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会社内に「ヘンズツウ部」、持病の治療や通院のための取り組みや制度の現状は?

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ロックバンド「サカナクション」の山口一郎さんがその痛みの激しさを告白したことで話題にもなった「群発性頭痛」。また働き盛りに多い「片頭痛」も、発作がくると極端に仕事の効率が下がり、周囲の無理解によってさらに苦痛が増すと言われています。

製薬会社日本イーライリリー株式会社(本社 兵庫県神戸市)では、片頭痛に対する周囲の理解と啓発のために「ヘンズツウ部」を発足。「疾患を抱えても能力を発揮できる職場」を目指して活動しています。

一部では在宅勤務やフレックス勤務が増えて、身体的な負担が軽減したという声もありますが、持病や健康課題を抱えて働く人はなお少なくありません。持病の治療や通院のほか、頭痛や生理痛、季節性のアレルギーなどは、本人にとって仕事どころではなくなるほどの症状でも他人には理解されにくく、ひんぱんには休みをとりにくいもの。

健康維持と仕事の両立のために、職場環境を変える動きは今後広まるのでしょうか?社会保険労務士の神野沙樹さんに聞きました。

制度や病気についての周知は、現場の地道な活動から。職場環境を戦略的に整える「健康経営」が企業価値を高めるための欠かせないキーワードに

Q:働き方改革の推進で、年次有給休暇の取得促進をはじめ、「休み方」や「休暇制度」について見直されている印象があります。労働者の権利として取得できる休暇には、どのようなものがありますか?
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労働者の権利として法律で決められている休暇制度の主なものには、年次有給休暇、生理休暇、育児休業、介護休業などがあります。

また、育児休業とは別に子どもの病気看護や予防接種などの通院に適用する「子どもの看護休暇」、家族の介護の際に利用できる「介護休暇」もあります。これまで1日か半日単位でしか取得ができなかったのですが、2021年1月から時間単位の取得が可能となりました。

このほかに、病気休暇、ボランティア休暇、リフレッシュ休暇、裁判員休暇、慶弔休暇、永年勤続休暇など、任意で独自の休暇制度を導入している企業もあります。

持病の通院や治療に使える休暇制度の内容では、年次有給休暇や病気休暇のほかに、失効年休積立制度(失効した年次有給休暇を積み立てて、病気等で長期療養する場合に使えるようにする制度)などがありますが、いずれも導入している企業は多くありません。

近年はこうした休暇制度とは別に、個人向けの医療保険の一部を企業が負担して、病気や手術の際の入院費用に充てたり、インフルエンザの予防注射費用をカバーするなど、企業の福利厚生でサポートする動きも見られます。

ただし、これらも企業規模や企業風土により差があるのが実情です。

Q:長期の病気療養ではなく、病後の定期的な通院や慢性的な持病による不調に使える休暇制度の整備はあまり進んでいない印象ですが、現状は?
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厚生労働省の調査によると、病気休暇制度を就業規則に定めている企業は、ほかの特別休暇などで代用しているケースを含めると8割程度あるものの、半日単位・時間単位の制度に関しては個別に対応しているという企業を含めても半数前後しかありません。※

さらに、中小規模の企業で実際に活用されているかどうかとなると、この統計の数字とはほど遠いものがあります。仮に就業規則に手厚い休暇制度の記載があっても、現実にはその制度が個人の事情に即して利用できているというケースは、まだ少ないのではないでしょうか。

また、持病による体調不良や通院は、ある程度定期的にやってくるものですから、通常の有給休暇では日数が足りないこともあるでしょう。勤務年数が少ない人で有給休暇の付与日数が少ない場合や、育児中でほかにも有給休暇を使う用事がある人などはなおさらです。「がまんする」か「欠勤」かの、いずれかを選ぶしかないように思います。

※令和元年度『「仕事と生活の調和」の実現及び特別な休暇制度の普及促進に関する意識調査』

Q:就業規則に半日や時間単位の病気休暇制度や生理休暇などがあっても、実際に利用しにくいのはなぜでしょう?
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「繁忙期に休みにくい」「他の人の負担が増える」「まわりに病気のことを知られたくない」のほか、「頻繁に休むと仕事の評価に影響するのでは」というような心理的な理由が大きいようです。

