと流れることが考えられます。労働市場全体に雇用の流動化のうねりを引き起こす役割を果たすことも想起されるのです。中小企業への就職活動が活発化し、新たなマッチングをもたらすことも期待できます。
有料の入社試験制度は職業安定法に抵触しない
一方、法的リスクはどうでしょうか?有料の入社試験制度の導入の法的な妥当性について知っておくことが必要です。労働者の募集に従事する者は、募集に応じた労働者から報酬を受けてはならないとする規定(職業安定法39条)があります。しかし、厚生労働省の労働者募集業務取扱要領「Ⅳ労働者募集の原則」では、募集に応じた者から雇用することになる者を選考する行為が採用試験であり、募集行為と区別しています。法39条は、募集に際し報酬を受けることを禁止しているものですから有料の入社試験制度の導入は、同法に抵触しないと考えられるため、法的リスクの点でも合理性を満たしているとみることができるでしょう。
社会的にも法的にも合理性を満たす有料の入社試験制度。すっかり凝り固まってしまった雇用市場に、新たな雇用の流動化を引き起こすきっかけとなってほしいものです。
労務全般の助言と支援、リスク予防と対策を得意とする特定社労士
亀岡亜己雄さん(首都圏中央社労士事務所)
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