男性の育児休業の取得が進まない理由にも似ていると感じます。

しかし一方で、月に1~2日の有給の生理休暇を取得できる企業もあります。また生理前の不調についても、一部の企業では医師の診断書などがなくても取得できるとしています。もちろん企業の規模や特色、女性社員の割合などにもよりますが、体調不良でつらい時には「休みたい」と言いやすい制度を作ることが大切だと感じます。

Q:日本イーライリリーの「ヘンヅツウ部」のように労働者自身が声をあげたことから、一部で病気や体の不調に関係する職場環境を変えようとする動きも。このような例はほかにもあるのでしょうか?
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「ヘンヅツウ部」は独特なネーミングで注目を集めましたが、内容を見ると片頭痛を持病に持つ人の実態調査や、それに基づくワークショップなどが主な活動と、どちらかと言えば地道なものです。「きっかけは片頭痛ですが、どんな疾病であれ相互理解が進むことで働きやすくなり、生産性も向上する」と言う広報担当の発言が印象的です。

メディアでは化粧品関連のオルビス株式会社(本社 東京)が導入した「ウエルネス休暇」があります。女性特有の体調不良に関して、生理だけでなく更年期や不妊治療の通院にも適用できるほか、一部有給扱いに。企業の福利厚生でケアする取り組みを開始したと報じています。

こうした大企業の取り組みはたびたび大きく報じられますが、企業規模に関わらず「労働者の声をくみ上げて社内の空気が動く」という現象は珍しいことではなくなってきています。

女性社員の要望から「生理休暇の名称を別のものに変える」「一般的な健康診断に加え婦人科系の健診も追加できるようにした」というケースや、「インフルエンザの予防接種の受診率が低いことに悩む担当部署の発案で、医師を自社に派遣させて確実に制度を利用できるようにした」なども。

予防的な取り組みではほかに「ウオーキングの努力目標を賞与に反映させる」「禁煙の取り組みを全社的なキャンペーンにする」など、大小さまざまな工夫が見られます。

Q:厳しい経済状況ですが、人材確保のためにも健康不安を解消しながら働くことができる職場環境を整えることは、企業と労働者ともに一層重要になりそうです。今後の課題は?
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現在の制度上の不備など、解決すべきことはたくさんあります。さらに企業にとっては厳しい経済状況の中で、いかにコストを削減し生産性を上げるかということも重要な課題です。

それでも、やはり「企業は人なり」ですから、社員一人ひとりが健康であり続けることができる環境を整えることが、企業の責務であることは間違いありません。

まず、休暇制度や取り組みについて社員が正確に知るために、適用できる制度の内容の周知が必要です。同時に制度を利用した人が、同じ部署で働きにくくなったり、不本意な配置転換・降格をされることがないように、職場全体に病気への理解や協力が求められます。

新しい制度を導入しようと提案すると「ウチの会社・ウチの業界では無理」と言われることもあります。

しかし、兼業・副業も珍しいことではなくなり、普及が進まなかったテレワークやフレックス勤務さえも、必要に迫られる形で浸透しています。多くの人が「企業と社員が連携すればここまでできる」と実感したのではないでしょうか。

「仕事に合わせて生活する」というこれまでの日本人的な働き方は、「個人の生き方に合わせて働く」という方向へ、社会全体が大きくシフトしています。

優秀な人材を確保したい企業にとって、旧態依然の制度に固執することなく、個人のワーク・ライフ・バランスにも配慮した職場環境を構築することが、企業存続の必須条件としてこれまで以上に求められるはずです。

今後より一層、労働者の健康管理を戦略的に実践する「健康経営」が、企業価値を高め成長するためのキーワードとなるでしょう。

神野沙樹

「活き生き組織」をともに作る社会保険労務士

社会保険労務士

神野沙樹さん(株式会社Niesul(ニースル社労士事務所併設))

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